唯一の正答が用意されている「ゲーム」

しかも数学は、答えが一つしかない場合が多いです。国語の論述問題や英作文、和訳などはさまざまな解答があり得ますが、数学の問題のゴールは一つだけ。自分の思考を積み重ねた結果、唯一の正答にたどり着くことができた、という喜びは、ほかではなかなか味わうことができないかもしれません。

特に、社会に出て働き出すと、仕事で「唯一の正答」がある場面はかなり少ないのではないでしょうか。「唯一の正答」がある数学の喜びを享受できるのは、学生の特権なのかもしれません(もちろん、社会人になってからも自分で数学の問題集を買ってきて問題を解けばいいのですが、そういう方は少ないようです)。

ある意味、数学はゲームだと思っています。唯一の正答が用意されていて、頑張ってゴールにたどり着こうとする。そして問題が解けるとうっとりする(笑)。ゲームで敵を倒したとき、ステージをクリアしたときに、達成感が得られるのと似ています。

数学の喜びはそれだけではありません。自分が考えたこと、自分の頭の中にあるものを、誤解なく相手に伝えられるということにも、魅力を感じます。

ここで一点補足しておくと、数学の解答は一から自分でつくり上げるものではなく、まずは先人たちの思考をトレースしてそれを取り入れることが必要です。この点が、巷で「数学は暗記だ」と言われる部分なのかもしれません。

その暗記部分をベースに自分のオリジナルの思考を研ぎ澄ませて、考えていることを初めから終わりまですべて他人に伝えることができ、他人がそれを読んでくれるという経験は、ほかではあまりないことかもしれません。

さらに、日本語ではなく数式で記述するわけですから、誤解が生まれる余地がありません。言葉のコミュニケーションには必ず誤解がつきまといますが、数式のコミュニケーションには間違って伝わる心配がない。それもなかなか気持ちいいものです。

ただ、こうした喜びを得るには、ある程度の演習量が必要です。

数学の問題をただ解き続けるだけでなく、たとえば応用問題などある程度難易度が高い問題に取り組む際に、例題を活用し、正答することで、初めて得られるものです。

ですから、「数学、面白くない」と、途中であきらめる方がいるのかもしれません。でも、一歩一歩、数学の勉強を続けていけば、視界が開けてくる瞬間が必ず訪れます。

上田彩瑛さん
出所=『数学を武器にしてみよう!』(PHP研究所)