総合人材業の雄として、産業界で存在感を増すばかりのキャリアリンク。1996年の設立後、急速な成長を遂げ、2015年1月には東証一部に上場。2019年度以降は人材派遣業界内において圧倒的な利益伸び率を誇り、売上高成長率も上位3位以内と、その勢いは止まるところを知らない。変化の激しいこの時代に、なぜ成長し続けられるのか。同社代表取締役社長 社長執行役員の成澤素明氏が語る強さの秘訣「経営戦略3つのポイント」と「今、求める人材」とは――。

変わる日本の労働市場、難問を「チーム派遣」で解決

企業や自治体などの業務を受託するBPO(Business Process Outsourcing)事業を主軸に、多様な事業展開を行う総合人材企業・キャリアリンク。2000年に入社した成澤社長は、まさに黎明れいめい期から成長期への躍進を最前線で支えてきたわけであるが、最近になって人材業界は大きな変化が求められるようになっているのだという。

「かつて人材派遣というと、20代の女性が派遣先でオフィスワークをフルタイムで行うというイメージでした。しかし、他の業界と同じように高齢化にともなう人手不足が深刻化し、派遣スタッフの平均年齢は40代にアップしています。人材派遣の事業は求職者なくしては成り立たず、さらなる求職を期待できるのは女性と高齢者、そして外国人という状況です。ただし、フルタイムで働けなかったり、働けるエリアが限定されたりする人が多く、それらの複雑な条件をクリアーしながら、派遣先であるお客様のニーズに応えていくことが求められるようになっています」(成澤社長)

成澤素明(なるさわ・もとあき)
キャリアリンク株式会社 代表取締役社長 社長執行役員
1975年生まれ。埼玉県出身。98年青山学院大学経済学部卒業。金融関連企業に入社後、2000年同社に転職。10年取締役に就任。東証マザーズ上場後の13年に代表取締役に就任。13年に東証二部、15年1月に東証一部への上場を果たす(現在は東証プライム市場上場)。15年3月より現職。

さかのぼってみると、日本初の人材派遣会社となるマンパワー・ジャパンが誕生したのは1966年のこと。70年代に入ると、テンプスタッフやテンポラリーセンター(現パソナ)などが登場する。そして、86年に施行された労働者派遣法によって、市場が一気に拡大した。その一方で、2008年のリーマンショックを機に派遣労働者保護の動きが強まり、派遣現場での働き方の自由度が狭められてしまった経緯がある。21年度時点で9兆2000億円の市場規模(矢野経済研究所調査)になった人材派遣業界だが、多様化する求職者のニーズに応えながらどう派遣先に送り出すか、難題に直面するようになったのだ。

「まさにそれを解決する手立てがBPOにおける『チーム派遣』でした。フルタイムで働ける人材と、複数のパートタイムの女性や高齢者をうまく組み合わせたチームを編成することによって、トータルでお客様が必要とする労働力を提供していきます。すると自分の希望通りに働けることで、派遣するスタッフにも喜ばれます。また、フルタイムのスタッフを揃えるよりも採用コストが低くなって、サービス単価が抑えられることからお客様にも歓迎されるようになり、ウィン・ウィンの関係を構築できたのです」(成澤社長)

BPO事業と聞くとバックオフィスでの一般事務をイメージしがちだが、多種多様な人材が必要となる。たとえば、アンケート調査をともなうキャンペーンを実施するお客様がいたとする。最終的な目的がキャンペーンを成功させて、新しい顧客を開拓することだとするのなら、申し込みを受け付けるスタッフだけでなく、街頭でPRを行うフィールドスタッフ、アンケート結果の集計スタッフ、集計データに基づいてテレマーケティングを行うCRM(Customer Relationship Management)関係のスタッフも必要になってくる。さらには業務の内容によっては、営業系や製造系のスタッフが求められることもあるという。

「つまり、BPO事業の付加価値を高めるには、多種多様なお客様のニーズに応えられる、幅広い人材を網羅しておく必要があります。そのためにも、ワークシェアリングで老若男女を問わず人材を確保できる体制を、同業他社に先駆けて構築できたことが当社のアドバンテージとなって、現在の成長につながっているわけです」と成澤社長は言う。

後発の快進撃を支える「経営戦略3つのポイント」

人材派遣業界においては後発となるキャリアリンクが、圧倒的な利益伸び率を誇る企業になれた経営戦略立案のポイントとは何か――。成澤社長は「大手が取り組まないことへの挑戦」「潜在ニーズの顕在化」「お客様にわかりやすい商品化」の3つを挙げる。そもそも成澤社長が入社した当時、単純な一般事務の派遣では、先発の並み居る大手人材派遣会社に太刀打ちできる状況ではなかったそうだ。

「株式の公開が目標の1つでもあったのですが、それを実現するためには何を強みにすべきか、納得できる解を探し求めました。たとえばその解の1つとして、04年から06年にかけて世に送り出した『20代前半の高学歴第2新卒の紹介予定派遣』が挙げられます。条件が合えば派遣先企業への就職が前提となる紹介派遣であると、派遣のフィーが継続的に得られなくなるため大手はやりたがりません。しかし、第2新卒と受け入れ企業のニーズはありました。このニッチかつポテンシャルの高い市場に着目し、わかりやすいパッケージにしたところ、見事にヒットしました。時事や法改正、国策案件は形を変えながら常に存在しています。その社会問題の解決の一助となるサービス企画による社会貢献性について、キャッチアップできる強みが当社にはあります」(成澤社長)

そうした挑戦と成功を積み重ねたキャリアリンクは、先に触れたBPO事業でさらなる飛躍を遂げる。この事業におけるキャリアリンクの大きな特長は、お客様である企業や自治体などの業務プロセスの一部を直接受託する「BPOベンダー」と、深刻な人手不足に悩む他のBPOベンダーに人材を派遣する「BPOソリューションサプライヤー」という2つの側面を持つことである。一見するとベンダーと競合してしまうようにも思えるが、直接受託と両立させることでキャリアリンクは常に幅広い人材をキープできる。一方、ベンダーは仕事に応じて柔軟に人材を手当てできるわけで、共存共栄の関係にあるのだ。

また、キャリアリンクのBPO事業のもう1つの特長が、全国の自治体との取引で圧倒的な実績を誇ることだ。折しも国をあげてのガブテック(行政と企業などが協業し、テクノロジーの力によって行政サービスを効率化すること)が推進されており、ビジネスチャンスは広がるばかりだ。

ロジックとエモーションの両面で変化を分析、付加価値を乗せる

コロナ禍は、飲食や観光をはじめ幅広い業界で業務停止にともなう人材の流出を招いた。一方で人材派遣業界は、そうした人材を人手不足に悩む企業に提案する、重要な「雇用創出」のインフラ機能の役割を果たすことで、順調に市場を拡大してきた。そのなかでキャリアリンクは、従前のBPO事業の伸張もあいまって成長を続け、この3月末で年度末を迎える22年度は売上高505億円(前期比35.6%増)、営業利益63億9000万円(同15.6%増)の大幅な増収増益を達成する見込みだ。

「『すべての人に働くよろこびを』が当社の企業理念です。労働人口の減少、超高齢化、ワークシェアリングの進捗しんちょくなど、外部環境の変化に合わせて事業内容を絶え間なくブラッシュアップしてきました。そして、老若男女問わずに希望に合った働く場を提供していくことで社会貢献を果たしながら、企業理念に少しでも近づくよう常に努力してきました。そのことに対するお客様や派遣スタッフ皆さまの評価が、業績の数値に表れているわけで、全社員が誇りとともにやり甲斐を感じています」(成澤社長)

超高齢化や働き方の多様化、法改正といった労働をとりまく課題に、先んじて向き合ってきたキャリアリンク。求職者と企業・自治体、そして社会に働くよろこびを提供し続ける。

前途有望な市場が目の前に広がっているうえに、雇用創出という社会的な役割を担っているキャリアリンクでは、どのような人材を求めているのだろう。成澤社長は「世の中の動きから自分たちのビジネスに変化をもたらす兆候を的確に捉え、ロジックとエモーションの両面で分析しながら、現在の土台に新たな付加価値を乗せていける人に来ていただきたいと思っています。また、既存大手との戦いだけでなく、予想外の業種からの参入があり得る時代でもあり、それに果敢に対抗していく胆力と発想力を兼ね備えた人でもあってほしいと願っています。経営層もミドルマネジメント層も、人材を欲している状況です。現在の役職にはこだわりません。今はプレイヤーでも付加価値を乗せられる人には、経営層やミドルマネジメント層としてぜひ加わってほしいです」と話す。

新卒を含めた若年層に対しては、採用以上に育成を重視している。初期配属先と次期配属先を想定し、Off-JTを組み合わせた「目的あるOJT」を実施することで、業界未経験であっても基礎知識の習得とともにスピーディーなキャリアアップを実現している。一日も早くビジネスパーソンとして第一線で戦えるようになりたいと考える成長意欲の高い人には、うってつけの働く場といえるだろう。