企業貢献として、モノづくり精神を培うために何ができるか?
住友重機械工業では「一流の商品とサービスを提供し続けること」を企業使命としている。その実現を目指し、企業として社会課題への貢献を行う責務があることから、具体的な活動が計画されるようになった。
そこで考えられたのは、地方創生・地域活性化のため、モノづくり精神を培うために何ができるかということ。そこから突き詰めて「教育」というテーマにフォーカスし、小学生を対象としたワークショップ「やさしいミライの学校」が企画されることとなった。
STEAM教育で未来のイノベーション人財を育成する
科学技術が進歩するなか、小中学校ではプログラミングの授業が必修化され、考える力・理系教育の育成が求められるようになっており、幼児期からSTEAM教育(※1)に触れる機会も増えている。
また、今や理系思考が求められているのはテクノロジー産業に限ったわけではない。農業や漁業などの産業においてもプログラミング等の専門技術・知識は必要不可欠だ。つまり、都市部だけでなく地方においても必須能力だといえるだろう。
そこで住友重機械工業は、都市や地方にかかわらず、今後重要となる理系思考を育む機会を設けるために、「STEAM教育で未来のイノベーション人財を増やす。地域貢献を基点としたコーポレート・コミュニケーション」をコンセプトとした、「――人を想い、未来のつくり方を学ぶ―― やさしいミライの学校」を実施。会場は、住友重機械工業のはじまりの地である、愛媛県新居浜市の愛媛県総合科学博物館に決定した。
当ワークショップでは、教育プログラムを提供する企業(※2)と協力して独自のプログラムを開発。地域の小学生に向けて、難しいと思われがちな理系の考え方をより分かりやすく伝え、理系への興味関心・学ぶ意欲を後押しすることを狙いとした。
(※1)科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。(STEAM JAPAN「STEAM教育って?」より引用)
(※2)ワークショップは住友重機械工業が主催し、子ども向けワークショップやコンテンツ開発を手掛ける株式会社CANVASがプログラムの開発を担当している。
子どもたちが考える「あったらいいな」から未来の暮らしを創造する
「やさしいミライの学校」は2023年12月2日(土)と3日(日)の2日間で、それぞれ午前の部と午後の部があり、計4回実施された。各回120分程度で行われ、2日間で計60名の子どもたちが参加した。
テーマは、「未来の暮らしを考える」こと。
今の私たちの暮らしには、昔の人達が想い描いたたくさんの「あったらいいな」が実現されている。例えば、トイレなどにある手をかざすだけで水が出てくる蛇口、自分で運転しなくても勝手に運転してくれる自動運転など。もちろん、住友重機械工業も「あったらいいな」を創造し続けて発展してきた企業である。そうしたことと同様に、2023年の子どもたちが「あったらいいな」を想い描き、形にする。そのことで未来の暮らしを考えるというのが趣旨だ。
ちなみに、「やさしいミライの学校」というタイトルにも意味がある。
住友重機械工業は、暮らしが便利になるということは、人や社会を「やさしさ」で満たすことだとする。別子銅山での人力による過酷な採鉱作業を機械で便利にするために工作方として誕生したのが住友重機械工業。同社は今なお、人の暮らしが便利にする事業を推進している。その想いが、タイトルに込められているのだ。
●アイスブレイク:やさしいって何だろう?
ワークショップは参加者を3~5名でグループ分けし、まずウォーミングアップとして、そもそも「やさしいとはなんだろう?」を考えてもらうアイスブレイクからスタートした。
子どもたちが付箋に「やさしいと思うもの」を書き、それをボードに貼り付けていき、「やさしい」を再確認するのだ。そして、「やさしい」と「未来の暮らし」をつなげて考え、それを実際に作ってみる、というワークショップの意図が説明された。
●ワークショップ:テクノディアカードを用いて「あったらいいな」を考えてみる
ワークショップでは、「テクノディアカード」が用いられた。これは、子どもたちにSTEAM教育の概念を分かりやすく感じてもらうために株式会社CANVASが独自開発したツールだ。カードは黄色の「あったらいいなカード」、緑色の「テクノロジーカード」、桃色の「ツールカード」の3種類がある。
「あったらいいなカード」には「入院中のこども」や「小さなこどものいる家庭」「お店の人たち」など困り事を抱えている街の人たちが描かれている。
そうした人たちに対して、例えば「テクノロジーカード」に描かれている「センサー」などのテクノロジーと、「ツールカード」に描かれている「マイク」といったツールを使って、どのように「あったらいいな」を叶えられるかを考えていく。
●ワークショップ:ワークシートに記入して「あったらいいな」を作る
子どもたちが考えたことは、「ワークシート」に記入していく。このワークシートが埋まることで未来の「あったらいいな」の設計図が完成する。
また、子どもたちはAIチャットに相談することもできる。例えば未来の「あったらいいな」の名前は何がいいだろうか? 考えてみたけれど、既にあるものだろうか? それは本当に「やさしい」のだろうか? 作るとしたらどんなデザインがいいのだろうか? そんなことをAIに聞くことで、子どもたちがAIに触れて体験できることも狙いとなっている。
そうして完成した未来の「あったらいいな」の設計図を基に、用意された画用紙や紙コップ、ストロー、ボタン、輪ゴム、針金など、さまざまな資材を用いてモノづくりをし、最後に子どもたちは前に出て順に発表していった。
子どもたちは悩むことなく、積極的に未来の「あったらいいな」のアイデアを出し、工作を楽しんでいた。用意された「テクノディアカード」には既に多彩なテクノロジーやツールが描かれているが、例えば「マイク」をどこまで拡大解釈できるか? 発想を飛躍させることができるかがポイントとなる。そこに「子どもならでは」の豊かな着想が活かされるといっていい。
また、子どもに付き添った保護者へのアンケートでも、「普段、考えないことを考え、工作し、いい勉強になったと思う」「自分で考えて作る。いろんなお友達と意見が言い合えた。とても良い経験になった」「正解のない新しいモノをつくる世界観が素敵だと思った」「今から未来を創っていく子どもたちの考え方もあり、モノづくりの大切さを遊びながら学ぶ、こういうワークショップはとてもいいと思いました」などの感想があり、親子ともに好評だったようだ。
「やさしいミライの学校」を通じて、教育の機会拡大を目指す
未来の暮らしを創るためには、テクノロジーをもっと身近なものにする必要がある。そのためにはさまざまなテクノロジーやツール、そしてAIとの共生も必要不可欠だ。
そもそもSTEAM教育は未来の暮らしを創る上で必要な学びの手法である。STEAM教育に取り組むことで、「あったらいいな」という社会課題が解決されることが期待できるのは明白だ。「やさしいミライの学校」は、「あったらいいな」を解決する機械を作り続け、「やさしい」を追い求めてきた住友重機械工業らしいワークショップだといえる。
住友重機械工業は、都市や地方にかかわらずSTEAM教育の機会を増やしていくきっかけになればと、「やさしいミライの学校」の実施に踏み切った。今回は住友重機械工業のはじまりの地である愛媛県新居浜市での開催となったが、住友重機械工業の拠点が日本全国にあるという大きな強みも活かして、今後、この活動を全国的に広げる可能性もあるという。
そして、子どもたちにSTEAM教育に触れてもらい、未来のイノベーション人財を増やすことを目指していくとのこと。今後の住友重機械工業の取り組みにも注目だ。