家庭や業務部門でのエネルギー消費量、温室効果ガスの排出量が増え続けている。エネルギーに関して大きな転換期に生きる私たちは、それとどのように向き合えばいいのだろうか──。住まいとエネルギーの関係などを専門とする芝浦工業大学工学部の秋元孝之教授に聞いた。
90年度以降も増え続ける
最終エネルギー消費量
地球温暖化や、石油をはじめとした化石燃料の枯渇が憂慮されるなど、「待ったなし」の状況にある環境問題。エネルギーとのよりよい付き合い方を考え、持続可能な社会をつくり上げるには、私たち一人ひとりがライフスタイルを見つめ直し、環境負荷の削減に取り組むことが大切だ──。「何を今さら」と言われそうな話だが、実はこれが意外に進んでいないというデータがある。
「わが国における最終エネルギー消費量を部門別に見ると、工場などの産業部門は1990年度と比較した場合6.0%減、運輸部門では6.6%の微増です。しかしオフィスビルや店舗などの業務部門は39.3%、家庭部門では30.2%の大幅増となっているのです(次ページのグラフ参照)。この2つの部門は90年度以降もエネルギー消費量がほぼ右肩上がりで増え続けているのが特徴ですね」
そう解説してくれた秋元孝之教授。つまり産業部門を除くと省エネが進んでいない。環境問題などへの認識は広がっているものの、なかなか具体的な行動にはつながっていないというわけだ。ちなみに温室効果ガス排出量についても、90年度比で減少しているのは産業部門のみで、その他はすべて増大。しかも業務部門は31.9%、家庭部門は35.5%の大幅増となっている。
省エネタイプの家電が普及しているにもかかわらず、家庭のエネルギー消費量や温室効果ガス排出量が増えているのはなぜだろう。
「家電機器のエネルギー効率は上がっているのですが、世帯当たりの家電保有数が増えていることが1つの理由ですね。例えば一般的なエアコンの消費電力は93年と比べると約3分の2まで減っているのですが、一世帯当たりの保有数はおよそ2.5倍に増えています。そのほかパソコンや大画面テレビなど、かつては家庭になかったものも多く登場している。一つひとつ積み上げれば、エネルギー消費量は小さくありません。加えて人間は、機器の省エネ化が進むと、ある面ではそれに甘えてしまう。そんなところもあるのかもしれません」
そこで注目されるのが、例えば「スマートハウス」などと呼ばれる住まいのコンセプトだ。一般にスマートハウスとは、ITなどを活用し、家庭内のエネルギーをコントロールする仕組みのこと。そのなかにはエネルギーの消費を最適化する「省エネ」はもちろん、エネルギーを自らつくり出す「創エネ」なども含まれている。創エネの手段としては太陽光発電や太陽熱温水器など。また、コージェネレーションシステムである家庭用燃料電池への関心も高まっている。
「コージェネレーションとは、1つのエネルギー源から電気と熱を同時に発生させるシステムのことで、熱電併給とも呼ばれます。エネルギー効率が高いことが何より特徴で、家庭向けの製品が出てきたことが市場の形成を後押ししています」
家庭での創エネについては、複数の手段を組み合わせる仕組みも提案されており、地域ごとに小規模な電力ネットワークを構築する分散型エネルギーの実現性を高めることにもつながりそうだ。一方で、現在各地の電力会社や民間企業、自治体などにより、1メガワット以上の発電能力をもつ太陽光発電システム「メガソーラー」の設置も進んでいる。このような大規模な太陽光発電所から電力の供給を受けつつ、自宅でも発電などを行う。いずれはこうした新しいエネルギーネットワークが1つのスタンダードになるのかもしれない。