コミュニケーションアプリによる顧客接点のDXが注目されている背景
従来、人々の連絡手段はメールや電話が中心だったが、近年はスマホの普及によって、LINEやInstagramといったアプリを利用することが日常となった。その一方で、企業のマーケティングや販促においては、メールや電話、チラシ、ハガキなどが顧客接点拡大や情報発信の手段として今も日常的に使用されている。広告へのデジタル活用が急速に進む中、LINEやInstagramなどのコミュニケーションアプリを顧客との連絡手段には活用しきれていないのが実情だ。
また、広告へのデジタル活用においても、新たなマーケティング手法の必要性も高まっている。GAFAなどのプラットフォーマーは、プライバシー保護を目的に、ウェブサイト上でユーザーの行動履歴データを収集・活用できる「サードパーティクッキー」の利用規制を強化しつつある。このため、企業は従来のように、ウェブサイト上の顧客の行動データを活用したインターネット広告の配信や販促活動を行うことがさらに困難になっていく。
こうした環境変化から、今後、顧客とのコミュニケーションは、個人情報保護を尊重しながら、顧客一人ひとりに合わせたコミュニケーションツールを活用して、より親密な関係性を構築することが重要になっていくと考えられる。そこで注目されるのが、LINE公式アカウントを活用した顧客コミュニケーションだ。LINEヤフー株式会社ビジネスソリューション開発本部の宮本裕樹本部長はこう語る。
「サードパーティクッキーの利用規制やステルスマーケティング規制が強まる中、LINEヤフーのデータを活用したユーザーの顧客体験向上は、私たちが今後、最も注力していきたいテーマのひとつです。現在、LINE公式アカウントは主に『顧客接点を増やす』目的で利用されていますが、今後は、企業が保有している顧客データとの連携によって『最適な顧客コミュニケーションを構築する』ことが不可欠になってきます。LINEにおいては、CDP(Customer Data Platform)やMAツール(Marketing Automation tool)の領域をMicoworksのようなパートナーに担っていただくことによって、顧客データの連結やユーザー体験向上を実現していますが、今後、こうしたパートナーの重要性は、特に大手企業においてさらに増していくと考えています」
LINE公式アカウントを起点に、企業とユーザーの双方向の関係を実現するビジネスプラットフォームを提供
現在、LINE公式アカウントは、集客や販促に役立つ便利なコミュニケーションツールとして、さまざまな企業や店舗などに活用されている。ただ今後は、単にLINE公式アカウントを開設するだけではなく、ユーザーにとって自然な流れで「友だち追加」してもらえるような流れを、いかにつくるかが重要だとMicoworks株式会社の八重樫 健氏は言う。その好例が、現在、宅配便各社が取り入れている「LINE通知メッセージ」だ。
「LINE通知メッセージ」(※)は、ユーザーがLINEアプリに登録している携帯電話番号情報と、企業が保有する顧客の電話番号情報を照合させることで、友だち以外のユーザーに対してもメッセージ配信が可能になるサービス。ユーザーあてに荷物の配達予定がある場合、LINE公式アカウントから『LINE通知メッセージが届きました』とのメッセージが届く。そしてユーザーは、トーク画面のメニューから配達日時の変更や再配達依頼ができるというものだ。
「Micoworksにおいても『LINE通知メッセージ』の提供を拡大していますが、このように、『ユーザーにとって利便性のある情報』を伝えることで、より親密な関係を築くことができます。関係構築とデータ連携を両立した、企業とユーザーとの双方向の関係を実現するプラットフォームの提供により、顧客との最適なコミュニケーションを実現できると確信しています」と話すのは、Micoworks株式会社の八重樫氏。
いまやLINEは、店舗や中小企業のみならず、BtoCビジネスを展開しているすべての企業にとって無視できないビジネスプラットフォームとなっている。こうした現状に対応するため、Micoworksでは、大手企業にフォーカスしたサービス提供にも注力しているという。
その代表例が、総合人材サービスをグローバルに展開する企業アデコにおける事例だ。
海外においては、企業と求職者のコミュニケーションをWhatsAppなどのメッセージングサービスで行うことが一般的になっている一方、日本はメール・電話でのコミュニケーションが中心だ。
アデコ日本法人においては、メールで行っていた求職者とのコミュニケーションに、LINE公式アカウントを活用したマーケティングプラットフォーム「MicoCloud」を導入。
LINE上で取得するデータを基に求職者に合ったコミュニケーションを行うことで、利用者の利便性・反応率を向上し、KPIの一つである仕事応募数を大きく拡大することに成功した。
今後は求職者とキャリアエージェントの1対1のコミュニケーションにもMicoCloudを活用することで、更なるサービスの向上と新規会員の獲得、既存会員の継続利用を目指していく。
「人材業界だけでなく、不動産、金融、保険など、LTV(Life Time Value=顧客最大価値)が高い商材を扱う業種においては、個人営業・カウンセラーの担当者が付くビジネスモデルであり、同様の課題を抱えています。顧客と営業担当者の間ではLINEを利用したいが、個人のLINEアカウントではセキュリティ的に利用しにくいという課題感や、本社側でのガバナンス管理が難しいというものです。このように、私たちのような課題解決のパートナーが業種ごとに特有の課題を伴走して解決していくことによって、ビジネスシーンにおけるLINEの価値をさらに高め、DXを加速することができると思っています」と八重樫氏は話す。
LINEヤフー社が掲げる「Connect ONE」構想と海外展開の可能性
LINEヤフーは10月2日、LTVを最大化させるプラットフォーム「Connect ONE」構想を発表した。これは「LINE公式アカウント」が、LINEヤフーが提供するすべての法人向けサービスの起点となり、LINEヤフーのタッチポイントで接触したユーザーのサービス利用情報をストック化することによって、集客から予約、購買、顧客管理までを一気通貫で実現するというものだ。
宮本氏は、こう話す。
「Connect ONEの実現によって、広告主はLINE公式アカウントを開設するだけで、LINEヤフーに関連する法人向けサービスの利用を開始できるだけでなく、LINEヤフーのあらゆるタッチポイントにおいて、企業の基本情報の掲載、広告、販促キャンペーンなどを一元管理できるようになります。私たちのビジネスとしても、従来の広告市場にとどまらず、CRMやDX、カスタマーサポート分野へと拡張していく。今後、MicoworksのようなAPIパートナーとの協力はこれまで以上に重要になってきます」
LINEヤフーは現在、グローバルでもユーザーの生活を支えるさまざまなサービスを展開している。とりわけタイと台湾において、LINEは圧倒的なシェアを獲得できているという。
「特に台湾では、商店街の店舗でも当たり前のように使われていて、日本以上にインフラ化している印象です。現地のニーズに徹底的に寄り添い、現地で企画、開発、運営する、ハイパーローカライゼーションを進めることで、まだまだ成長の余地はある。私たちも大きな可能性を感じています」(宮本氏)
Micoworksでも、この流れと歩調を合わせるように、ビジネスのアジア展開を加速している。
「当社では『アジアNo.1のブランドエンパワーメントカンパニーを目指す』というビジョンを掲げています。このビジョンを実現するために、今年からフィリピンのマニラに開発拠点を構え、データサイエンティストの採用を加速するために台湾にも拠点を立ち上げる予定です。こうした現地開発拠点をベースとして現地のニーズを掘り起こし、LINEのハイパーローカライゼーションに寄与していきたいですね」(八重樫氏)
LINEヤフーやMicoworksが構想を広げることで加速度的に進む、グローバルな顧客コミュニケーションの最適化……さらに可能性が広がる未来に期待は膨らむ。
※「LINE通知メッセージ」はLINEヤフー株式会社が提供する、企業からの利便性の高い通知を企業のLINE公式アカウントから受け取ることができる機能。本機能の利用に同意することで、個別のアカウントを友だち追加することなく、簡単に通知メッセージを受け取ることが可能になる。対象はLINEヤフー株式会社がユーザーにとって有用かつ適切であると判断したものに限定され、広告目的のものは配信されない。