「人類が真の豊かさを享受できる社会および文明の創造」に向けて、地球環境問題の解決に貢献した個人・団体の顕彰を続けてきた旭硝子財団。多くの人が自然環境の美しさや大切さを再認識するきっかけとなればとの想いで「環境フォト・コンテスト」への協賛を始め、本年度はさらに多様な視点からの応募を期待しているという。

「ブループラネット賞」で地球存続の展望を示す

――貴財団の地球環境保全に関わる活動について教えてください。

田沼敏弘さん
公益財団法人旭硝子財団
顕彰事業部長 理学博士

【田沼】1933年に前身となる団体が設立された旭硝子財団は、人類が真の豊かさを享受できる社会および文明の創造を目指して、次の時代を拓く科学技術に関する研究への助成や優れた人材への奨学助成、地球環境問題の解決に貢献した個人・団体の顕彰などの活動を行ってきました。

地球環境の保全・修復は人類が直面する特に重要な課題だと考えており、1992年、「この青い地球が未来にわたって存在しつづける展望を示したい」という願いの下、地球環境国際賞「ブループラネット賞」を創設。地球環境の保全・再生に向けた理念の構築や、科学的理解の増進、対策の考案や実践活動に大きく貢献した個人や団体の業績を称え、広く発信してきました。

過去の受賞者の業績を見ると、取り組みの分野は気候変動、生物多様性、環境政策、環境分析技術など多岐にわたり、その内容も課題の発見・解明から、社会への警告や経済・政策の提言、さらに人々への行動の提案へ移行するなど、現在の環境科学の形成やサステナビリティの概念に至る過程がよく分かります。

――本年2023年度はどんな方がブループラネット賞を受賞されましたか。

【田沼】海洋中のマイクロプラスチックの発見とその分布や生態系への影響を明らかにした英国の研究者3名のグループと、気象災害や地震、感染症などの生物学的災害、さらに紛争などの人道的災害を含む世界の大規模災害に関する初のデータベースを開発したベルギーの研究者が受賞しました。

財団のウェブサイトでは、受賞者の業績を分かりやすい形で紹介しており、多くの方に関心をお寄せいただいています。受賞者を招いた表彰式典と講演会を毎年開催しており、本年度は10月に同時通訳を入れた講演会を東京と京都の2カ所で開催予定です。一般の方の参加も可能ですので、ぜひ多くの方にご来場いただければと考えています。

ほかにも当財団では環境問題に関わる世界の有識者が人類存続に対して抱いている危機感を、毎年「環境危機時計®」の時刻として表す「環境危機時刻」の発表や、研究助成先などの最新情報を一般に向けて紹介するウェブマガジン「af Magazine」の発行も実施しています。

身の回りの自然に目を向けた多様な方の応募を期待

――「環境フォト・コンテスト」協賛の理由についてお聞かせください。

【田沼】地球環境問題の解決には、世界の人々が共通認識を持って協調関係を育むことが必要です。「環境フォト・コンテスト」では、応募者の方が「環境への想い」を表現する題材を探して撮影します。そして発表された入賞作品を見て、多数の方がその想いに触れる。こうした活動を通じ、より多くの方が自然環境の美しさや大切さを再認識するきっかけになればと考えました。

募集テーマ「自然の中にある幸福」は、「美しい自然に接すると、私たちは家に帰ったような幸福感を得られます」という、あるブループラネット賞受賞者の言葉に着想を得て決定しました。大自然に限らず、都会の生活の中にある小さな自然にも幸せはある。これまでの応募作品を見ていると、テーマの捉え方が本当に多様であることに感心させられます。

――前回の応募作品についてはどうご覧になりましたか。

【田沼】優秀賞の「春の散歩道」は、大きな古墳の頂上に咲き乱れる桜と階段を下りてくる子どもたちとの新旧・大小の対比を、青い空を背景として見事に描いた秀作です。また佳作「春」からは春の訪れを喜ぶ人々の想いが、同じく佳作の「ツリークライミングは楽しいな」からは自然の中にいる子どもたちのワクワクする気持ちが伝わります。

前回は本テーマ「自然の中にある幸福」に、最多となる1974点ものご応募をいただきました。これは多くの方が「自然を通じて人間の幸福を考えること」に共鳴してくださったことの現れだと受け止めています。実はこれまでブループラネット賞の受賞者は欧米出身の男性が多かったのですが、近年では欧米以外からの受賞者も増え、また今年は受賞者4人中3人が女性で、従来より若い年齢の方が受賞されました。「環境フォト・コンテスト」でも、女性や若年層の応募がさらに増えてくれればと考えています。

多様な背景を持つ多くの方が、改めて身の回りの自然に目を向け、自分なりの視点で「自然の中の幸せ」の姿を捉える。そして見た人に何かを考えさせてくれる作品として幅広い方にご覧いただく。こうした取り組みを通して、生活の中で一歩一歩、環境に良いことを考え、行動に移してくれる方が増えれば何よりの成果であると考えています。

●募集テーマ:自然の中にある幸福

●前回の入賞作品

優秀賞「春の散歩道」中根英治さん
佳作「春」門林泰志郎さん
佳作「ツリークライミングは楽しいな」白木文枝さん