再生可能エネルギーの導入促進は、カーボンニュートラル実現、また日本のエネルギー需給構造の課題克服につながる重要な取り組みだ。主力電源化が期待される太陽光発電や風力発電の弱点をカバーし、ポテンシャルをさらに引き出すには、需給バランスの安定化が欠かせない。そのサポートにおいて、中心的な役割を担っていくとして注目されているのが「揚水発電」である。

――「揚水発電」において日本は世界第2位の規模があり、日立三菱水力は国内トップシェアを誇ります。

【日立三菱水力取締役社長・谷清人氏(以下、谷)】当社が初めて揚水発電設備を納入したのは1959年。以降、プラントの設計から納入後のメンテナンスに至るまで、一貫したサービスを提供してきました。揚水発電にブレークスルーをもたらした「世界初(※1)の揚程500メートル超単段ポンプ水車」をはじめ、「建設当時世界最大(※2)容量のポンプ水車(84年)と発電電動機(2005年)」「可変速揚水発電システム開発の主導」など、長年にわたる先進的な技術開発、国内外の豊富な実績が信頼の裏付けになっていると考えています。

揚水発電は夜間や週末の「需要が少なく発電設備に余裕がある時間帯」に揚水してエネルギーを貯蔵し、昼間の「需要が多くなり発電設備の余裕が少なくなる時間帯」にくみ上げた水を落下させることで発電する、一種の「蓄電機能」を持つ技術です。ピークシフトの役割に加えて、変動性再生可能エネルギーの発電量が需要を上回った場合にその電力を揚水で貯蔵し、例えば太陽光発電が稼働する前の朝、急減する夕方に発電するといったアプローチでの活用も増えています。

国内最大規模の揚水発電所だと、貯蔵容量はおよそ1200万キロワット時。人口約66万人の高知県が平均的に1日に消費する電力量に匹敵する規模(※3)です。

※1、2 自社調べ。
※3 「資源エネルギー庁 2022年度都道府県別電力需要実績」のデータを基に日立三菱水力が算出。

余剰電力を「大規模蓄電」発電量の変動を受け止める

――どのような課題の解決に貢献するのでしょうか。

【谷】まず「変動性再生可能エネルギーの出力抑制の削減」です。送電線の容量には上限があるため、需給バランスを調整して周波数を一定に保つことが求められます。天候や時間帯で発電量が増減する変動性再生可能エネルギーが大量に電力系統に接続されると、急激な需給バランスのアンマッチが生じて周波数が変動し、電力系統が不安定になる恐れがあります。その解消策の一つとして出力抑制が実施されるわけですが、これでは売電収入を得られず、再生可能エネルギーの利用率はなかなか向上しません。

谷 清人(たに・きよひと)
日立三菱水力株式会社
取締役社長
1993年東北大学大学院博士課程修了、同年日立製作所入社。2011年10月日立三菱水力 水力研究センター長。19年日立三菱水力取締役。23年6月より現職。

そこで、先ほども述べたように揚水発電の仕組みを用いて変動性再生可能エネルギーの余剰分を吸収しておき、不足したときに発電して補えば、出力抑制を削減することができます。さらに当社が世界に先駆けて開発した可変速揚水発電システムを組み合わせることによって、瞬間的な周波数の変動に応答し、電力系統への負荷を緩和することが可能です。また、変動性再生可能エネルギーの出力変動を吸収するための火力発電のたき増し抑制にもつながることから、CO2排出量削減も後押しします。

次に「火力発電が減少する中での長期的な電源設備容量の確保」です。大型石炭火力発電所などの電源設備が減少していく今後、いかにして年間ピーク需要を上回る電力系統を維持していくか。水力発電は国内の電源設備容量の約2割を占めており、その半分以上が揚水発電です。揚水発電設備は全国に42地点あり、計2700万キロワットの設備容量を有しています(22年時点)。長期的な電源設備容量確保の視点から、揚水発電の存在がクローズアップされていくでしょう。

広域停電時も短時間で復旧「ブラックスタート機能」

――自然災害などの有事にも重要な役割を果たします。

【谷】揚水発電を含む水力発電の強みとして「災害や電力系統不安定によって生じ得る広域停電(ブラックアウト)からの復旧機能(ブラックスタート機能)」があります。

地震や台風の被害、急激な電圧変動などでブラックアウトが起こった場合、火力発電や原子力発電は電力の供給が途絶えてしまうため起動できません。一方で水力発電設備は、ブラックアウト状態に陥っても起動し、発電することができます。また、起動に必要な時間が他の発電設備に比べてはるかに短いことも水力発電設備の優れている点の一つです。このブラックスタート機能は毎年公募されますが、例えば24年度向け公募では落札46カ所中、45カ所を水力発電が占めています。わずか2分半で大規模火力発電所に匹敵する120万キロワットの出力が可能な揚水発電所もあり、大容量電源のバックアップ機能も担っています。

世界的に見ても揚水発電の信頼性は非常に高く、IEA(国際エネルギー機関)によると電力系統に接続している電力貯蔵設備容量の90%以上が揚水発電であると報告されています。蓄電能力が大きく劣化することはなく、電力を長期間貯蔵でき、瞬時的な電力の変化に耐える慣性力を持つという点においても優れている。かつ、長寿命であること、技術・製品の安全性が裏付けられた電力インフラであることは、60年以上の長きにわたり揚水発電設備を手掛けてきた当社として自信を持って言えることです。

国内外で高まる揚水発電ニーズ 電力インフラの発展に尽力

――今後のニーズの変化などを踏まえ、どんな価値を届けたいと思われますか。

【谷】水力発電は戦後復興期の主力電源に位置付けられ、建設が進みました。12年の「FIT制度(固定価格買取制度)」を契機とする中・小型の既設水力発電所のスクラップ・アンド・ビルド、そして脱炭素電源への新規投資を促進する目的で23年度に導入された長期脱炭素電源オークションに伴う大型揚水発電所の改修ニーズと、カーボンニュートラル実現において揚水発電が力を発揮する局面はますます増えていくでしょう。当社が手掛けた関西電力「奥多々良木発電所」の定速揚水発電ユニットの可変速化プロジェクトのように、世界で前例のないソリューションも着々と生まれています。

揚水発電プラントの寿命は一般的に60年~70年とされるものの、リハビリによってさらなる延命が可能です。海外でも揚水発電所のリハビリ、当社が得意とする可変速揚水発電の建設などを望む声が拡大している状況があり、「揚水発電大国・日本」の技術を広めていくチャンスであると捉えています。引き続き、カーボンニュートラルに向けた電力インフラの発展、社会の変革に貢献していきたいと考えています。

変動再エネの弱点をカバーする揚水発電ソリューション「可変速技術」とは
関西電力「奥多々良木発電所」の350MVA発電電動機 回転子(定速機から可変速機へ更新)。その直径は約6.5m、重量は約450t。

太陽光発電や風力発電といった変動性再生可能エネルギーの拡大に伴う余剰電力の増加、短時間での出力変動。こうした電力系統への負荷を軽減するのが日立三菱水力の「可変速揚水発電システム」。1987年に世界初(※4)の実証試験を行って以降、国内外にこのソリューションを提供している。可変速揚水発電用ポンプ水車、発電電動機は高落差、大容量、高回転速度の領域まで対応。周波数の変動に追従し、電力系統の安定化を支える。

※4 自社調べ。