経営管理データが“使えない”5つの理由と2つの壁
NTTデータ グローバルソリューションズは、20年以上にわたってSAPビジネスを遂行しており、数多くの製造業企業の支援を行ってきました。その中でよく聞かれる、経営・業績管理の課題は、大きく5つあります。
1点目は、各部署でコード定義やデータ粒度がバラバラになっていること。エクセルなどで上がってくるデータを手作業で整理するのに膨大な工数がかかり、全社で統合したときにつじつまが合わないことも多く見られます。
2点目は、経理や経営企画など、経営データをまとめる部隊から見ると、データが各オペレーション部署の中で“閉じた”ブラックボックスになっていること。そのせいで詳細な分析が困難になり、データについて経営層から質問を受けても答えられなくなってしまうのです。
3点目は、グローバルを含めた全社視点で経営管理データの精度を向上させることが難しいこと。これは、2点目と同様、海外拠点を含めるとさらにブラックボックス化が顕著で、データの出どころや作り方がわからないことが多いためです。
4点目は、せっかくBI(ビジネスインテリジェンス)ツールを入れてデータの可視化をしても、実績データを見るだけに終わってしまい、次のアクションにまで落とし込むことができないこと。
5点目は、早急にDXの成果を出すようにいわれているものの、どのように投資対効果を出せばいいのかがわからない、というものです。
これらの課題を解決するためには、「サイロの撤廃」と「属人的なオペレーションからの脱却」の2点が欠かせません。つまり、部署ごとにサイロ化(組織や情報が孤立し、共有できていない状態)されている経営管理データを統合すること、エクセルなどで各個人が手作業で行っている作業を自動化することが必要となります。
では、製造業でDXを進めるために、この2つを実現するにはどうしたらいいのでしょうか。
オペレーション部署を巻き込んで“あるべき姿”を描く
まず、サイロを撤廃するためには、ステークホルダー・関連部門間の合意形成が必須です。そして、「DXの“あるべき姿”を検討する際に、誰を巻き込むか」がカギとなります。
多いのは、「これまで経営・業績管理のデータを収集してまとめていたのは経理や経営企画だったから、こうした部署だけで検討する」というケースです。しかしこれでは、オペレーション部署ごとでブラックボックス化している状況は変わらず、サイロは解消できません。
こうした状況を避けるためにも、購買、生産、出荷計画、販売などのSCM(サプライチェーン・マネジメント)軸、企画・構想、設計・開発・試作、量産立ち上げなどのECM(エンジニアリングチェーン・マネジメント)軸の部署を巻き込んで議論することが必要です。その際には、経営層を含め、生産・販売・会計をクロスで検討する視点を持つべきでしょう。
検討テーマとしては、会計がメインとなる管理連結、損益分析、事業予算管理プロセスだけで終わるケースも多いですが、これでは真のDXになりません。業績評価に必要なグローバル視点の主要KPIを定義するなどして、業績オペレーション管理を考えなくてはならないでしょう。
特に最近は、「顧客別の採算性をしっかり見たい」「最適地生産を行うための評価やシミュレーションをしたい」「売り上げの着地見込みを見たい」などのニーズも高いですが、こうした情報は会計データだけでは見ることができません。サイロを撤廃して生産や購買、販売や物流なども含めてデータを収集することで、初めて実現するのです。
合意形成のステップをないがしろにしない
サイロ撤廃を実現するには、3つのステップが重要です。
最初となる「構想策定フェーズ」が2つのステップに分けられます。まずステップ1は、現状業務・IT調査や、新業務構想です。ここでは、現状の課題を整理し、将来像を描いて合意形成を行います。この段階で、ステークホルダー間の意識共有と合意形成を行うことで、以降の活動の方向性がぶれないようにする必要があります。これを経理や経営企画の部門だけで進めてしまうと、全社的な取り組みにならず、サイロの撤廃は難しくなってしまいます。
そのうえで、ステップ2として新システム構想に入ります。ステップ1で描いた新業務構想が、どんなITの仕組みで実現できるのかを考え、ツールを使ったPOC(概念実証)などを行ったうえで、実行計画を立案します。
ステップ3は、要件定義、システム構築、パイロット稼働、ロールアウトといったフェーズになります。
いずれかのステップを飛ばすと、失敗することが多いです。ステップ1は特に重要で、現状の課題と将来像を明確化し、ステークホルダーや関連部門間で合意形成を図ることが欠かせません。
サイロが撤廃され、各部署・拠点のシステムのデータが全社経営基盤に集約されれば、そこからカネ軸の分析を行うグローバル経営管理、モノ軸の分析を行うグローバル需給管理にデータが行きます。また、経営管理では、実行系の情報を得ながら予実管理を行うので、データが一方通行にならず、ぐるぐる回ることになります。そのためには、バラバラにデータを渡すのではなく、各システムのプロセスの標準化まで踏み込む必要があるのです。
業務DX基盤で脱“エクセルの手作業”を図る
現状では、エクセルなどで各拠点からデータを収集し、データを手作業で編集加工してグローバルコードを入れて変換、集約して為替計算などを行ったうえでグローバル経営管理を行うことが多いでしょう。こうした属人的なオペレーションは、大きく3つの問題を生んでいます。
1点目は「可視性の低下」です。グローバル経営管理を行おうとしても、集まっているのがサマリーレベルのデータのため、ドリルダウンや原因分析ができないことが多いです。
2点目は「適時性の欠如」です。手作業でデータ集約を行うため時間がかかることに加え、データエラーが起きたときにもリカバリーに時間がかかってしまいます。
3点目は「生産性の低下」です。分析用のデータ収集や加工のために別途作業が発生し、コード体系もバラバラなため編集作業も煩雑になります。手作業が多いためエラーが多く、月末処理や管理連結用の作業負荷も高くなります。
結局、プロセス全般の信頼性が低下し、形骸化して機能しなくなり、業務の多重化が発生してしまうのです。
このような属人的なオペレーションから脱却するためには、業務DX基盤の確立が欠かせません。
各拠点から必要データを抽出し、粒度を統一してグローバルマスタを作成、データ統合や集計をしたのち、管理連結と、予実管理や業績管理などの経営管理を行うところまですべて自動化します。すると、サマリーレベルではなく明細レベルのデータが集められるため、ドリルダウンや原因分析が可能になり、可視性が向上します。また、処理が自動化されているため適時性も生産性も上がります。本来行うべき付加価値が高い業務に注力できるようになるはずです。
“真のDX”にはオペレーション改革が必須
経営・業務管理DXを実現するためには、(1)デジタイゼーション(アナログ・物理データのデジタルデータ化)によるデータ不足の解消、(2)デジタライゼーション(個別の業務や製造プロセスのデジタル化)によるデータ・プロセスの標準化、(3)トランスフォーメーション(大組織横断の全体業務や製造プロセスのデジタル化)によるオペレーション改革、の3つが求められます。
私たちNTTデータ グローバルソリューションズは、豊富な経験に基づくDXノウハウを持っており、企業業績管理(EPM)などのさまざまな周辺システムまでを含めた基幹業務システムの、構想策定から導入までを支援しています。サイロを撤廃し、属人的なオペレーションから脱却して真のDXを実現するための、お手伝いをさせていただきたいと考えています。