組織の中核を担うマネジャーの役割がますます大きくなっている昨今、次代の管理職を育てるために企業がなすべきこととは――。早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄氏と、東京商工会議所常務理事の小林治彦氏が語り合った。

これから必要になるのは管理よりも人を導く能力

【小林】近年、ビジネス環境が変化するとともに、マネジャーなどの管理職に求められる能力や役割も変わってきているように思います。この点について入山さんは、どのようにお考えですか。

小林治彦(こばやし・はるひこ)
東京商工会議所 常務理事
1963年生まれ。87年4月、東京商工会議所に入所。総務統括部長、理事・産業政策第二部長兼東商ビル建替え準備室部長、理事・事務局長を経て、2021年4月より現職。

【入山】大胆なことを言うようですが、今後、「部下や組織を管理する人」という意味でのマネジャーは組織に不要になると思います。代わって必要になるのが、「部下や組織を導く人」である“リーダー”です。

正解がない時代においては、状況の変化に応じて仲間を鼓舞し導いていける人が求められます。これからの管理職は、リーダー的能力が重視されるようになるでしょう。

加えて、ChatGPTの登場によって今後は知識のコモディティー化(一般化)が進んでいくはずです。そうなれば、従来型のマネジャー業務、つまり情報を整理して失敗のリスクが少ない評価・判断を行うような業務は、AIで代替される可能性が高い。

そうした世界で求められるのは、リスクがあっても挑戦する、前例のない策を打つといった、AIには示せない選択肢をとれる人材です。企業は、そうした能力とリーダー的資質を併せ持つ人を管理職にすべきだと思います。

【小林】ただ、日本の企業はプレーヤーとして成果を出した人材を昇格させる傾向が強いですよね。プレーヤーとして優秀な人材が優秀なリーダーになるとは限らないケースもあるようです。

【入山】その通りで、僕はそこが日本の組織の課題だと考えています。プレーヤー時代に比べて、管理職になると急にさえない人になってしまうことってありますよね。

優秀なプレーヤーは、営業なら多くの売り上げをたたき出せる人ですが、リーダーの仕事は稼ぐことではなく導くこと。企業はまず、両者が別の職種であるということを徹底的に理解する必要があります。

リーダーを育むために企業と個人が知るべきこと

【小林】社員をリーダーという別の職種に就かせる研修が充実することで、次の世代を創る人材が育ちます。では、リーダー候補者に向けて、どのようなプロセスを用意すべきでしょうか。

入山章栄(いりやま・あきえ)
早稲田大学大学院
早稲田大学ビジネススクール教授
1972年、東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、同大学院修士課程修了。三菱総合研究所へ入所。2008年、米ピッツバーグ大学経営大学院でPh.D.取得。その後、米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。19年より現職。

【入山】リーダー研修を行う企業も増えてはいますが、研修で重要なのはマインドセットも変えてもらうことです。知識を得るだけでなく、部下を導く心構えなどのソフトスキルを伸ばさなくては。後は実践あるのみで、スキルの習得後は現場で場数を踏む、企業はそれをサポートし続けるといった形を目指すべきだと思います。

もう一つ重要なのが、リーダーになった後の評価の在り方です。日本における管理職の評価は、部署の成績を上げたかどうかで決まることが多いのですが、よくないですね。何かもめ事があると評価を下げる「減点方式」の企業すらあります。これではリーダーがどんどん保守的になってしまいますし、組織の成長も見込めません。

ですから、不確実性の高い時代にもしっかりと意志を持って仲間をまとめ導いていける、そうした資質をきちんと評価できる人事評価制度が必要です。

【小林】正当な評価をするには、リーダーシップはさまざまなタイプがあるという知識を持っていなければいけないと思います。これからのビジネス環境で、入山さんが注目しているリーダーシップスタイルはありますか。

【入山】望ましいスタイルというのは本人や組織の性質によっても違いますから、正解はないと思います。ただ、組織は意外と理屈ではなく感情で動くことが多いので、どんなスタイルであれ人間性が重要だということは言えます。

部下に仲間のように接して組織をまとめる、方向を示して周りを強力に引っ張っていくといったスタイルのほか、最近は、自分は裏方に徹して部下の成長をサポートする「サーバントリーダーシップ」というスタイルも注目されています。いずれも高い人間性が求められるという点では共通しています。

【小林】企業も本人も、まずはそうしたことを知っておく必要がある。マインドセットや評価制度を急に変えるのは難しくても、知識のインプットから行動に移すことが望ましいですね。

網羅的に学ぶ新時代のマネジャー像

【入山】先ほど、知識のコモディティー化が進んで従来型のマネジャーはいらなくなると言いましたが、それは知識が不要になるという意味ではなくむしろ逆です。AIは知識は示してくれますが、最終判断をする・責任を取るという行動は人間にしかできません。この二つはリーダーにとって部下を導くこと以上に重要で、実践するには知識が不可欠です。

その意味で、東京商工会議所さんが実施しているビジネスマネジャー検定試験は、知識を得るためのいいインプット手段になりますね。公式テキストでは、冒頭から変化に対応できるマネジャーであることの重要性が書かれていて、非常に時代に即しているなと感じました。

【小林】私たちとしても、この検定試験で新時代のマネジャーが共通して身に付けておくべき基礎知識を提供したいと考えています。ビジネスマネジャーという言葉が使われてはいますが、テキストの内容は先ほど入山さんがお話ししたようなリーダーを育てるための要素、部下を導くマインド、リーダーシップスタイル、判断力を養うマネジメント理論などを網羅的に学べる内容となっています。

この検定試験で示されているリーダー像は、まさに新時代のマネジャー像と言えると考えています。

【入山】そうですね。そして、企業はビジネスマネジャー検定試験で知識を得た人材に場数を経験させる。正解がない時代と言われている中で、ケースバイケースに対応しながら、環境と個人に合ったリーダーシップスタイルを体得させる。学んだ知識は現場でアウトプットすることで、理解度が増して自分なりの解釈で応用できますからね。

【小林】常に判断と行動が要求されるマネジメントに役立つ知識を提供しているので、うまく実践できるようになれば、目標達成や課題解決のスピードが上がっていくはずです。

理論に裏打ちされたマネジメントは周囲から信頼され、協力も得やすい。チームで成果が出せた時には、自身が理想としていたマネジャー像に近づいていると実感するでしょう。

【入山】次のステップとしては、この検定の合格者を企業がどう評価するかが大事になってきますね。検定の成果を生かすには、合格者を自社の成長に必要なリーダーとしてきちんと評価できる制度を作る必要があります。

人がリーダーとして成長していくには、スキル、経験、モチベーションの三つが必須です。スキルの部分はビジネスマネジャー検定試験でインプットできますが、あとの二つを上げていくには企業ごとでの取り組みが欠かせません。その重要性について、東京商工会議所の皆さんにもぜひ啓発を続けていただければと思います。

2023年「ビジネスマネジャー検定試験」第2シーズン日程

申込期間:9月22日(金)~10月3日(火)
試験期間:10月27日(金)~11月13日(月)