鼻水や鼻詰まりが長引く場合、慢性副鼻腔炎の可能性がある。仕事のパフォーマンス低下や不眠などビジネスパーソンにとって大敵だ。意外と知らない慢性副鼻腔炎や鼻の中にできる鼻茸について深掘りしてみた。

3カ月以上続く鼻詰まりには注意が必要

風邪をひくと、鼻水が出たり、鼻が詰まったりすることがよくあるが、「鼻水が止まらない」「鼻がずっと詰まっている」といった状態が長期間続くようであれば、「慢性副鼻腔炎」の疑いがある。鼻水や鼻詰まりは、ありふれた症状なので、多忙なビジネスパーソンは深刻に受け止めず、症状を抑えるためにドラッグストアで買った市販薬を飲んだりして、しのいでいるケースが少なくない。しかし、早期に適切な治療を受けないと重症化し、QOL(生活の質)が著しく低下するので要注意だ。

働き盛りの40~50代に多いとされる慢性副鼻腔炎。治療を受けることが快適な日常を取り戻すきっかけになる。

鼻の穴の奥には「鼻腔」があり、さらに、鼻腔を取り巻く「副鼻腔」という空洞とつながっている。風邪などで鼻の中にウイルスや細菌が侵入すると、副鼻腔の粘膜が炎症を起こし、鼻水や膿がたまり、ウイルスや細菌がさらにはびこりやすくなるという悪循環に陥る。それが「副鼻腔炎」が起きる仕組みだ。急性副鼻腔炎であれば、1カ月以内に治まるのが普通だが、もし症状が3カ月以上続くようであれば、慢性副鼻腔炎の疑いがある。炎症が慢性化することで、何が起きるのだろうか?

慢性副鼻腔炎では、副鼻腔の炎症が長期間続くことで、粘膜の組織が変化して一部が腫れ上がり鼻の内部にキノコのようなポリープが形成されることがある。この鼻の中のポリープこそが「鼻茸はなたけ」だ。

鼻の中に発生した鼻茸。慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の患者のうち10~20%、およそ20万人に鼻茸があるとされている。鼻の奥の方にできるが、ある程度の大きさになると鼻腔の入り口からも見えるようになる。

知らないと損をする鼻茸が及ぼす生活への悪影響

鼻茸は良性腫瘍でがん化する心配はない。しかし、原因となる炎症が続いている限り、初めは小さかった鼻茸が徐々に大きくなる。鼻茸が大きくなると、常時鼻が詰まった状態になり、副鼻腔の粘膜を刺激し続けるので、鼻水が止まらないのだ。咳や痰が、止まらなくなることもある。また、鼻詰まりで鼻呼吸がしにくくなり、口呼吸に偏るので、口内が渇いて口臭がひどくなったり、風邪をひきやすくなったりもする。デメリットのオンパレードというわけだ。

それだけではない。鼻茸が大きくなると、ビジネスパーソンには、深刻な悪影響をもたらす。鼻水や鼻詰まりが続くので、注意力や集中力が妨げられ、仕事のパフォーマンスが落ちてしまう。頭痛や倦怠けんたい感などから仕事を欠勤してしまうこともある。

さらには、不眠に陥ることで平常の勤務が困難になってしまうことも。鼻水には、鼻の穴から出る「鼻漏」と、鼻の奥から喉に流れる「後鼻漏」があるが、寝ているときに後鼻漏が喉に入ると、目が覚めてしまい、熟睡できなくなるのだ。また、鼻の奥にあって嗅覚をつかさどる「嗅細胞」という感覚細胞が、鼻茸に邪魔されて働けなくなるので、「嗅覚障害」も起こる。食べ物やワインなどの匂いが分からなくなるほか、ガス漏れにも気付かなくなる。自分の体臭が分からないのが不安になり、中には、「ひきこもり」になってしまう人もいるという。

一般的な風邪の症状とされる“鼻詰まり”なので「いつか治るだろう」と、侮ってしまう人が多く、病院へ行く時間を惜しんでいる間に鼻茸が大きくなっているということも。症状を我慢することに慣れてしまい、自身の不調と向き合わない時間が長くなるほど、多くのビジネスチャンスや日常生活で得られる刺激を知らずと失うことにつながっていく。

鼻茸に潜んだ難病“治りにくい慢性副鼻腔炎”

慢性副鼻腔炎は昔から「蓄膿症」とも呼ばれ、子どもの頃に治療を受けた中高年の人もいるだろう。いわゆる「青っぱな」という粘り気のある鼻水が出るおなじみの疾患だ。また鼻茸も、薬物療法や手術などの治療成績が向上し「治る」疾患と認識されることが増えている。ところが近年、手術で取り除いたり薬物療法で縮小させたりしても何度も鼻茸が再発してしまう、従来の慢性副鼻腔炎とは異なる、「治りにくい」慢性副鼻腔炎が目立つようになってきている。

治りにくい慢性副鼻腔炎の場合、「2型炎症」というアレルギー性の炎症が深く関連し、左右の鼻の中にたくさんの鼻茸ができ、ひどい鼻詰まりや嗅覚障害を伴う。この難治性の慢性副鼻腔炎を、日本の研究者たちが「好酸球性副鼻腔炎」と名付けた。2015年には厚生労働省によって難病と指定され、現在はこの「好酸球性副鼻腔炎」は適切な医療機関で診断され、認定基準を満たすことで治療にかかった医療費の助成を受けられる。高度な内視鏡下鼻・副鼻腔手術や薬物療法など先進的な治療を選択する患者も増えている。

新しい治療法で取り戻す健康な日常生活

特に中年期以降の男性に多く発症するという、難病の可能性が潜む“鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎”。慢性副鼻腔炎かどうか、あるいは鼻の奥の方に鼻茸ができているかどうかは、実は自分では分からないのだ。鼻水や鼻詰まりなどの症状が長引いていたら、ただの鼻炎と思わず耳鼻咽喉科を受診することが最善策と言えるだろう。とりわけ、慢性副鼻腔炎を専門とする鼻専門医に、診てもらうのがお勧めだ。血液検査や内視鏡検査、場合によってはCTなどの画像診断を駆使し、適切な診断をしてくれる。仕事や生活に悪影響を及ぼす鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎。思い当たることがあれば先延ばしにせず、早めに鼻専門医に相談し、健康な日常生活を取り戻そう。

藤枝重治(ふじえだ・しげはる)
監修
福井大学医学部 感覚運動医学講座・耳鼻咽喉科頭頸部外科学・教授。専門分野は鼻副鼻腔疾患、アレルギー性鼻炎、頭頸部癌。日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会監事。2010年より福井大学医学部附属病院 副病院長。21年より福井大学医学系部門長(医学部長)。
疾患啓発ウェブサイト「アレルギーi(アイ)」で、書き下ろし漫画『はたらく細胞 鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎特別編』を公開中