グローバルなパートナーシップを築く
――自社の事業と地球環境の関わりについて、どう捉えていますか。
【渡邉】巨大な貨物船による海上輸送のスケールは壮大です。例えば、LNG船の場合、1回の航海で約25万~26万世帯の1年分に相当する都市ガスを運べるほどの運輸能力を有しています。船は海洋のエコシステムの重要な一部に位置付けられるといえるでしょう。国際海運なくして生活できるエリアは、世界全体を見まわしてもほとんどありません。だからこそ、われわれが責任を持って進めていかなければならないのは「いかにエコフレンドリーに運ぶか」なのです。

株式会社商船三井
チーフ・サステナビリティ・オフィサー
当社は海運業界におけるモデルとなるべく、他社に先行し2021年6月に「2050年までのネットゼロ・エミッション達成」を目標に掲げています。環境戦略においては、自らがファーストムーバーとしてサプライチェーンの脱炭素ビジネスモデルを構築し、業界をけん引していくという姿勢で取り組んでいます。環境課題に対する具体的な戦略として「商船三井グループ 環境ビジョン2.2」を策定しており、目標達成に向けたロードマップを開示しています。2026年には「2.2」の後継となる新たな環境ビジョンを対外発表するべく、現在はその練り直しに取り組んでいるところです。また、さまざまな国際イニシアチブにも参画し、脱炭素に取り組む意思を表明するのみならず、ダボス会議の世界経済フォーラムが主導する「First Movers Coalition(FMC)」への加盟など、脱炭素技術の普及に向けた業界最高レベルのコミットメントを行っています。当社が単独で動くのではなく、海運業界内はもとより、業界の垣根を越えたパートナーシップが重要だと考えるからです。
「ウインドチャレンジャー」搭載船が続々と竣工
――具体的な取り組みを教えてください。
【渡邉】「環境フォト・コンテスト2025」においてグランプリに選出していただいた「金波銀波の物語 海王丸がゆく」に写る帆船は、古くから使われてきた環境に優しい輸送手段です。当社でも「最新技術で現代に帆船をよみがえらせる」という「ウインドチャレンジャー」プロジェクトを進めています。
ウインドチャレンジャーは、風の可能性を引き出し、船の推進力として活用する技術です。2022年10月に1隻目の石炭運搬船「松風丸」が竣工し、当初の見込み通り1航海において平均5~8%、1日では最大17%の燃料節減効果を達成しています。2024年7月には2隻目のばら積み船「Green Winds」も竣工しました。また、現在開発・設計に取り組んでいるウインドチャレンジャーを搭載したメンブレン型LNG運搬船については、風力補助推進システムを備えたLNG運搬船として世界で初めて基本設計承認(AiP)を取得しました。2030年までに25隻、2035年までに80隻のウインドチャレンジャー搭載を目指しており、既存船への搭載計画を含めすでに10隻の搭載が決定するなど、計画を着実に推進しています。

こうした環境への取り組みをはじめ、サステナビリティについて多様なアプローチに挑んでいます。例えば、深刻な船員不足の問題の解消を目指して、船員のウェルビーイングを向上すべく船内環境の整備や、高速で低遅延接続が可能な衛星通信サービスの導入、あるいは女性船員・海技者の活躍支援を行っています。また2018年より、国際海運への主要な船員供給国であるフィリピンのマニラにおいて、アジア・太平洋地域で最大級の商船大学「MOL Magsaysay Maritime Academy(MMMA)」を現地パートナーとともに運営しています。
当社は社会貢献活動にも積極的に取り組んでおり、活動の重点分野を「海洋環境」「次世代人財育成」「地域課題解決」と設定し、マングローブやサンゴの研究支援など、グループ一丸となってさまざまな活動を実施しています。

BtoBの事業が中心の中で、思いを広く伝えられる
――改めて、環境フォト・コンテスト参加はどのような機会になると思いますか。
【渡邉】当社は「青い海から人々の毎日を支え、豊かな未来をひらきます」という企業理念のもと、引き続き海洋・地球環境の保全をはじめとした環境、サステナビリティ課題の解決に取り組んでいきます。商船三井賞も含めて、環境フォト・コンテストに応募してくださった皆さまや、各社で写真の選定に携わった方々、そして受賞した写真が公表されてそれを目にする多くの人々――。これをきっかけにして、「いま一度地球環境について考えてみよう」と思えたのではないでしょうか。
当社はフェリーやクルーズ船でのBtoCの事業も着々と拡大しつつありますが、主な事業はBtoBですので、一般の方々に当社の環境への取り組みや思いを知っていただく機会はとても貴重です。このコンテストへの参加を通じて広く伝え、共感していただけることは非常に意義があると考えています。コンテストを通じて環境への思いを分かち合うことで、持続可能な社会の実現が近づけばと思っています。
●「環境フォト・コンテスト2025」入賞作品
●募集テーマ:海は、ひとつ



