エネルギー価格の高騰は、家庭はもとより多くの電気を使用する企業にとって死活問題だ。政府が緩和措置を実施しているが、その対策も2024年5月以降の動きは不透明で、価格が下がる見通しは立っていない。その中で、省エネの手段として考えられるのがLED照明への変換だ。その方法について「日本の節電課題に応える企業であり続ける」をミッションとして掲げるアイリスオーヤマの省エネソリューション事業本部ライティング事業部・江藤優事業部長に話を聞いた。
江藤 優(えとう・すぐる)
アイリスオーヤマ株式会社
BtoB事業グループ
メーカー本部 省エネソリューション事業本部
ライティング事業部 事業部長

カーボンニュートラルを実現する手段の一つである、省エネ。省エネを目的とした照明のLED化が進められて久しいが、その普及率は、一般住宅も、その他のビルや工場などの既存建物も、共に50%程度にとどまっている。しかし「水銀に関する水俣条約」において、2027年末までに蛍光灯の製造や輸出入が禁止されることを受け、今やLED照明の導入は喫緊の課題だ。

小型の照明器具の場合は、電球用や蛍光灯用の照明器具にLED照明を付け替えるだけで変換できるが、それ以外の場合LEDへの切り替えには専門の工事が必要となる。工事請負業者の技術者不足も叫ばれる昨今、間近になって慌てるよりも、今から本腰を入れて節電対策を考える方が望ましい。

「LED化は、店舗や小売店ではある程度進んでいますが、オフィスビルや学校等の公共施設への導入があまり進んでいない状況です。学校は点灯時間が短く節電効果が見えづらいですし、オフィスビルに関しては電気料金を払うのはテナントですが、LED照明への切り替えはビルを管理するオーナー側が決める。その違いなどが、LED化を遅らせている大きな要因の一つでしょう」と江藤氏は分析する。

LEDの無線制御システムでさらなる省エネ効果を

電球型の蛍光灯をLED照明に替えるだけで、トータルコストは約50%削減するが、すでにLED照明への変換を終えているところでは、さらなる省エネ化を求める声も聞かれる。そのソリューションとして注目されるのがアイリスオーヤマの無線制御システム「LiCONEX(ライコネックス)」だ。

アイリスオーヤマは、11年の東日本大震災後に電力需給が逼迫ひっぱくする中、LED照明の生産を拡大し省エネに大きく貢献。17年にLiCONEXを発売した。

「独自の無線で制御する調光システムを採用しており、大掛かりな工事は不要です。ベースモジュール1台を設置すれば最大4000台の照明を制御することが可能になります」と江藤氏。

例えば調光を従来の70%に設定すれば、それだけで常時30%の省エネが達成される。またオフィスビルの場合、これまでは配線の都合上1フロア全て一律の明るさにするしかなかったが、LiCONEXなら1台ずつ照明を制御して、不在者が多いエリアは調光を落とすことなども可能だ。また、曜日や時間帯によって調光や調色を自動で変動させることもできる。従来型の照明に比べてLiCONEXは照明代にかかるトータルコストを62%も削減するため(1日当たり14時間、年間稼働日数365日で7年間使用した場合を想定・試算したシミュレーション)、この高い省エネ効果が評価され、20年度には一般財団法人省エネルギーセンター主催の「製品・ビジネスモデル部門」において省エネ大賞を受賞した。

24年4月にはLiCONEXの簡易版となる「LiCONEX LiTE(ライコネックス ライト)」も発売される。制御可能な範囲を100台までに抑え、比較的小さな空間での需要に対応したものだ。「LiCONEX LiTEは制御設定をパッケージ化することで、中小の事業所でも導入しやすくし、節電効果を発揮することができます。従来のLED照明と比較しても月々の電気代を約51%削減することが見込めます」

また、LiCONEXの場合は顧客と相談しながらアイリスオーヤマが設置の設計や調光設定をする必要があるが、LiCONEX LiTEは顧客が設計・設定をスマホやタブレットで行うことができる。導入ステップは、照明を設置して、専用ベースモジュールをコンセントに接続し、スマホやタブレットで制御する照明を設定するだけなので簡単だ。

シンプル構造で省施工・短工期
制御盤の新設やスイッチ(調光器)の新設、配線工事が不要なため、一般的な有線調光システムと比べて施工の負担を軽減。工期も短縮できる。
快適さを維持しながら大幅な省エネを実現
※照明器具100台、1日当たり14時間、年間365日間稼働する一般的な店舗において、蛍光灯(42W)と同社製直管LEDランプ(15.6W)、ライコネックス対応照明器具に照明制御(調光、自動スケジュール設定、センサー連携)を適用・運用した場合の試算。

次世代の快適な空間づくりに照明・空調をバージョンアップ

アイリスグループの東京アンテナオフィスは、健康的に働くことができるオフィス環境を整備し、国際的なビル評価指標のWELL認証を取得している。その要素にはもちろん照明による効果も認められている。例えば、始業直後は青白い明るい光ですがすがしい朝の光を演出。それを夕方には温白色に切り替えて落ち着いた空間に変える。太陽光に近い光の変化をつくることで従業員の体内リズムが調整され、健康的で効率の良い働き方をサポートするほか、光の変化で帰宅を促して働き方改革に対応したオフィス環境づくりにつなげている。

こうした調光による効果はもちろんオフィスだけではない。商業施設なら、売り場やエリアごとに調光を変えることによる販売促進効果もある。例えば商品を陳列している空間に比べ通路の照度を50%に抑えるだけで、お客さまの目を商品に向ける効果が得られるだけでなく、節電にもなるので一石二鳥だ。

アイリスオーヤマではさらなる節電と快適性の両立に着目し、AI搭載空調最適化省エネソリューションとして「エナジーセーバー」を市場に導入。AIが空調の温度センサーをリアルタイムでモニタリングすることで、室内温度の上下変動を最小化し、消費電力の無駄を削減する快適な空間づくりにも着手している。

「一般的なオフィスビルで最も大きく電力を消費するのは空調で、照明の2倍以上にも。そこで弊社も23年から空調システムの最適化にチャレンジしています。将来的にはオフィス、施設、工場など場所を問わずLiCONEXとエナジーセーバーを連動させて、さらにカーボンニュートラルに貢献していきたい」と江藤氏は話す。明るさが得られればよし、暑さ寒さをしのげればよかった照明や空調の時代から、今後はより快適性とエネルギー効率や環境性能を求める方向へと、時代は今ターニングポイントを迎えているようだ。