旅行会社として知られるJTB。しかし2000年代以降その業務は、人と人との交流を創造する「交流創造事業」へとシフトしており、ツーリズムに加え、地域の交流促進課題を解決するエリアソリューション、企業のコミュニケーション課題の解決をめざすビジネスソリューションの3分野を展開している。現在、JTBが力を入れるのがビジネスソリューションのひとつ「周年事業」である。コロナ明けで旅行やリアルのイベントが本格復活する中、グループとして周年事業を推進する意図はどこにあるのか。JTBビジネスソリューション事業本部の野村健児氏、JTBグループの中で同事業を担当するJTBコミュニケーションデザイン(JCD)の村上淳一の両氏にお話をうかがった。

周年は企業経営のターニングポイント

――JTBグループでは、「周年は企業の未来をデザインする機会であり、成長へのチャンスである」というお考えをお持ちと聞きます。

【野村】周年事業はこれまで「感謝のため」「慰安・慰労のため」といった内向きの目的が中心でした。しかし近年、企業活動においての投資対効果が重要視されるようになり、旅行やイベントの実施時における従業員やお客様の満足感を求める動きだけでなく、周年事業を行うことによる経営に対するインパクトにも焦点があてられるようになってきました。周年は大きな区切りですし、周年事業はセクションを横断した全社一丸のプロジェクトとして取り組める数少ない機会です。リブランディングやリセットがやりやすく、企業を取り巻く環境が激変している昨今、変革を志す企業様にとって大きなチャンスでもあるのです。

【村上】周年事業には様々な施策を行う理由が伝わりやすく、フラッグシップとして受け入れやすいという特長があります。この特長を活用して、社内組織や事業の改革だけでなく、「会社が未来へ向けてどうなっていきたいのか」「社会にどう貢献していくのか」を広く社会に訴えることもできるのです。周年という機会に「自分たちが社会にどれだけ貢献できるのか」を示すことで、顧客や社会が向ける目線も変わり、その企業のファンも増えていきます。

周年事業がもたらす効果

――旅行会社として知られるJTBが、企業の周年事業に力を入れる理由はどこにあるのでしょうか?

【野村】JTBは事業ドメインを「交流創造事業」と定め、JTBならではのソリューションの提供により、地球を舞台にあらゆる交流を創造し、お客様の感動・共感を呼び起こすことを目指しています。

JTBグループが手がける交流創造事業には、旅行者の満足・課題解決を目的とするツーリズム事業、地域の交流促進課題を解決するエリアソリューション事業、企業のコミュニケーション課題を解決するビジネスソリューション事業という3事業があり、ビジネスソリューションの中でも周年事業は、企業の社会への姿勢を伝えたり、組織の意識統一のきっかけにしたりできる、企業の成長における様々な課題解決の有力な手段と捉えています。

野村健児(のむら・けんじ)
JTB ビジネスソリューション事業本部 事業推進チーム 事業推進担当部長
1998年入社。一貫して法人営業現場で多くの業種業態の企業の課題解決営業に従事。2021年よりビジネスソリューション事業本部にて法人営業戦略の推進を担当。

【村上】かつて旅行というプロダクトを主力としていた時代から、JTBの営業担当者はお客様より、それだけにとどまらない範囲の相談を受けていました。その中には「大規模なミーティングやイベントをどうプロデュースして目的達成・効果創出に導けばいいのか」といった課題もあり、お客様のご要望に応える形で、次第にイベントやミーティングのプロデュースも手がけるようになっていったのです。

そして2000年代に入ってからはプロダクト営業から、お客様の課題解決を提案するソリューション営業へと業態を転換していきました。周年事業もお客様の重要課題を解決するための手段と考えており、旅行やイベントにとどまらず、社員のモチベーションやロイヤリティ向上、キャンペーンやブランディングなど様々なソリューションをご提供しております。

失敗しない周年事業のポイントとは

――周年事業成功の要件は何でしょうか?

【村上】重要なのは進め方(順序)です。最初に行うべきことは「何のために周年事業をやるのか」を明確にすること、つまり目的の整理でしょう。これについてはJTBグループがお客様と話しながらコンセプトづくりをサポートしていきます。

周年事業の成功要件

第二の要件はトップのコミットメントです。周年事業は全社を巻き込んで行うことなので、「総務が単独で担当する」とか「経営企画部が単独で実施する」といった体制ではうまくいきません。数年かけて推進するプロジェクトのため、経営陣を含めたメンバー変更や社会情勢などの変化もありえますので、早々に社内組織全体を巻き込むことが重要です。

第三は戦略的なスケジュール策定です。打ち上げ花火で終わってしまわないよう、周年イヤーのどこ(どの期間、どの施策)を「ピーク」に据えるかをまずは設定します。そしてその前後(通常では1~2年)をプレ・ポストとして、それぞれ効果ある施策推進をしていくことが鍵だといえるでしょう。

周年事業の全体像

「周年イヤー」だけでない「プレ周年イヤー」「ポスト周年イヤー」という考え方

【野村】周年事業においては、イベントを行うことそれ自体が目的ではなく、周年という切り口を活用し経営の目標を達成することが真の目的となります。このため企業の掲げるパーパスに対して理解・共感を深める、実現に向けたアクションを起こす機会として周年事業は有効であると言えます。

JTBの実績と経験を活かした最適なソリューションを提供

――JTBではどのような体制で周年事業のサポートを展開しているのですか?

【村上】グループの中でも現在は、JTBコミュニケーションデザイン(JCD)が中心となって、ミーティング・イベントの企画運営、広告・プロモーション・ブランディング、国際会議や展示会などのMICEのプロデュース、組織や地域の活性化支援等の事業を行っており、周年事業もここに含まれます。

2016年にJTBコミュニケーションズ他の4社が統合してJCDが誕生したことで、M&E、広告、ブランディング、組織開発・人材育成などそれぞれ専門を持ったプロ集団が集結、JTBグループに寄せられるビジネス課題解決のご相談を、ワンストップで受ける体制が整ったのです。

村上 淳一(むらかみ・じゅんいち)
JTBコミュニケーションデザイン(JCD) コーポレートソリューション部 ミーティング&イベント第二事業局長
1992年にJTBのハウスエージェンシーJICに入社、その後JTBモチベーションズ(現JTBコミュニケーションデザイン)にて、企業に向けたMICE事業をグループ内へ推進。2021年より現職。

【野村】例えばブランディングについては、社外ステークホルダーのみを対象に実施するものと思われがちですが、今では組織開発など社内ブランディングとも連動させて、同時に、しかもリンクして行うことが一般的になりつつあります。その点トータルでデザインさせていただけるのはJTBグループの最大の強みですね。

イベントにおいても、企画や演出、集客、運営、さらに結果の分析・報告まで、トータルなサービスを提供するプロデュース力がJTBグループの強みです。「周年事業」におけるお客様の目的を分解し、「本質的な課題」に対して幅広いソリューションを組み合わせた最適解をご提供することが可能です。

さらに、実績と経験からくる現場対応力もJTBグループの特長です。グループとして非常に多くのイベントを経験してきたことが私たちの財産となっており、お客様の課題に応じた解決策をご提案することができます。

――まもなく周年を迎える企業の経営者や周年事業担当者の方たちへ、メッセージをお願いします。

【村上】周年事業は従業員、顧客、社会といったステークホルダーに企業からのメッセージを届ける、大きなチャンスです。たとえ設立5年、10年といった若い企業様であっても、社会に自社の歩みをアピールする上で、大変有用な機会と思います。もちろん歴史ある伝統企業様にとっても、周年はこれまでの事業のあり方や自社のイメージを一新する最高の舞台です。

「この年を自社にとって最大のターニングポイントにしていきたい」という希望をお持ちであれば、ぜひ周年事業の実施をご検討ください。単独では実現が難しいことも、JTBグループが協力し、ネットワークをつなげることで可能になってきます。

【野村】交流創造事業において大事にしているのは「実感価値」です。私たちの目線で判断した価値ではなく、あくまでお客様に感じていただく価値を意味しています。

私たちJTBグループは、110年の歴史の中で培われたホスピタリティー、多数のイベント開催で積み重ねてきたノウハウをベースに、リアルとデジタルの両面でお客様に伴走し、「コミュニケーションカンパニー」として社会に貢献していきたいと願っています。