地域の中堅・中小企業が抱える課題の一つは「経営人材の不足」。金融庁はこの解消に向けて、新しい形の人材プラットフォーム「REVICareer(レビキャリ)」を2021年に立ち上げた。その狙いや効果、今後の展望などについて、レビキャリ立ち上げを先導した金融庁の伊藤豊氏と、中小企業の経営課題に詳しい入山章栄氏が語り合った。

地域金融機関の仲介で経営人材を地域企業へ

――レビキャリを立ち上げた背景や目的を聞かせてください。

【伊藤】金融庁は2018年に金融機関による人材紹介業務を解禁しました。以降、金融機関は取引先の人材の課題にも貢献できるようになりましたが、同時に鮮明になったのが地域企業における経営人材不足です。そこで、大企業の経営人材を地域企業に紹介する仕組みをつくろうと立ち上げたのがレビキャリです。ここに登録された大企業の人材を、地域企業が求める経営人材のプールとして金融機関に活用してもらう。そしてこれを地域経済の活性化につなげたいと考えています。

伊藤 豊(いとう・ゆたか)
金融庁 監督局長
1963年生まれ。東京大学法学部を卒業後、大蔵省へ。財務省大臣官房秘書課長、金融庁総合政策局総括審議官などを経て2022年から現職。

【入山】大企業には50代を中心に大量採用時代の人材がたくさんいますが、多くは持てる能力を十分に発揮できずにいます。僕は常々、この力を地域企業に生かせればいいと考えていましたが、レビキャリの仕組みは優れていますね。仲介役として金融機関が入るので登録側と採用側双方に安心感がありますし、金融機関も地元企業の人材の悩みに貢献することで地域の成長にコミットできます。これを国が推進することは非常に意義があると思います。

【伊藤】ありがとうございます。ただ、大企業人材の登録人数をもっと増やしたいですね。そのため、22年8月からは企業からだけでなく個人でも登録できるようにしました。以降は登録者も増え、年代や業種の幅も広がりつつあります。24年2月29日時点で登録者数は約2500人で、50~60代を中心に社長候補としての転籍も含め65件の採用が成立しています。

【入山】大企業人材の登録者が地域企業への転籍を決める上では壁もありますね。まず大企業と中堅・中小企業では給与水準が違いますし、それを上回るやりがいがあったとしても、まったく知らない土地へ行くのはハードルが高い。こうした「給与と場所のマッチング」についてはどんな工夫をされていますか。

入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学ビジネススクール教授
1972年生まれ。慶應義塾大学大学院修了。米ニューヨーク州立大助教授を経て、2013年、早稲田大学ビジネススクール准教授。19年から現職。

【伊藤】給与面では、大企業との年収ギャップ解消などを目的として、レビキャリで経営人材を獲得した地域企業に最大500万円を給付しています。また場所については、勤務希望地をレビキャリに登録できます。ご自身や配偶者の地元を希望する人も多いですね。

――マッチングが成立した人や地域企業からはどんな声が届いていますか。

【伊藤】現在、大阪の社会福祉法人・池田さつき会で管理本部部長として活躍されている横井忠さんのケースを紹介しましょう。大手メーカーで役職定年まで勤めた経理人材で、スキルを生かしてセカンドキャリアを築きたいと早期退職しレビキャリに登録されました。一方、池田さつき会は経理など管理部門の責任者を探しており、地元の池田泉州銀行が横井さんを紹介しました。ご本人は「新たな挑戦にやりがいを感じている」、池田さつき会は「先進的な大企業の取り組みを知る方の助言が大変役立っている」と語っています。

【入山】外の世界での経験を持つ人が意思決定層に入ると、その知見が企業内の知見と化学反応を起こして変革や成長につながることが多いんです。しかし、地方では経営者だけでなく管理職層の後継者も見つかりにくい状況です。レビキャリはそこを支援し、企業を変革へ導く役割を果たすもの。日本の企業の9割以上を占める中小企業が変われば日本も変わると確信しています。

中堅・中小企業の変革が地域活性化の起爆剤に

――人材のミスマッチを防ぐという点ではどんな工夫をされていますか。

【伊藤】登録者に地域の中堅・中小企業で働くためのスキルやマインドセットを養ってもらえるよう、多様な研修プログラムを無料で提供しています。転籍後も、地域金融機関が本人への定着支援や採用企業への継続的なフォローを行います。また、例えば最初は出向や兼業の形で働き始め、マッチしそうなら本格的に転籍するというやり方も可能です。

【入山】継続的なフォローは地域金融機関だからこそできることだと思います。兼業に関して一つ提案ですが、地域金融機関が登録者に2~3社紹介できるようなスキームをつくってはどうでしょうか。複数社を兼業してもらえば採用する各社の給与負担が減りますし、転籍者の方も都市圏の7割程度の収入が期待できます。すでに、この形で都市圏の大企業人材の採用に成功している地域も出てきています。

【伊藤】それはいい案ですね。確かに、地域金融機関なら複数社の紹介もできそうです。兼業・副業での成立件数はまだあまり伸びていないので、今後は登録人材と地域企業のニーズをくみながら、複数社とのマッチングもできるようにしていきたいと思います。

――今後の展望をお聞かせください。

【伊藤】まずは登録者数1万人を目指します。登録人材が増えれば採用企業も成功事例も増え、それとともに認知度も上がっていくでしょう。結果として多くの人が都市から地方に移動するようになれば、地域企業も元気になり、地域活性化につながるでしょう。そのためにも、レビキャリを人材業界から「民業圧迫だ」と言われるくらいに成長させたいですね(笑)。

【入山】日本の最大の課題はイノベーションの創出です。その源泉は「人」ですから、人材の流動化が不可欠です。大企業から地域企業への人材の移転を先進的に進めているレビキャリの取り組みを、僕もいろいろな形で応援したいと思っています。