これからの経営戦略において、クラウドの活用は重要なカギを握るといわれる。クラウドサービスとは何か、企業にどのようなメリットをもたらすのかを、この分野に詳しいMM総研 代表取締役所長の中島洋氏に聞いた。

企業のITシステムも
所有せず利用する時代に

中島 洋●なかじま・ひろし
株式会社 MM総研
代表取締役所長
東京大学大学院(倫理学)修士修了。日本経済新聞編集委員、慶應義塾大学教授、日経BP社編集員などを経て現職。おもな著書に『クラウド・コンピューティング・バイブル』(ジョルダンブックス)がある。

インターネットを使い、そのネットワーク内にあるサーバーやソフトウェア、ストレージなどを利用して情報処理を行うことを、クラウド・コンピューティングといいます。それを利用したサービスを総称したのがクラウドサービスです。「クラウド」という言葉は、コンピューター・ネットワークを図で表す際に、インターネット、あるいはその向こう側の領域を雲(cloud)として表すことに由来しています。

クラウドサービスの中で私たちに身近なものが、GmailなどのWebメールでしょう。仕組みを簡単に説明しますと、例えばGmailでは、メールの送受信の記録やメールをやりとりするソフトウェアは、サービスを提供するグーグル社側のサーバーの中に保管されています。利用者は、インターネットを介してグーグル社側のサーバーにアクセスし、メールを閲覧するなどのサービスを受けるわけです。

クラウドサービスで提供されるソフトウェアは、自動的にバージョンアップされて機能が向上していきます。つまり、利用者からすると自分で操作することなく、最新のソフトウェアを利用できるので非常に便利です。一方、クラウドサービスを提供する事業者からすると、自社のサーバーの中に置いたソフト一つをバージョンアップするだけでそれが何万人ものサービス利用者に反映されるので、非常に効率がよいといえます。

このように「自分のところで持たなくても、必要なものを必要なときにサービスとして利用すればいい」というのが、クラウドサービスの考え方です。水道の蛇口をひねれば水が出るように、あるいはコンセントにプラグをさせば電気が使えるように、インターネットにアクセスすれば必要な情報処理ができる。そういう世界です。クラウドサービスの普及に伴い、企業のITシステムの領域でも「所有から利用へ」のシフトが加速しつつあります。