外部環境が激変する昨今のビジネスにおいて、成長し生き残る企業は、常に内部変革を行い続けている。コロナ禍においても好調な業績を誇るPLANAが、あえて今、新たな勤務制度を導入した真意とは――。

社員が自ら業務を効率化 より幸せに、より成長を

「当社の社員は、週5日かかる仕事を4日で終わらせています」

自信を持って語るのはPLANA代表取締役の三好正洋氏だ。

1979年に印刷会社として九州でスタートしたPLANAグループは、デザインのできる印刷会社として頭角を現し、不動産専門の広告代理店へと事業を拡張。2000年頃からはテレビ通販の専門広告会社として成長し、現在はダイレクトマーケティング支援を主要事業としている。

三好正洋(みよし・まさひろ)
株式会社PLANA 代表取締役
2001年入社以来、ダイレクトマーケティングに従事。現在はマーケティングを主軸にグループ企業の技術・DX・海外事業とも連携して一次生産者支援や地方創生事業に取り組み、グループの成長を目指す。

多くの業界が打撃を受けた新型コロナウイルス禍でも、通販事業で培った商品力、市場調査、広告効果の検証・分析などを強みに「巣ごもり需要」を追い風として業績は絶好調。そんな中、同社は「週休2日+1day(プラスワンデイ)」という新たな勤務制度を本年6月から導入した。その背景を三好氏は次のように説明する。

「当社は時代に応じて業態を変えることで成長し続けてきました。今のビジネスモデルでの成功がずっと続くわけがない、現状に甘んじていると今後の成長が望めないという危機感がわれわれ経営層にはありました。そこで若い社員が挑戦心を失わないように、と導入したのがこの新制度なのです」

「週休2日+1day」は、週のうち5日かけて行っていた通常業務を効率化して4日に収め、それにより生まれた1日を自己啓発に充てるという勤務制度だ。「+1day」の使い方については各人がテーマを設定し、上長の承認を得ることが必須。学習系のテーマにトライする場合は、年間20万円まで費用を出す制度も併設した。

「昨年12月から試験的に導入したところ、ビジネススクールやコピーライター養成講座に通ってスキルアップを図るなど、積極的に活用されています。当社のグループに食品を扱う会社があるのですが、調理系の学校に通って関連する資格を取り、商品開発にチャレンジする社員もいます。こちらは年内に商品化のめどが立っています。そのほか、行動範囲を広げるという目的で運転免許を取得した社員もいて、仕事に関連付けてうまく制度を活用しているという印象を受けています」(三好氏、以下同)

このような学習やスキルアップだけでなく、育児期の社員が家族とのコミュニケーションに充てるといった使い方をすることも認められている。

「当社の社員は半分以上が女性ですが、結婚をして出産し、育児が始まると退職を考える人も出てきます。優秀な彼女たちに、辞めずに長く働いてもらいたいのです。小さい子どもがいる社員、高齢の社員と、家庭環境や体調は人によってさまざまです。リカバリーを行ったり、体を動かしてリフレッシュしたりしても構いません。制度を活用することで社員一人一人がより幸せに、より成長してほしいという狙いがありました」

新制度導入のきっかけとなったのがコロナ禍だ。社員のほとんどがリモートワークになり、東京オフィスでは誰も出社しない状況が半年近く続いた。それにもかかわらず、業績を落とすことなく、日々の業務が執り行われる状況を見て、1週間の業務は4日でこなせるという算段がついたという。

「部署によっては大変なところもありました。例えば営業チームは比較的スムーズに制度を導入できましたが、クリエーティブチームは週1日減ることにより作業工程を見直さなければならず、苦労したようです。それでも皆、前向きに自分の能力を伸ばそうという姿勢が、日々の業務に現れています」

社員が「新たに生まれた1日を自由に使える」とポジティブに受け止め、自発的に業務の効率化を進めることを願っていた経営層の狙いは大成功。業績も5月決算において昨年度を上回る結果となり、6月からの正式導入に踏み切った。

「逆にもっと働きたいという人は、『+1day』を他の業務への参画や新規事業の立ち上げというように新たな仕事に充てています。こちらについては別途評価の対象としています」

「週休3日」ではなく、あえて「+1day」という言葉を用いたのにはこのような理由があったのだ。

同時に、社員には経営者としての厳しい面も示した。4日で5日分の仕事をこなせばプラス評価、逆に5日かけるとマイナス評価となる。週の仕事を4日で回すスタイルを定着させるという目標を達成するために、評価制度にも手を加えた。

同社の制度改革は「+1day」導入にとどまらない。その一つが、総務や経理といった管理部門における業務の完全ローテーション化だ。

「総務や経理の業務は、1人に特定の業務が集中して属人化しがちです。誰かが病気になっても代わりの人がカバーできる、長期の休みをとって旅行に行くことができるというように、何があっても通常通りの業務が継続できる強い組織をつくりたいのです。3カ月ごとに業務をローテーションすることを目標に、昨年の12月から試験導入したところ、部門間の会話がより活発になったという効果も現れており、今後標準化していく予定です」

人とその成長こそが資産 惜しまぬ投資で新事業挑戦

では「+1day」による社員の成長を、どのように生かすのか。同社は今後、事業拡張を三つの方向で考えている。一つ目は一次産業の支援だ。

「日本を元気にするにはローカルが元気でなければならない。ローカルが元気になるには一次産業が元気にならなければならないと思います。そのためには一次産業の所得アップをする方法や基盤をつくる作業が大事です。産直ビジネスとダイレクトマーケティングの融合は大きなビジネスチャンスであり、市場の拡大も期待できます。日本の農業は十分に海外に打って出られる産業なのですが、それを実現するための仕組みが行き届かない状態です。地産地消より『地産都会消費』、『地産海外消費』のビジネスにグループのシナジーを注力できると考えています」

二つ目の海外進出、三つ目のDX、そして、まだここに挙がらない新しい事業を担うのが「+1day」により成長した社員たちなのだ。

人材面で言えば、「走りながら考え、動ける人」を求めるという。

「若い社員は、アイデアがあっても完成度が100%でないと提案しない傾向がありますが、私は50%でもいいから提案してほしいと言っています。まずは50%から始めて、お客さまと一緒に100%にしていく、そういう気持ちで新しい事業に取り組んでほしいのです。当社には創業期から『常に高いハードルを意識して、自分たちでモチベーションを上げる』という文化やDNAが引き継がれていますので、チャレンジ精神旺盛な人と一緒に仕事をしていきたいですね」

企業の最たる資産は「人とその成長」だ。だからこそ、PLANAは人と事業に対して最大限の投資を行う。これこそが中小企業のあるべき姿ではないだろうか。社員が自らの力で変わり続けることができる同社が、成長の足を止めることは決してない。