Webサイトを使った企業広報に、一線級の作家による漫画という新たな手法を取り入れ、一般の人に伝えにくい抗体医薬の世界に大胆に切り込んでいる協和発酵キリン株式会社。その仕掛け人である同社コーポレートコミュニケーション部の長谷川一英氏に、戦略のねらいを聞いた。

――従来のコミュニケーション戦略はどのようなものでしょうか。

長谷川 2008年に協和発酵とキリンの医薬事業が合併して社名が変わり、社名の認知度が下がってしまいました。そこで、社名認知と医薬品の会社であるという業態認知を上げるためのコミュニケーション施策を講じてきたのですが、インターネットを用いたコミュニケーションは2010年からです。テレビのCFと連動してネット上にキャンペーンサイトをつくり、iPadアプリなどもいち早く導入しています。

しかし、それだけでは知名度を100%にもっていくのは困難なので、今度は当社の医薬に興味を持ってくれる人にターゲットを絞って深く知ってもらう戦略に切り替えました。

――具体的にはどのような?

長谷川 2011年と12年はサンダーバードのキャラクターをサイトに登場させ、認知度向上と、当社の強みである抗体医薬を知ってもらうために、サンダーバードの隊員たちとともに勉強できるサイトをつくりました。

――効果はいかがでしたか。

長谷川 20代~50代の3000人を対象とするネット上の調査で、サンダーバードの企画を知っている人と知らない人に分けて、抗体医薬を知っていますかと質問しています。そうすると「名前は知っている」~「よく知っている」まで含めると、サンダーバードのサイトを知っている人では8割を超えました。また、抗体医薬だけでなく社名認知においても効果は得られました。

――そして今年から漫画を導入されました。

長谷川 企画の本筋は抗体医薬を理解していただくということですが、抗体というサイエンスの話なので、やはりとっつきにくい。それを、漫画という媒体を使うことで、わかりやすく伝えることができるのではないかと考えました。漫画によって、サンダーバードの世代より若い世代にサイエンス自体への興味をもってもらえることを期待しています。

――どんな漫画にしたいですか。

長谷川 身体の中で起きていることを単に漫画にするだけではなくて、続けて読みたくなる漫画にしたいですね。長い期間のキャンペーンによって認知を高めていくことが目的なので、1回で飽きてしまうのでは困るわけです。そこで、力のある漫画家にストーリーをつくってもらうことにしました。

――抗体医薬という難解な医薬品について簡単に説明することこそ難しいのでは。

長谷川 その通りです。抗体医薬品は遺伝子工学の技術が可能にしたものです。抗体は人の体の中にあって、病原体などの異物だけを攻撃し、自分の体には作用しません。この性質は、医薬品として理想的です。そのメカニズムをいかにしてわかりやすくするか、たしかにハードルは高いですね。

――ご自身が創薬の研究者であったことが活かせますね。

長谷川 私自身、研究部門から広報へ来て、わかりやすい言葉に置き換えることに従事してきましたし、専門的な内容を平易に翻訳することが得意な研究者にも協力してもらい、漫画家の先生にもご説明しています。とはいえ、あまり深く入り込みすぎずに、この漫画を読んだ人に、抗体医薬というのはなかなかすごいぞと思っていただければ嬉しいですね。