部下との円滑なコミュニケーションに必須とされる1on1。だが実際は「準備が面倒」「何を話せばいいかわからない」と、定期的に実施できていない企業が少なくない。この悩みを解決すべく開発されたのが1on1支援ツール「Kakeai(カケアイ)」だ。事業開始からまだ4年の新サービスながら、その使い勝手の良さと離職率低下・売上増加等の経営メリットが評価され、日本を代表する一流企業で導入が相次いでいる。

多くの企業がマネジメントスタイルの変革を迫られている

「上司と部下のコミュニケーションは、企業にとって大きな課題です。よく『Z世代』という言い方がされますが、『若手の考えがわからない』という悩みはZ世代という言葉が使われる以前からありました。ただ、近年では生産性を高める施策としてエンゲージメントやモチベーションを重視する流れがあり、加えてコロナ禍を背景としたリモートワークの普及や転職率の上昇により、部署内のコミュニケーション問題が一段とクローズアップされています」

そう語るのは株式会社KAKEAIのCEOである本田英貴氏。人事関連企業リクルートで人事部門の管理職を務めた後、自ら起業してコミュニケーション支援ツールの開発に取り掛かった。

「人事として社内組織を見てきた経験から言うと、上司のマネジメント次第でメンバーのパフォーマンスは大きく変わります。関係性の良しあしは当人同士のコミュニケーション能力に大きく依存するため、関係が悪くなってしまった場合、内部から改善するのは難しい。そんななかでエンゲージメントやモチベーションを測定するだけでは根本的な解決になりません。そこで、『外から現場のコミュニケーションを支援することはできないか』と考えたのです」

こうして生まれたのが1on1支援ツール「Kakeai」だ。サービス開始は2020年3月。コロナ禍で在宅勤務が広がり、顔を合わせる機会が減って、1on1面談の重要性が強く認識されたタイミングだった。

本田英貴
本田英貴(ほんだ・ひでたか)
株式会社KAKEAI 代表取締役社長 兼 CEO
筑波大学卒業後、2002年に株式会社リクルート入社。商品企画、グループ全体の新規事業開発部門の戦略スタッフなどを経て、株式会社電通とのJVにおける経営企画室長。その後、株式会社リクルートホールディングス人事部マネジャー。人事では「ミドルマネジメント層のメンバーマネジメント改善施策」や「Will, Can, Must・人材開発委員会・考課・配置等のデジタル化」を担当。2015年リクルート退職後、スタートアップ数社での役員を経て2018年4月に株式会社KAKEAIを創業。

上司部下ともに負担の多い1on1を円滑に

1on1の重要性が高まる一方で、上司は「部下が何を考えているかわからない」、部下は「上司が忙しそうでなかなか切り出せない」などの悩みを抱えており、思うように実施できていない企業も多い。そこでKakeaiでは、上司部下ともに負担のない事前準備ができるような工夫が散りばめられている。

まず、Kakeaiでは必ず部下が1on1を設定するようになっており、実施前に部下のほうから「話したいテーマ」と「上司やメンターに期待する対応」を選ぶ。期待する対応としては「具体的なアドバイスが欲しい」「一緒に考えてほしい」「話を聞いてほしい」「意見を聞きたい」「報告したい」という選択肢が用意されている。これらの選択肢は、これまでの数百社、数万人のKakeaiユーザーからのフィードバックに基づいて現在の形となったものだ。

そして、部下が選んだ選択肢は、あらかじめ上司に伝えられる仕組みになっている。上司は、部下が何を望んでいるかを意識して1on1の準備をすることができるというわけだ。

「部下が『具体的なアドバイスが欲しい』という選択肢を選んでいたら、上司は業務についてティーチングすればよく、『一緒に考えてほしい』という選択肢であればコーチングを行い、『話を聞いてほしい』であれば傾聴をするというように、上司は部下に求められる対応を取ることができるのです」と本田氏は話す。また、部下側から見ると、「こういうことを期待している」「こんなことを話したい」という選択肢が用意されていることで、1on1に臨む心の負担が軽くなるという。

部下側から見た画面のイメージ
部下側から見た画面のイメージ。生成AIによる要約や自動文字起こし、リアルタイムに同期されるメモ、第三者へのメモの共有や引き継ぎ機能など盛りだくさん。サイコロを振って話すテーマを決める「アイスブレイク」といった機能もあり、「普段はなかなか話すことのないテーマを話すきっかけになる」と好評だという。

さらには、上司に対して「あなたはこのテーマが苦手なようだから気をつけて」といった注意を喚起する「ヒント表示」機能や、どのような対応をすればいいかわからない場合は「ほかの会社のみなさんの場合、上司がこういうふうに対応すると、部下は高く評価していますよ」とサジェストしてくれる機能がある。Kakeaiのなかで過去に行われた累計150万回以上の1on1から蓄積されたデータをAIが解析し、その人がマネジャーとしてどのようなタイプかを見分けるのだ。

部下に対しても、AIによるアドバイス機能がある。たとえば「今後のキャリアについて一緒に考えてほしい」という選択肢を選んだ場合、Kakeaiから、「このテーマについてはこういう心がけで話すとうまくいくことが多いですよ」といった知見が提供されるのだ。

サポートなしの1on1は、上司にとっても部下にとっても気が重いものだが、「Kakeaiによって1on1の負担が減った」「1on1の質が高まった」という利用者の声は多い。

「Kakeaiという名前は『掛け算』が由来となっています。スキルの寄せ集めの『足し算』で成立する業務もありますが、1on1はお互いの人生にとって大切な時間を使うものなのだから、それを『掛け算』にしていきたいという思いが込められています」と本田氏は語る。

離職率の低下、売上アップ…経営にもたらす多くのメリット

Kakeaiは全社一括で導入する必要はなく、メンターとメンティーとの間だけに導入したり、新入社員と管理職との間で導入したりといった形も可能だ。導入企業では離職率が平均で24%も低下しているという。

「新入社員を対象にKakeaiを導入したある企業では、それまで新入社員の1年間の離職率が20%だったのに対し、導入した年度の退職者がゼロになったという事例もあります」と本田氏は紹介する。過去のデータをもとに、「面談でこういう話が出るときは離職の可能性が高まっている」と上司に注意する機能もあるので、離職予備軍の早期発見にも役立つ。

また驚くべきことに、営業部門にKakeaiを導入した結果、売上がアップしたという事例も少なくないという。上司との関係が良くなると、部下は「今、こういうことに困っているんです」と気軽に相談でき、上司もその都度アドバイスができるようになるので、部下の成長が促されて業務のパフォーマンスが高まり、結果として売上アップにつながるというのだ。現場の教育係や管理職はもちろん、経営層にとっても嬉しい効果だろう。

「そもそも1on1とは、上司が部下を気遣うことが目的ではなく、従業員のエンゲージメントを高め、力を引き出していくための手段です。一気には変わらなくとも、回数を重ねることで関係性が変化し、半年ほどで徐々に効果が出てきます」と本田氏は胸を張る。

上司部下関係の段階
150万回を超える1on1のデータや、実際に1on1に取り組む300社を超える上司部下の皆様へのインタビューから、1on1が成果につながるには「部下側の、上司との関係の認識」が存在し、またそこには段階があることがわかっているという。Kakeaiでは、「今の関係であれば、こういうことまでは聞いてもいいでしょう」と、関係性を徐々に引き上げていく機能もあり、人間関係の中でも難しい「踏み込み加減」をアドバイスしてくれる。

Kakeaiは「日常のコミュニケーションを変える」という強みに特化しているため、使い勝手がよく、「1on1実施率が大きく高まった」という導入企業が多い。ほかの人事管理ツールと併用されているケースが多く、他社システムとの併用の容易さも利点のひとつとなっている。企業だけでなく教育機関にも採用され、教師と生徒の面談に使われることもあるという。

今後は「個々の従業員のサポートを適時適切に行う方向に変わらなければいけない」という危機意識を持った企業と、旧来のままの一律管理を続ける企業との間で、マネジメントレベルの差が拡大することが予想される。Kakeaiは企業の生き残りと社員のハピネス実現のために、強い味方になってくれるに違いない。まさに今、社会に求められているツールと言えそうだ。