老後を健康に過ごすには、どうすればいいのか。医師の早坂信哉さんは「健康食品などに頼るのも手だが、私はお風呂をおすすめしたい。延べ7万人を調査した結果から、大きな健康効果が期待できるとわかったからだ。夏場は暑くて湯船につかりたくないという人でも、おすすめの温度・時間がある」という――。(第2回)
ジャグジーのスイッチがオンになった湯舟
写真=iStock.com/Mario Arango
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湯船につかると“血流が良くなる”

夏は、湯船につからずシャワーだけで済ませる、という方が増える時期ではないでしょうか。汗を流すだけならシャワーで十分ですし、実際、体臭対策という点ではお湯のシャワーが有効と言われています。

(参考記事:汗拭きシートでも、制汗剤でも、香水でもない…医師に聞いた「朝の1分」で"夕方までニオイを抑える"体臭対策

ただ、それとは別に、夏でも湯船につかることには大きな意味があります。シャワーでは得られない健康効果が、湯船にはあるからです。

その最大のメリットが、体を温めて血管を広げ、血流を良くすることです。血流が悪くなることは、ある意味すべての病気のもとになります。そして人は、血管から老化が始まると言われています。温めることで血管が拡張すれば、血管の老化を防ぐことにつながる。これはさまざまな研究で明らかになってきています。

一言で言えば、お風呂の力は「温熱作用」です。体が温まることで血管が拡張し、血圧が下がり、血流が良くなる。これがお風呂の一番大事な働きです。

血流が良くなれば、全身に栄養分が運ばれ、炎症物質のような老化につながる物質も除去されやすくなります。とくに深部体温、体の中心部分の温度が上がると、内臓にまで十分な栄養と酸素が行き渡ります。古い細胞が新しく入れ替わる新陳代謝にも、プラスに働くと考えられます。さらに、全身が温まることで免疫力が高まる、ともいわれています。シャワーで体の表面を流すだけでは、ここまでの効果は得られません。

ジムやサプリのような「お金」「手間」がかからない

私はよく「ジムやサプリにお金をかけるより、お風呂に入ってください」とお話ししています。これには理由があります。

運動が健康に良いことははっきりしていますが、これは続けた場合のことです。ジムはお金がかかるうえ、通うのに手間がかかります。入会したものの行かなくなってしまう、という方は少なくありません。雨が降れば面倒にも感じるでしょう。よほど強い意志がないと続かないのではないでしょうか。健康食品やサプリメントも、効果がはっきりしないものが多く、それなりの費用がかかります。

そして、サプリも含め、「健康に良い」とされることには「長期的にどうなるか」がわからないものが多いのです。サプリを何年飲み続けたらどうなるか、という研究はさほど多くありません。せいぜい十数週間で血液の値がどう変わったか、といった短期のデータがほとんどです。

その点、お風呂は違います。9年後の追跡調査のような、長期的な予防効果のデータが出てきています。しかも、ほとんどの世帯に浴室が備わっており、新しく何かを買う必要もありません。家の中にあるから、そこへ行くのに何分も歩く必要もありません。一番手軽で、なおかつ長期的な効果も明らかになってきている。それが湯船での入浴なのです。

「認知症」「要介護」のリスクが下がった実験結果

私はこれまで、数千人、1万人規模の入浴調査を何度も行ってきました。延べにすると、およそ7万人になります。

その中で、最近わかってきた長期的な効果の一つが、認知症の予防効果です。週0〜6回の入浴と比べて、週7回以上湯船につかっている方は、9年後に認知症になるリスクが大きく下がる、という私たちの研究グループからの研究結果が出ています。

(参考:J Balneol Climatol Phys Med 2025; 88(2):73‒82

注目すべきは、これが夏の入浴でも当てはまるということ。冬は効果がやや薄まりますが、それでも十数パーセントリスクが下がり、夏の入浴ではさらに大きく下がります。

メカニズムとしては、やはり血流の改善が一番大きいと考えています。入浴すると頭の中の血流量も良くなります。認知症は、脳にアミロイドβのような不要なたんぱく質が溜まることが関係していますが、血流が良くなることで、こうしたものが除去されやすくなるのではないか。これはあくまで推測ですが、そう考えています。

要介護予防についても、同様の結果があります。元気な65歳以上の方を追跡したところ、毎日湯船に入っている方は、3年後の調査で要介護状態になるリスクが下がっていました。要介護や要支援の認定は市区町村が行うものですが、入浴頻度の低い方に比べて、毎日入る方は明らかにリスクが低かったのです。

(参考:J Epidemiol 2019;29(12):451-456

夏でもお風呂に入る意味は、この2点からも言えるのです。いずれもシャワーだけの方は除いた、「湯船につかる」習慣についての結果です。

基本「40度に10分」、夏は「38度に20分」もOK

では、具体的にどう入ればいいのか。

基本となるのは、40度のお湯に10分、肩までの全身浴です。これまでの多くの研究や私が長年の研究から導き出した、もっとも効果的で無理のない入り方がこれです。半身浴ではなく全身浴を勧めます。肩までしっかり浸かったほうが、体全体がよく温まるからです(通院中の方は入浴法を主治医へご確認ください)。

入るタイミングは、就寝の90分ほど前。これが良い睡眠につながります、睡眠は、若さを保つうえでとても大事です。40度で10分入ると、深部体温が0.5〜1度ほど上がります。そして、お風呂から上がって90分ほどかけて、その体温が下がっていく。この体温が下がるタイミングで布団に入ると、深く質の良い睡眠が取れることが、研究でわかっています。皮膚の表面ではなく、体の中心の温度を一度しっかり上げて、それから下げる。これが「90分前」の理由です。

(参考:Sleep Med Rev 2019; 46:124-135

ただ、夏に40度のお湯はとても入っていられない、という方も多いでしょう。そんなときは、無理せず温度を下げてかまいません。おすすめは、38度で20分。チャプチャプと遊べるくらいのぬるめのお湯に、その分ゆっくり浸かるのです。これくらいの温度なら、夏でも無理なく続けられます。40度でも38度でも、これくらいの温度のお湯は副交感神経を優位にしてくれるので、しっかりリラックスできます。

基本は「40度のお湯に10分」肩までの全身浴。ただ、夏は無理せずに「38度で20分」もおすすめ。
写真=iStock.com/Yusuke Ide
基本は「40度のお湯に10分」肩までの全身浴。ただ、夏は無理せずに「38度で20分」もおすすめ。※写真はイメージです

ただし、温度を下げると、その分だけ血流を良くする効果は弱くなります。そこで活躍するのが炭酸系の入浴剤です。ぬるめのお湯でも、炭酸系入浴剤を入れることで血流をしっかり補える。夏こそ、この組み合わせが力を発揮します。

炭酸系入浴剤は「溶け終わってから入る」

ここで、炭酸系入浴剤の正しい使い方をお伝えしておきます。

よくあるのが、泡が出ているうちに入らなければ、とか、出てくる泡に体を当てた方がいい、という思い込みです。実は、目に見える泡そのものは、ほとんど効果に関係ありません。効くのは、お湯に溶け込んだ、目に見えない二酸化炭素のほうなのです。

湯船で溶けていくバスボムを手にしている人
写真=iStock.com/Henadzi Pechan
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この二酸化炭素が皮膚から吸収されると、一酸化窒素やプロスタグランジンといった物質を介して、血管の筋肉がゆるみます。その結果、血管が広がって血流が良くなる。これが炭酸系入浴剤の本当の働きです。

ですから、泡を浴びようと焦って入る必要はありません。むしろ、入浴剤を入れてから2〜3分ほど待ち、泡がおさまって、しっかり溶けきってから入るほうが効果的です。タブレットが溶けきる前に入るより、溶け終わってから入るほうがいいのです。なおかつ、入浴剤を入れてから2時間以内には入り終えるのが理想です。それを過ぎると、せっかくの二酸化炭素がお湯から抜けていってしまいます。

「湯船につかる習慣」を続けてほしい

正しく入浴することは、若々しさにもつながります。見た目の面でも、毎日湯船につかる方は肌がきれいだ、という美容の専門家の話も聞いたことがあります。

これも血流が関係しているのでしょう。皮膚の奥の基底層で細胞分裂が進み、古い細胞が押し出されて新しく入れ替わる。シワの原因になるコラーゲンも、血流が良くないと、それを作るための栄養が皮膚に届きません。血流を良くすることは、肌の若々しさにも欠かせないのです。

お風呂は、汚れを落とすだけの場所ではありません。各家庭に備わった「健康増進装置」であり、すでにエビデンスもかなり揃った生活習慣です。夏の間は、シャワーで済ましたくなりますが、ぜひ湯船につかる習慣を続けてください。