ワクワク感や「なぜなんだろう」との思いが学びの出発点になる
専門の技術、設備を活用し地域や産業の振興を支援
夢を持ち、タフで、人と協働できる。これが、掛下学長が考えるこれからの時代に必要とされる人材像だ。
「今後、科学技術の分野でも生成AIなどが既知のデータや理論を組み合わせ、効率的に成果を生み出していくでしょう。そうした中、人間に求められるのは、従来の延長線上にはない独創的な発想です。まさにそれを実現するために、他者と協力、議論して、粘り強く、理想を追求する力が重要だと私は考えています」
次世代をリードする人材の育成を目指す福井工業大学が、現在、力を入れていることの一つが宇宙関連の取り組みだ。あわらキャンパスでは口径13.5mのパラボラアンテナを建設中で、月周回軌道までの運用が可能な衛星地上局の構築も進めている。
「大学・民間でこの規模の設備を持っているところは他にありません。福井工業大学は『ふくいPHOENIXハイパープロジェクト』の下、宇宙技術開発や関連人材の育成に力を注ぎ、国際的事業であるアルテミス計画(※)にも貢献したいと考えています。例えば月面に基地を作り、運用するには幅広い知見が必要です。建築・土木やロボット、情報工学、食品、健康管理などの研究を行う私たちなら多様な技術、ノウハウを提供できる可能性がある。全学科が強みを生かして宇宙と関わる体制を強化していきたいと思っています」
独自性の高い取り組みとしては、原子力関連の研究も見逃せない。原子力技術応用工学科、また60年以上の歴史があるアイソトープ研究所を有し、原子力発電所における安全な廃炉方法、放射性医薬品を用いた診断や治療など、さまざまな研究を進めている。
「地元の企業などと共同研究、連携を行い、産業化にも積極的に取り組んでいきたい。専門の技術や設備を活用して地域に貢献していくことは地方大学の大事な役割です」と掛下学長は言う。
また、城郭や城下町に関わる調査、研究もユニークだ。全国的にも珍しい城郭研究所を大学として設置し、現地調査や文献調査を実施。VR(仮想現実)で福井城を体感できるアプリの監修などにも携わっている。
「城郭や城下町は確かに歴史的なものですが、そこには現代の建築やまちづくりの基礎になる高度な技術、手法が詰まっており、今とつながっています。大学の専門研究において継続性は一つの重要な観点で、それが知見の蓄積をもたらしてくれる。原子力研究なども一度中断してしまうと再開、再構築するのは大変で、核エネルギーを適切にコントロールしていくにはやはり絶え間ない取り組みが必要なのです」
※NASAが提案している月面探査プログラム。月面に人類を送り、月に物資を運んで、月面拠点の建設、月での人類の持続的な活動の実現を目指す。
課題解決のロールモデルを全国に提示していきたい
人材育成、学生支援の面では、インターンシップが福井工業大学の重要施策の一つだ。海外インターンシップは特徴的で東南アジアの日系企業などにおいて学生が業務を体験する。
「期間はおよそ3週間。しっかり時間を取り、企業活動のリアルな現場、また日本とは異なる文化、風習を体感してもらいます。そして終了後には、成果発表会を行い、身に付いたことや自分に不足していたことを確認する。それがさらなる学びのモチベーションになるからです」
未知のものとの出合い、初めての経験などがもたらすワクワク感や「なぜなんだろう」との思いが学びの出発点になる。これが掛下学長の考えだ。そのため、大学として新たな体験の場を提供することを大事にしている。
「私たちはAI&IoTセンターやまちづくりデザインセンターをはじめ独自のセンターを学内に設置し、その活動や研究にも学生にどんどん参加してもらっています。授業で学んだことを現場で生かし、地域の人と交わりながら、課題の解決に関わることは成長を後押しする力になるはず。そしてそれは、地域を活性化し、専門性を備えた人材を地元に輩出することにもつながります」
今や社会課題、地域課題の解決への貢献は大学の重要な使命といえる。その中で福井工業大学が考えているのは自らがプロトタイプとなり、福井モデルを構築することだ。大学、企業、行政などが緊密に連携し、持続可能な社会や新たな産業創出を実現する。そのロールモデルを全国に提示していくことを目指している。「“いま未来を創っている大学”としてこれからもチャレンジを続けていきたい」と掛下学長が語る福井工業大学からどのような成果、そして人材が生み出されるのか。これからに期待したい。