学生の価値観が変わり、多様なニーズが生まれている
1996年のサービス提供開始以降、新卒・既卒学生の就職活動支援サイトとして定着した『リクナビ』を抜本的に変えたのはなぜか。『リクナビ』の開発責任者である菊池浩太氏は、決断した理由をこう語る。

株式会社リクルート
新卒プロダクトマネジメント部 部長
『リクナビ』 プロデューサー
「少子高齢化で企業の若者への期待が高まり続けている中で、日本の今後の成長にとっても、新卒採用はますます重要になっています。また、学生の価値観も変わり、多様なニーズが生まれています。初めての就職活動で自分らしい進路選択を行うことは、その後のキャリアや人生においても重要です。誰もが自分に合うと思える企業や仕事に出会えるよう、大きなリニューアルを決意しました」
「学生の価値観の変化」「多様なニーズ」とは具体的にどういうことか。菊池氏は「会社軸」から「仕事軸」で就職先を考えるようになったと分析する。
「私が就職活動をしていた頃は、どの会社に就職するかという『就社』視点で就活をしている人が多かったように思いますが、今は『どんな仕事をしたいのか』という観点で会社を選ぶ学生がどんどん増えています。入社後の業務内容や勤務スタイル、働くエリア……そうしたものを具体的にイメージできるか、自分にフィットするのかを最重要視しているのです。そのため、多くの学生は会社名ではなく『仕事内容』を軸に就職情報を探すようになっています」
約8割の学生は「自分に合った企業が分からない」
だが、学生が自分に合う仕事・企業に出会うことは容易ではない。
「リクルートの調査で、就職活動をする前の学生に今後就職活動をする上での不安について聞いたところ、約8割が『自分に合う企業が分からない』と答えています。そこで、学生が自律的に自己理解を深め、仕事やキャリアについて考えることで、誰もが自分に合うと思える仕事・企業に出会える『自分らしい進路選択』を支援することを、今回のリニューアルの主軸に置きました」
従来との大きな違いの一つは、全学年(2027年卒以降)を対象としたサイトへ変更したことだ。
「これまでは大学3年生以上を主な対象とし、卒業年ごとに分けてサービスが運営されていました。今後は、低学年からでも仕事やキャリアについて考え始められるよう、全学年を対象にしたサイトへとリニューアルしました」
また、学生が自分の希望に合った仕事を見つけられるよう、従来の「企業単位」の掲載から仕事や職種にひもづいた「仕事・コース単位」の掲載に切り替えた。
「仕事・コース単位に変わったことで、企業はより細やかな情報発信ができるようになり、学生も自分にぴったり合う仕事を見つけやすくなると考えています」
学生の仕事探しの強力なサポートツールとなるのが、新機能「レコメンドフィード」だ。
「『リクナビ』を含めて従来の就職情報サイトを使う学生は、まず企業情報を『検索』することから始めるのが主流でした。しかし、社会に出たことのない学生は、そもそもどんなキーワードや軸で検索すれば良いのか迷うケースも多く、とりあえず名の知れた会社を調べがちでした。そこで、リニューアルした『リクナビ』で最初に学生が触れる画面では、検索をしなくても、興味や価値観など志向に合った仕事・コースが表示され、その中から自然と自分の関心に合ったものを見つけることができるようにしました。学生が触れるたびに、表示される情報も自分に合うものにカスタマイズされる仕様です」
さらに、マッチングの精度を高める「マッチポイント」を2025年春頃に実装予定だ。「自分の志望・志向と、この仕事のどこがマッチしたか」が分かり、多くのコースから自分に合うものの検討を進める際の参考にできる。
「例えば『成長意欲を持って働きたい』『安定的に働きたい』といったキーワードを登録しておくと、求人の中から『あなたはこの仕事・コースと、こういう観点でマッチしています』と教えてくれます」
学生の自己理解を支援する「ガクチカAIアシスタント」
これらの機能を活用すれば、自分に合った仕事・コースを格段に探しやすくなる。
「加えて、自分らしい進路選択をする上では、“自分の強みや志向の可視化・言語化”も重要です。そこで『ガクチカAIアシスタント』という機能を開発しました。生成AIを活用し、学生の自己理解を支援する機能です」
「ガクチカ」とは、エントリーシートに記入する「学生時代に力を入れたこと」の略で、「ガクチカAIアシスタント」を利用すると「4つの質問」に答えるだけでガクチカの素案が作成できる。菊池氏が実際に使いながらその機能を説明する。
「まず、学生時代に力を入れた経験について、アルバイトやサークル活動などのテーマを選択します。そこから具体的な内容や担当した役割などを口頭で答えます。AIが対話の相手なので、言葉に詰まってもいいし、間違えても言い直すことが可能です。答え終わったら、対話の内容を基にAIが素案をまとめてくれます」
すぐに出てきたのは学生のエピソードの要点を押さえた自然な文章で、単語をつなげただけの、いかにも「AIが作った感」はまったくない。驚いたのは、話のムダを削るだけでなく、内容を踏まえて「この経験を通して、異文化理解を深め、コミュニケーション能力を向上させることができた」など、学生自身の“気づき”につながる内容もAIが言語化していたことだ。


この「ガクチカAIアシスタント」は、新卒の学生を対象としたリクルートの就職支援サービス『リクナビ就職エージェント』のキャリアアドバイザーが学生とやりとりする際のノウハウをAIに搭載する形で開発された。いわば、学生一人一人に寄り添って内省を支援する専属アシスタントだ。すでに1万人以上の学生が利用しており、満足度(※)は驚異の96%に上る。
「当初社内でも『AIがアシストし過ぎると、学生が自分で考える機会を奪うのではないか』という懸念があり、その点は我々も十分に留意して開発しました。AIとの対話を通じて、学生に自分の強みや働く上での志向性を理解するきっかけを提供することで、気づきを促すものと考えています」
※1 2024年9月25日(水)~12月31日(火)の間に、『ガクチカAIアシスタント』利用後に表示される「良かった」「良くなかった」の2択アンケートにて「良かった」と回答した学生の割合 総回答数:5,535人

「自分で決める」ことがエネルギーを引き出す
新しい『リクナビ』は学生の親にとっても、子どもと将来について語り合うきっかけにもなると菊池氏は言う。
「リクルートが行った2024年卒の学生への調査で“卒業後の進路を考える上で影響を受けたもの”を聞いたところ、親御さんを挙げる学生が最も多いという結果が出ています。『レコメンドフィード』や『ガクチカAIアシスタント』で表示される情報は、学生本人だけでなく親御さんが『我が子の知らない一面』を知るきっかけにもなります。将来について親子で話し合う際に使っていただくこともできるでしょう。これらの機能を活用いただきながら、『内定を得ること』だけをゴールにせず、生涯にわたる『ライフキャリア』を考えるきっかけにしてもらえたらと思っています。自分に合ったライフとワークは、就活期間だけで必ず見つけられるというものではありません。全学年を対象にしたことにより、1年生からでも、自分の好きなタイミングでキャリアについて考える機会が増えました。今後、仕事との出会いだけでなく、自己理解、キャリア形成を目的としたコンテンツを順次開発し、支援を続けていきます」
日本では現在も新卒一括採用が主流だ。リクルートで10年以上にわたり新卒事業に携わってきた菊池氏は「日本の新卒採用は、世界で最も『人のポテンシャル』に期待した制度」と語る。
「企業は社会に出たことのない未知の学生たちを、その素養や可能性にかけて採用し、成長させていけると信じている。そんな個人の『可能性』を見出していくような仕組みや、選択肢が多い日本の新卒採用を、私はとても素晴らしいと思っています。機会選択の幅が海外に比べて圧倒的に広い一方、情報があふれるこの時代に、『この仕事が自分に合っているか自信が持てない』と迷う学生さんも多くいらっしゃいます。『自分で決める』ことが最もその人のエネルギーや才能を引き出すと信じ、学生自身が納得して意思決定できるよう、『リクナビ』を通して支援していきます」
学生一人一人が将来の進路を自らの意志で納得して決めることで、より活躍できるようになれば、日本全体の活力にもつながっていく。今も新規機能の開発を続けている『リクナビ』の「次の一手」に注目したい。