違和感や疑問を「問い」に変える。学生のそうした力を育てていく
浄土真宗の教えの下「仏教SDGs」を推進
――メガソーラー発電所の設置への参画など、脱炭素に向けた取り組みで成果を上げています。
【深尾】きっかけは東日本大震災による原発事故でした。多くの人がエネルギーについて自覚的に考えるようになる中、地域社会の一員である大学も再生可能エネルギーの普及に主体的に取り組む必要がある。そう考え、太陽光発電の推進を決めました。現在、5カ所ある発電所の総設置容量は約7400キロワット。売電収入から必要経費を差し引いた利益を設置地域に還元する地域貢献型の事業モデルが「龍谷ソーラーパーク」の特徴です。そこで発電した電気を自分たちのキャンパスで使う仕組みも整え、2024年1月からは3キャンパスの使用電力の約40%を賄う予定です。
――22年に「カーボンニュートラル宣言」も発出しています。
【深尾】私たちはこれまで経済成長を急ぐあまり、物事の“関係性”をないがしろにしてこなかったか。経済性や快適性を優先し、その裏側で起こっていることから目をそらしてこなかったか。背景にはそうした反省があります。龍谷大学が基盤に置く浄土真宗は、もともと物事の因果を重視し、生きとし生けるものを決して見捨てない「摂取不捨」の教えを持っています。そうしたことから本学では「仏教SDGs」を掲げており、それを具体的な行動につなげるためにも、創立400周年となる2039年までの各キャンパスのカーボンニュートラル実現などを宣言しました。
――大学が社会課題の解決に取り組む意義はどんなところにありますか。
【深尾】現代の社会課題は非常に複雑で、「AかBか」の二者択一では到底解決を図れません。そこでは、大学が蓄積してきた知が重要な役割を果たすはずです。今、社会構造の根本的な変革が迫られている。その中で大学は外部に開かれた存在となり、社会変革の中核的担い手となるべきというのが私たちの考えです。
イノベーションを起こす“変人”を輩出していく
――そうした大学の姿勢は、学生にどのような影響を与えていますか。
【深尾】ソーシャルビジネスなどに関心を持つ学生が増え、学生起業家も多く誕生しています。若い世代の強みは、いい意味での“青さ”です。大人たちが「仕方ない」と見過ごしたり、諦めたりしている問題に対して、純粋に「それはおかしい」と向き合うことができる。それが問題解決の突破口になることがあります。
21年から開催している「龍谷大学学生気候会議」は象徴的な活動の一つです。欧州で始まった「気候市民会議」に倣い、学生たちが温暖化対策などを議論する。すると、「構内の自動販売機を減らしては」「校舎の建材に間伐材を採用すべき」などの提言が出てきます。理論や理屈から入る頭でっかちな意見ではなく、とても具体的、実践的なのです。
――実社会で課題と向き合い、行動できる人材を育成するために何を重視していますか。
【深尾】一言でいえば「問う力」です。単に「それはおかしい」と思うだけでは事態は改善していきません。自分が感じた違和感や疑問を「何がおかしいのか」「どうしたらいいのか」と問いに変える力こそが問題解決につながっていくのです。そうした力を育てるにはやはり教育が必要で、教員陣が授業やゼミなどで強く意識している部分でもあります。
――行政や企業との外部連携で大切にしていることを教えてください。
【深尾】創立400周年に向けた「龍谷大学基本構想400」では、「コレクティブ・インパクト(※)の創出」を掲げています。例えばカーボンニュートラルも、龍谷大学だけが達成すればいいという問題では当然ありません。多様な分野のプロが専門性を持ち寄り、社会全体で達成することが求められています。ある意味で中立的な立場にある大学は“連携のハブ”になり得る。そうした存在としても、社会変革を後押ししていきたいと考えています。
――最後に、今後に向けた抱負を聞かせてください。
【深尾】私の好きな言葉に「変人は変える人」があります。どんな分野でも先駆者は変わっていると思われますが、不可能と考えられていたことを可能にするのは、結局そうした人たちです。シビアな問題と対峙しても、さまざまな主体と連携しながら、「問う力」を持って壁を乗り越えていける。そうしてイノベーションを起こせる“変人”を一人でも多く輩出していけたらと思います。
※社会課題の解決に向け、行政、企業、NPO等の市民社会、学校など多様なセクターがそれぞれの強みやノウハウを生かしながら、協力するアプローチのこと。