【特別対談】竹内 啓[大東建託社長]×片岡達也[横浜銀行頭取]

経済的価値と併せて“社会的価値”を追求することは、今や企業の重要な使命だ。ビジネスマッチング契約やグリーンローンでつながりを持つ大東建託と横浜銀行も、事業の特徴、強みを生かしながら、社会課題の解決や地域活性化に力を注いでいる。そこにはどのような思いがあるのか――。それぞれの経営トップである竹内啓社長と片岡達也頭取が語り合った。

循環的に利用できる木材の脱炭素効果は大きい

【竹内】建物賃貸事業の企画から設計・施工、管理・運営までを手掛ける大東建託の基本にあるのは、「地球環境=住環境」という考えです。豊かな環境を次世代に引き継ぐため、例えば温室効果ガス排出量の削減、地域貢献活動の積極実施などのKPIを設定し、進捗しんちょく状況は取締役会で定期的に確認しています。

竹内 啓(たけうち・けい)
大東建託株式会社 代表取締役 社長執行役員
1989年大東建託入社。首都圏営業部長、東海営業部長、取締役 執行役員 テナント営業統括部長、常務取締役 建築事業本部長などを経て、2023年4月より現職。建築事業本部長も兼務している。

【片岡】地域金融機関である横浜銀行にとっても、地域の持続的な成長を促すことは大事な責務です。そのため、ステークホルダーの皆さまの暮らしやビジネスに関わる課題の解決に取り組んでおり、地域側からも金融機関のネットワークを生かした具体的な活動が求められていると強く感じます。

【竹内】社会課題に対するお客さまの意識は年々高まっていますね。大東建託は2017年、年間の1次エネルギー消費量の収支がネットでゼロとなるZEH基準を満たす賃貸集合住宅を業界で先駆けて完成させました。今や全契約の約8割がZEH仕様。当初の想定を大きく超えています。

【片岡】脱炭素をはじめとする社会課題が多くの人、企業にとって“自分ごと”となっている。その証しだと思います。そうした中、私たちは事業をSDGsの観点で評価したり、温室効果ガス排出量の可視化を支援したり、お客さまの取り組み状況に応じた最適なソリューションを提供しています。

【竹内】サステナブルファイナンスにも積極的に取り組まれていますね。

【片岡】はい。当社グループでは当初30年度までのその目標実行額を2兆円としていましたが、高まるニーズに応え、現在は4兆円に引き上げています。

【竹内】23年1月、当社にも「SDGsグリーンローン」を提供いただきました。

【片岡】当行を含む地方銀行9行でローンを組成し、大東建託さんが管理する賃貸住宅に太陽光発電設備を新規設置する資金を融資しました。

【竹内】発電した電力は可能な限りその建物で消費することにより、既存の建物でもCO2の排出削減につながる仕組みです。

【片岡】融資した案件が具体的な成果を上げることによって、私たちもサステナブルファイナンスの意義を再確認できます。「社内の環境意識が高まった」といった声も複数のお客さまから聞かれました。

【竹内】大東建託としては、やはり住まいを通じて脱炭素という課題の解決に貢献していきたい。そもそも私たちが提供する建物の8~9割が木造で「CO2の固定化」に寄与します。木材は植林、伐採、木材利用、建設、解体、そしてエネルギー利用が可能で脱炭素効果はとても大きい。当社では木材調達方針なども策定し、環境配慮を推進しています。

【片岡】長期的な目線で取り組みを進めているのですね。

【竹内】近年は、徹底した省エネや創エネなどによって建築、生活、解体まで建物のライフサイクル全体でCO2の収支をマイナスにするLCCM基準を満たす集合住宅の開発にも力を入れています。22年には大学との共同研究の下、この基準に合致する規格型の賃貸集合住宅商品を国内で初めて(※)販売しました。

※一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)のLCCM住宅認定取得一覧より、大東建託調べ(2022年10月)。

“地域のハブ”となって金融機関の強みを生かす

【片岡】持続可能な社会の実現の観点から、横浜銀行では地域活性化の支援も重視しています。「まちをつくる」「ひとの流れをつくる」「しごとをつくる」との方針を掲げて多面的な活動を行っており、その中で特に意識しているのは“地域のハブ”として役割を果たすことです。

【竹内】先ほど「金融機関のネットワークを生かす」というお話がありました。

【片岡】地域の魅力創出、課題解決といっても、私たちだけでできることには限りがあります。取引先や関係機関、自治体が持つノウハウや技術をつなぐことで、活動はより充実したものとなる。22年に横浜銀行が立ち上げた「地域脱炭素プラットフォーム」はその一例です。神奈川県を含む31の自治体が参加し、担当者らが意見交換する貴重な場となっています。そこから横浜銀行と自治体が使用するEV車両を、休日に地域に開放する「EVカーシェアプロジェクト」なども生まれました。

横浜銀行、伊勢原市、ENEOS、浜銀ファイナンスによるEVカーシェアリング。平日に伊勢原市、横浜銀行が公用車(行用車)として利用するEV車両を、休日は地域住民や観光客に有料で開放する。

【竹内】まさに地域の知見がつながり、具体的な取り組みが始動したわけですね。地域活性化について大東建託としては、「まちづくりへの貢献」が大きなテーマになります。これまで提供してきた賃貸住宅や介護施設、保育施設を地域ごとにつなぐことで地方創生の一助となりたい。グループパーパス「託すをつなぎ、未来をひらく。」の下、次世代に自信を持って託せる「くらし」を今後も築いていきたいと考えています。

片岡達也(かたおか・たつや)
株式会社横浜銀行 代表取締役頭取
1990年横浜銀行入行。ロンドン駐在員事務所長、コンコルディア・フィナンシャルグループ執行役員、東日本銀行取締役などを経て、2022年4月より現職。コンコルディア・フィナンシャルグループ代表取締役社長も務める。

【片岡】大東建託さんの事業を見ると、単に建物を提供するだけでなく、それを基盤に充実したライフスタイルの実現を目指していることが分かります。その意味では、金融機関が持つネットワークを活用してさらに新しい価値を創造できるのではないかと感じます。

【竹内】社内のリソースと外部のリソースを結び付け、点の取り組みを線や面へと発展させていく。それが当社の目指していることです。今、さまざまな社会課題が刻々と深刻化しており、それに対応するにはこちらも絶え間なく変革していく必要があります。多様なコラボレーションはその原動力となるに違いありません。

【片岡】「変化を恐れるな」。これは私が行内で発信していることの一つです。おっしゃるとおり、変革に「これで十分」ということはありません。横浜銀行としても、協働や連携の下で常に挑戦を続け、グループのビジョンである「地域に根ざし、ともに歩む存在として選ばれるソリューション・カンパニー」を具現化していければと思います。

社会的価値の創造に向けビジネスパートナーとして協業しています