1990年、56歳のときにセミリタイア宣言をして、以後オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、日本を「ひまわり生活」する大橋巨泉さん。そのようなうらやましい人生をわれわれも選択するために、いま何をすべきか。
大橋巨泉●おおはし・きょせん
テレビタレント・文筆家
1934年東京生まれ。大学在学中からジャズ評論家として活躍。テレビの深夜番組「11PM」の司会者で人気を博してテレビタレントに。その後「お笑い頭の体操」など数々のヒット番組を手がける。73年にはカナダなどに土産物店「OKギフト・ショップ」をオープンして実業家としても成功。『人生が楽しくなる絵画の見かた』など著書多数。
リタイア後の豊かな生活を
人生の目的にしよう
ボクが『巨泉 人生の選択』を書いたのは2000年ですから、もう12年がたちました。レギュラー番組をすべて降板して、「セミリタイア」宣言をしたのは1990年で56歳のとき。あれから22年にもなります。
この本でボクが言いたかったのは、人生の目的は何かということ。それは、後半生に豊かな暮らしをしよう、ということなのです。ボクもそうだったけど、日本人の前半生は仕事漬け。時間は自由に使えず、課長、部長、社長とひたすら上を目指す。社長になれたらなれたで、会長や相談役になって会社にしがみつく。自営業でも同じで、なかなか息子に仕事を譲らない。
ボクは22年前から“ひまわり生活”をしています。だいたい11月から4月中旬まではオーストラリアとニュージーランドで過ごし、4月中旬から5月いっぱいまでは桜咲く日本で暮らす。その後の3カ月はカナダのバンクーバー。夏が爽やかで過ごしやすい。カナダやオセアニアにはボクが経営する「OKギフト・ショップ」の支店が7つあるので、そこに顔を出したりゴルフをしたりですね。で、9月中旬頃に日本に戻って秋を楽しみながら、テレビの仕事などをする……という1年です。
本を書いた当時と今とでは、時代が相当に変わってしまいました。年金も外貨預金の金利も当時は良かった。ところがいまは、年金は減り、金利も大幅に低下。60歳定年が当然だったのに、年金が出せないから65歳まで働けという時代になった。これでは簡単にリタイアできませんよね。
後半生の生活に
優先順位をつける
本の中では、「豊かな後半生を送るために、リタイア後の優先順位を変える必要がある」と書き、第1が健康、第2がパートナー、第3が「趣味」、第4が「財政」としたけど、いまでは財政は趣味より優先しないといけない。
1番目の健康だけど、金があっても寝たきりでは最悪。それなら金がなくても元気なほうがいい。リタイア後の何がいいかというと、時間が余ること。たくさんゴルフができる、たくさん外国へ行けることなのです。だからいまでもボクは、毎年人間ドックに行っています。主治医をつくって仲良くなっておくとか、タバコをやめるとか、歯を大事にするとかの準備もリタイア前にやっておくことです。
ボクはいまでも、自分の歯が28本中25本あります。1回3分、1日に3回ずつ計9分の時間を使うだけで、リタイア後もうまいものが食べられて体調も維持できる。59歳のときに医者に勧められてストレッチを始め、これもちょうど20年。それに毎日腹筋を120回、背筋を240回しています。継続が大事なんですよ。
78歳になっても、まだ230ヤードくらいボールは飛ぶ。今年ボク、エージシュート(年齢以下の打数でホールアウトすること)を7回やりましたからね。37歳のタイガー・ウッズにはできない。悔しかったらやってみろ(笑)。
第2がパートナー。「パートナーは妻でなくてもいい、こいつの顔は見たくもないという女房だったら、すぐ離婚しなさい」と本に書いたら大反響。「明日にでも離婚したいけど、どうしたら離婚できるか教えてください」っていう投書がきて困っちゃった。
ただ、年を取ってくると夫婦は支え合うようになるからね。1人では大変ですよ。「屁をひって おかしくもなし 独り者」という川柳があるけど、やはりおかしくもないのは寂しいし、1人で笑っているのも気味が悪い(笑)。
第3の「趣味」が、ないのも寂しい。リタイア後にやることがないと人はボケる。外国の友人にはそういう人はいません。ボクは麻雀やゴルフ、将棋や競馬が好きで、それをテレビでしゃべっただけでお金がもらえたけど、そういうのはまれですよね。
就職して、ほんとは営業やりたいのに総務をやっているという人、いるじゃないですか。嫌々やっているけど、割り切ってほしい。これは将来リタイアした後の資金を稼ぐ仕事だと。クビにならない程度にやって、それ以上やる必要はない。その分を趣味に向けたほうがいい。趣味で金を儲けようというわけではなくてね。