大胆な規制改革の下、AIやビッグデータなどの先端技術の活用、また複数分野間でのデータ連携を通じて、生活全般にまたがる先端的サービスを提供する――。2030年ごろの未来社会の先行実現を目指した内閣府の「スーパーシティ構想」が進行中だ。22年4月にスーパーシティ型国家戦略特区として指定された茨城県つくば市は、「つくばスーパーサイエンスシティ構想」を推進。すでに実証事業なども始めている。研究学園都市として、約150の研究機関、約2万人の研究開発従事者、そして約1万人の外国人を有するアカデミックな同市は、どのような取り組みを進めていくのか。五十嵐立青つくば市長に聞いた。

インターネット投票の実現に向けて模擬投票も

――「つくばスーパーサイエンスシティ構想」の全体像、その中で力を入れていることを教えてください。

【五十嵐】つくば市が抱える問題は、大きく「都市と郊外の二極化」「多文化共生の不備」「都市力の低下」の三つですが、実はこれらは多くの都市に共通する問題といえます。つまり、ここから派生する地域課題を解決することは、日本全体にとって意味を持つ。そこで私たちは、つくば市の特徴である大学・研究機関の科学的な知見を取り入れながら、企業や住民とも連携して、移動・物流、行政、医療など6分野(左図参照)で先端的なサービスの展開を進めていく予定です。

取り組みの中で力を入れていることの一つ目は「規制改革」。例えばインターネット投票はすでに技術的には可能でも、現在の法令の下では実際の選挙では行えません。先端的なサービスを社会実装する際は、社会のルールについてもセットで考えなければならないのです。二つ目は「beyond PoC」。市内ではこれまで、搭乗型移動支援ロボットなど、多くの実証実験を行ってきました。しかし、それが実験で終わっては意味がない。持続的に人々の生活に貢献してこそ価値があると思っています。そして三つ目が「住民との対話」。各種サービスは手段であり、現実の課題からスタートしなければ住民に受け入れてもらえません。そこで私や市の職員は可能な限り地域に出向き、住民と対面でコミュニケーションを取るようにしています。

――24年10月の市長選・市議会選では、オンデマンド型の移動期日前投票所が実現する見込みです。

【五十嵐】事前に予約を頂くことで、投票所となるワゴン車が高齢者や障害者の自宅を回る予定です。これまでも全国で、住民が集まりやすい場所に自動車などで投票所を設置する取り組みは行われていましたが、今回は自宅を回るのがポイント。投票所まで行きたくても行けなかった人に対応します。

――従来にない画期的な施策です。

【五十嵐】ありがとうございます。ただ、それでも自宅から出られない人は依然取り残されてしまう。究極的には自宅で投票できるインターネット投票を実現すべきです。昨年度、1万4000人の市民を対象にマイナンバーカードとブロックチェーン技術を活用したスマートフォンでの模擬住民投票を行いましたが、システム的な問題は起こりませんでした。憲法が規定する地方自治の本旨、とりわけ住民自治の観点から、“誰一人取り残さない投票機会の確保”は極めて重要だと考えています。

データ連携基盤を活用し便利、快適な生活環境を整備

――規制改革については、つくば市からの提案に基づき、外国人創業者の在留資格要件の緩和が実現しています。

五十嵐立青(いがらし・たつお)
つくば市長
1978年つくば市生まれ。2004年から2期にわたり、つくば市議会議員を務める。16年つくば市長に就任。17年に第12回マニフェスト大賞首長部門優秀賞受賞。19年にG1新世代リーダー・アワード 政治部門受賞。市長就任以来、「世界のあしたが見えるまち」というビジョンを掲げている。

【五十嵐】スタートアップ人材の確保が一つの狙いです。規制を緩和し、研究者や学生、そして外国人の起業を後押しすることはつくば市の強みを生かすことにつながる。法人設立時の各種申請をオンラインでも可能にしたり、関連の相談を市のスタートアップ推進拠点「つくばスタートアップパーク」で受けることができるようにしました。

――23年10月、大阪府と並んでつくば市のデータ連携基盤整備事業は、全国で初めて内閣総理大臣の認定を受けました。多様な分野のデータを横断的に収集し、活用できるようになりますが、どんな取り組みを進めますか。

【五十嵐】まずは移動スーパーやコミュニティバスの位置情報を活用して運行情報を可視化したり、国土交通省の3D都市モデルと防犯情報を組み合わせてリスクマップを作ったりしていく計画です。そして中期的には、AIオンデマンドタクシー、自動運転バス、パーソナルモビリティのシェアリングなどを導入。それらと公共交通機関の全体最適を図り、「都市と郊外の二極化」によって自身での運転を余儀なくされている郊外の高齢者の移動を支えていきたいと考えています。

――位置情報以外のデータの活用についてはどうですか。

【五十嵐】将来的にはヘルスケアの分野を中心としたプライバシーデータの活用も視野に入れています。誰もが健康で長生きでき、便利に、快適に生活できる環境を整備して住民のQOLを向上させることは大事なテーマです。

――データ連携基盤の整備に当たっては、個人情報保護も重要な課題です。

【五十嵐】おっしゃるとおり、多様なプライバシーデータの活用は、高度なサービスの実現につながる一方、情報漏えいなどの不安を感じる人もいる。そこでつくば市では、サービス構築前にデータの「取得→利用→保管→廃棄」の各過程におけるリスク影響などを分析し、適切な対策が講じられていることを確認する「プライバシー影響評価」の導入に向け、有識者と市民で構成する懇話会で議論を進めています。

加えて、住民理解のさらなる促進の観点から、市内の二つの中高一貫校と協定を結ぶなど、中高校生と連携できる体制も作りました。10年、20年後にまちづくりの主役となる若い人たちとも一緒に考え、持続可能な未来都市を創造していきたいと思っています。

――構想実現に向けては、産学官民の連携の輪がいっそう広がることが重要です。つくば市の取り組みに期待、注目する人へメッセージをお願いします。

【五十嵐】構想の推進に当たり大切にしているのは、まさに「ともに創る」ということです。住民の皆さんには自分たちが主役だという気持ちを持っていただき、大学や研究機関、企業、行政からはどんどん意見を頂きたい。私たちは日本最大の科学技術都市として、地域の課題解決のみならず、日本を再興するイノベーションを創出していけると確信しています。ぜひ、つくばをフィールドとして、先端的なサービスの構築に挑戦してください。

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