AI開発から地方創生まで、さまざまな領域で60以上もの事業を手がけるDMM。非上場であることを強みに、多様な分野での挑戦によって年間3600億円もの売上を上げる同社の成長の秘訣とは、いったい何なのか。黎明期のDMMに入社し、数々の事業を立ち上げて成功に導いた村中悠介COOに、同社のビジネス哲学と、さらなる成長のために求める人材について聞いた。

商売に大切なのはスピード感、中途入社1年目の社員が事業責任者に

動画配信、オンライン英会話、電子書籍、オンラインクリニック、サッカークラブの経営……、DMMグループが手がける事業は、いまや16領域、60以上にものぼる。IT企業という枠組みに収まらず、着実にビジネスを広げ続ける同社の商売哲学について、COOの村中悠介氏は「創業者であり現会長の亀山敬司が、DMMの創業前からいろんな商売をやっていたことがDNAとして残っているのではないでしょうか」と語った。

【図表】DMMの事業領域
DMMの事業領域。実に多様な事業を展開している。

「19歳のときに露天商でアクセサリーを売るところからビジネスを始めた亀山は、フルーツパーラー、旅行代理店、レンタルビデオなど『これは儲かりそうだ!』と思ったビジネスに次々に挑戦していきました。一つのことを突き詰める経営スタイルではなく、いろんな分野で可能性を検討して、上手くいきそうだったらガッとそこに集中する。いまも当社にはその風土、精神が引き継がれており、いろんなビジネスに挑戦することが呼吸をするように当たり前なんです」

村中氏の言葉を裏付ける近年の代表的なビジネスの成功例が、DMMオンクレというオンラインクレーン事業だ。オンラインクレーンとは、スマートフォンやパソコンから実物のクレーンゲーム機を遠隔操作することで、24時間いつでもどこでもクレーンゲームが楽しめるサービスだ。ユーザーが獲得した景品は、配送によって入手できる。

2020年初頭からの新型コロナウイルスの流行によって、ゲームセンターに足を運ぶ人が少なくなった一方で、365日24時間、いつでも気軽に手元のスマホで遊べるオンラインクレーンゲームは右肩上がりの成長を続ける。ぬいぐるみやフィギュアだけでなく、生鮮食品など景品の多彩さも魅力だ。

そのオンラインクレーン事業にDMMが参入したのは2022年4月のこと。事業を中心となって進めるのは、松縄貴重氏(現オンラインクレーン事業部長)だ。

松縄氏は2020年5月に中途でDMMに入社した。入社後は通販ビジネスの事業を担当したが、以前よりオンラインクレーンゲームを趣味で楽しんでおり、他社のサービスに不満を感じていた。「これをうちの会社でやれば、きっと競合に勝つことができる」と考えた松縄氏が、入社1年目に役員に提案したところから、DMMオンクレはスタートした。

DMM.com COO 村中悠介氏
DMM.com COO 村中悠介氏
1979年北海道苫小牧市生まれ。2002年にまだ社員が10人未満だったころのDMMに入社。DMM初のライブ配信事業を担当し、総合格闘技「PRIDE」や「X JAPAN 伝説の復活ライブ」の配信を成功させる。

非上場だからこそ、DMMはビジネス領域を拡大し続けられる

「提案を聞いて、役員会ですぐに6.4億円の出資を決めました。オンラインクレーン自体はすでに10年近くの歴史があり、競合もたくさんいましたが、それでもゴーサインを出したのは、勝ち筋が見えたからです」と村中氏は言う。

「オンラインクレーンは参入するのが簡単なビジネスではありません。倉庫に何百台ものクレーンゲームの筺体を設置し、それにカメラを取り付け、安定してユーザーが楽しめるアプリを開発する必要があります。倉庫に常駐し、景品の管理、発送を担うスタッフのオペレーションも大切です。松縄の提案には、それらのノウハウを持っていたパートナー会社との協業が盛り込まれており、それならば実現できると一気にビジネスの解像度が上がりました」

最初の提案を受け、2021年6月に株式会社DMMオンクレが設立され、急ピッチで事業の準備が進んでいった。当時すでにDMMには国内3500万人超え(無料ユーザー含む)の会員がおり、テレビCM等のプロモーション予算も潤沢に確保することができた。またアニメやゲーム事業も手がけることから、自分たちが著作権を持つオリジナルの、魅力ある景品も用意できた。そうした背景から、事業としては後発であっても競合に勝ち、市場シェアを確実に獲得できるという見込みが立ったのである。DMMオンクレ事業の2023年度売上は対前年比492%を達成し、本年度はさらなる成長を見込んでいる。

「DMMオンクレが順調に成長している一番の理由は、ユーザー目線に立ったときの、競合とのサービス品質の優位性にあります。我々は常に、新しいビジネスに挑戦するときに、他のどこの会社よりも安く、品質が良いものを作るということを念頭においています」

同社では、オンライン英会話のDMM英会話を事業展開しており、それも徹底的に品質にこだわったと村中氏は言う。すでに競合の会社が複数あるなかで、オンライン英会話で英語を勉強したい人が求めることの第一は、「いつでもいい講師に教わることができること」。そこでDMMでは、フィリピン人を中心に講師の数を業界トップレベルに揃え、安定した授業が供給できる体制を整えた。

「どこよりも安く、どこよりもサービスの品質を良くする。そうすればユーザーは必ず評価してくれ、サービスに定着・リピートしてくれます。さらに『DMMのあのサービスはいいよ』と自ら広めてもくれます。品質を良くすること自体が、テレビCM以上にサービスにとって大きな効果のある宣伝になるのです」

膨大な会員に向けた新たなビジネスを構想できる人と出会いたい

多様なビジネス領域において、圧倒的なスピードで事業を手がけるDMMが、いま重要視しているのがサブスク型ビジネスモデルへの転換と、新たなビジネスの創出だ。

2022年12月、DMMでは新たな動画配信サービスDMM TVをスタートした。DMM TVを利用するには、同時に提供開始した新たなサブスク会員システムであるDMMプレミアム(月額550円)への加入が必要で、加入するとアニメ約5,900作品、エンタメを含む19万本以上のコンテンツが見放題となる(2024年4月時点)。今後DMMでは、DMMプレミアムをDMMが提供するさまざまなエンタメサービスを横断的につなぐプラットフォームとして位置づけ、そこでさらなる新たなビジネスの展開を構想する。

「変化のスピードが非常に速く、数カ月先の未来の予測すら難しくなっている現在、新しいビジネスを生み出して成功するためには、世の中のちょっとした動きに敏感になり、いちはやくチャレンジする姿勢が必要です。柔軟な発想と感性を持っている人を、DMMでは必要としています」

DMMオンクレの事業立ち上げで見た通り、DMMでは新しいビジネスの立ち上げにおいて、提案者の社歴の長さや肩書きを重視することは「一切ありません」と村中氏は断言する。

「新規事業に対する大きな投資判断は、私を含めたCXOが毎週の定例会議で決めています。逆にいえば、その土俵にさえ提案が上がってくれば、すぐに結論が出ます」

DMMの新規事業が他社に比べて圧倒的に早く展開できるのは、その投資判断のスピード感が大きな理由だ。入社1カ月の社員であっても、経営層にビジネスを提案でき、いいアイディアであれば、事業責任者になれるチャンスを用意していると村中氏は述べる。最後に村中氏に「DMMが求める人材像とは?」と聞くと、こう返事が返ってきた。

「癖が強くてもいい。野心がある人でもいい。60以上の事業を展開するうちの会社は、いわばあらゆる領域のベンチャー企業の集合体です。なにか新しいことをやろうと思ったら、社内にその分野に詳しい人間が、ほぼ確実にいて、協力してもらうことができる。転職せずとも、自分の興味関心がある新しいことを始められる環境が整っているんです」

新しいサービスが次々に生まれるということは、それぞれに責任者が必要になるということでもある。村中氏が「どこよりも『打席が回ってくるチャンス』が多い会社」と自負するDMMで、ぜひ自分が考える新たなビジネスに、チャレンジしてみてはいかがだろうか。