ワクワク感や「なぜなんだろう」との思いが学びの出発点になる

「2050年大学」を掲げ、“社会をネクストステージに導く研究開発”を推進する福井工業大学。工学部、環境学部、スポーツ健康科学部に加え、2023年度に経営情報学部を新設した同大学は、地域と連携した取り組みや確かな人材育成で地元企業、自治体などから高い評価を得ている。その教育、研究の基本にはどのような理念があるのか――。具体的な活動内容と併せ、掛下知行学長に聞いた。

専門の技術、設備を活用し地域や産業の振興を支援

夢を持ち、タフで、人と協働できる。これが、掛下学長が考えるこれからの時代に必要とされる人材像だ。

「今後、科学技術の分野でも生成AIなどが既知のデータや理論を組み合わせ、効率的に成果を生み出していくでしょう。そうした中、人間に求められるのは、従来の延長線上にはない独創的な発想です。まさにそれを実現するために、他者と協力、議論して、粘り強く、理想を追求する力が重要だと私は考えています」

掛下知行(かけした・ともゆき)
福井工業大学 学長
理学博士
1976年北海道大学理学部物理学科卒業。78年同大学院理学研究科物理学専攻修士課程修了。79年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程中退。大阪大学教授、大阪大学大学院工学研究科長などを経て、2018年4月より現職。

次世代をリードする人材の育成を目指す福井工業大学が、現在、力を入れていることの一つが宇宙関連の取り組みだ。あわらキャンパスでは口径13.5mのパラボラアンテナを建設中で、月周回軌道までの運用が可能な衛星地上局の構築も進めている。

「大学・民間でこの規模の設備を持っているところは他にありません。福井工業大学は『ふくいPHOENIXハイパープロジェクト』の下、宇宙技術開発や関連人材の育成に力を注ぎ、国際的事業であるアルテミス計画(※)にも貢献したいと考えています。例えば月面に基地を作り、運用するには幅広い知見が必要です。建築・土木やロボット、情報工学、食品、健康管理などの研究を行う私たちなら多様な技術、ノウハウを提供できる可能性がある。全学科が強みを生かして宇宙と関わる体制を強化していきたいと思っています」

独自性の高い取り組みとしては、原子力関連の研究も見逃せない。原子力技術応用工学科、また60年以上の歴史があるアイソトープ研究所を有し、原子力発電所における安全な廃炉方法、放射性医薬品を用いた診断や治療など、さまざまな研究を進めている。

「地元の企業などと共同研究、連携を行い、産業化にも積極的に取り組んでいきたい。専門の技術や設備を活用して地域に貢献していくことは地方大学の大事な役割です」と掛下学長は言う。

また、城郭や城下町に関わる調査、研究もユニークだ。全国的にも珍しい城郭研究所を大学として設置し、現地調査や文献調査を実施。VR(仮想現実)で福井城を体感できるアプリの監修などにも携わっている。

「城郭や城下町は確かに歴史的なものですが、そこには現代の建築やまちづくりの基礎になる高度な技術、手法が詰まっており、今とつながっています。大学の専門研究において継続性は一つの重要な観点で、それが知見の蓄積をもたらしてくれる。原子力研究なども一度中断してしまうと再開、再構築するのは大変で、核エネルギーを適切にコントロールしていくにはやはり絶え間ない取り組みが必要なのです」

※NASAが提案している月面探査プログラム。月面に人類を送り、月に物資を運んで、月面拠点の建設、月での人類の持続的な活動の実現を目指す。

宇宙開発の未来を支える「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」
写真は、あわらキャンパスに建設中の口径13.5mのパラボラアンテナ。衛星地上局の整備なども行い、福井工業大学では「ふくいPHOENIXハイパープロジェクト」を推進している。活動の基本に「宇宙研究の発展」「地域振興の発展」「観光文化の発展」への貢献がある。JAXAとの共同研究、福井県に本社を置くセーレンの超小型人工衛星の開発などにも取り組んでいる。

課題解決のロールモデルを全国に提示していきたい

人材育成、学生支援の面では、インターンシップが福井工業大学の重要施策の一つだ。海外インターンシップは特徴的で東南アジアの日系企業などにおいて学生が業務を体験する。

「期間はおよそ3週間。しっかり時間を取り、企業活動のリアルな現場、また日本とは異なる文化、風習を体感してもらいます。そして終了後には、成果発表会を行い、身に付いたことや自分に不足していたことを確認する。それがさらなる学びのモチベーションになるからです」

未知のものとの出合い、初めての経験などがもたらすワクワク感や「なぜなんだろう」との思いが学びの出発点になる。これが掛下学長の考えだ。そのため、大学として新たな体験の場を提供することを大事にしている。

「私たちはAI&IoTセンターやまちづくりデザインセンターをはじめ独自のセンターを学内に設置し、その活動や研究にも学生にどんどん参加してもらっています。授業で学んだことを現場で生かし、地域の人と交わりながら、課題の解決に関わることは成長を後押しする力になるはず。そしてそれは、地域を活性化し、専門性を備えた人材を地元に輩出することにもつながります」

今や社会課題、地域課題の解決への貢献は大学の重要な使命といえる。その中で福井工業大学が考えているのは自らがプロトタイプとなり、福井モデルを構築することだ。大学、企業、行政などが緊密に連携し、持続可能な社会や新たな産業創出を実現する。そのロールモデルを全国に提示していくことを目指している。「“いま未来を創っている大学”としてこれからもチャレンジを続けていきたい」と掛下学長が語る福井工業大学からどのような成果、そして人材が生み出されるのか。これからに期待したい。

地域、社会、学術の課題と向き合う福井工業大学のセンター&研究所
■AI&IoTセンター
AIとIoTを活用した社会変革や産業創造の支援、産官学連携の活性化、関連人材の育成を推進。地域の産業界のニーズと大学内のシーズのマッチングを促進する。
■まちづくりデザインセンター
自治体などとの連携によるまちづくり・地域づくり、持続可能な未来と社会に必要なモノ・コトづくりなどを行い、地域社会の課題解決を目指す。
■未来ロボティクスセンター
最先端のロボティクスを駆使し、農業支援ロボットや災害対応ロボット、月面で活躍するロボット、またAIを活用した車両制御やバイオ燃料などの開発を行う。
■ウェルネス&スポーツサイエンスセンター
新しい生活様式、超高齢社会など、変化する時代に対応し、健康増進やスポーツ活動を研究、支援。人々のQOLやスポーツ活動を豊かにしていくことを目指す。
■福井城郭研究所
福井城を主軸としながら、日本の近世城郭や城下町とまちづくりを総合的に研究する。現存しない城郭建築の3Dモデルでの復元などにも取り組んでいる。
■アイソトープ研究所
放射線管理区域を設定し、研究所を中心にコバルト60やセシウムなど放射性物質を用いた研究を推進。放射性物質を用いた磁気分離など先端研究も行っている。