日本を代表する金融グループ、みずほフィナンシャルグループ(FG)が大きく変わり始めた。グループが抱える膨大な知見やIT実装力をもとに最先端のDXを推し進めると同時に、外部からも学び社風の変革にも挑むという。グループのDX戦略を担う梅宮真CDIOに話を伺った。

「オープン&コネクト」で進める脱・自前主義

――みずほフィナンシャルグループ(以下、みずほFG)のDX推進に関する基本方針を教えてください。

【梅宮】みずほFGならではの「強み」を生かしたDXを推進すること、これが基本になります。強みはいくつかありますが、一つ目は、先端技術の研究を行っているグループ会社のみずほリサーチ&テクノロジーズや、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーにAIをはじめとした知見やIT実装力が蓄積できていることです。

もう一つの強みは、取引先の企業との共創・アライアンスを行いつつ、DXを推進することです。大手企業やスタートアップ企業とのネットワークを生かし、彼らが取り組んでいることを一緒に進めていくなかで我々も学び、新たなことを取り込み、さらに社会に価値を提供していきます。

当グループは、「オープン&コネクト」を標榜して、経営の5カ年計画を進めているところですが、これまでのように何でも自前で行うのではなく、「脱・自前主義」として、いろいろな企業やプラットフォーマーと協業しながら、新たな次世代金融の価値を提案していきたいと思っているのです。

株式会社みずほフィナンシャルグループ
取締役 兼 執行役副社長
デジタルイノベーション担当
財務・主計グループ長
梅宮 真(うめみや・まこと)
1964年生まれ。2015年、みずほフィナンシャルグループ執行役員 財務企画部長に就任、取締役兼執行役常務 財務・主計グループ長などを経て22年4月より現職。ほかに株式会社みずほ銀行 副頭取執行役員/みずほ信託銀行株式会社 副社長執行役員を兼務。

「ハウスコイン」を使い、ヤマト運輸やパナソニックと連携

――最近では、みずほ銀行の「ハウスコイン」技術を使った外部との連携で成果を上げていますね。

【梅宮】はい。ヤマト運輸が運営する「ヤマト運輸公式アプリ」と連携し、2022年9月12日からスマホ決済サービス「にゃんPay」の提供を開始しました。ヤマト運輸は、独自のプリペイド型電子マネー「クロネコメンバー割」を運用されていますが、この度みずほ銀行の事業者向け決済・送金サービス「ハウスコイン」の技術を使った「にゃんPay」を導入されました。宅急便運賃の12%割引や、残高不足の分だけチャージできる「ちょうどチャージ」機能を搭載しています。個人の利用者にはお得で使いやすく、支払時の待ち時間の解消など、お客さまの利便性を向上できているとのことです。

ハウスコインの技術を使った第2弾は、パナソニックが新たに立ち上げるプラットフォームとの連携です。EV(電気自動車)充電のシェアリングサービスが、来年春からスタートされます。パナソニックのプラットフォームとみずほ銀行のハウスコインをつなげて、DXを推進しつつSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)にも貢献できるおもしろい仕組みになると思います。

――一方、メタバース領域の金融DXを打ち出されていますね。どんな取り組みをされていますか?

【梅宮】今はまだメタバースがどこまで浸透していくのか見えないところはありますが、2030年にはメタバースが当たり前に使われる世の中になっているかもしれません。今は大きなヘッドマウントディスプレイをつけないといけませんが、近々眼鏡サイズくらいになれば、1人1台メタバースのグラスを持っている世界、もしくはグラスもいらない世界が訪れると予測します。

メタバースは、エンタメ領域を中心に広がってきていますが、決済の部分をどうするのかは大事なポイントです。メタバースの世界は、没入感が強いので、いったんリアル世界に戻ってから決済の手続きをするのはわずらわしい。メタバースの世界の中で決済できる仕組みはニーズがあると思っていますし、いろいろなメタバースで横断的に使える決済基盤が作れれば大きなビジネスになると思います。

近い将来そういったことが起こったときに対応しなければならない部分なので、今はスタディを重ねて、その可能性を探っているところです。

Googleとも連携、「カルチャーを変える」

――米GoogleとDXにおける戦略的提携を結んだというニュースには驚かされました。どういった内容ですか?

【梅宮】入り口は、Googleクラウドを使って、データの分析やシステムのありようを学ばせてもらい、これまでできなかったことに取り組んでいきたいということでした。最優先で行っていることは、「ハイパー・パーソナライズド・マーケティング」。今やあたりまえのことかもしれませんが、一人ひとりに最適化した必要な情報をタイムリーに伝えていくマーケティングの手法の確立を目指しています。もちろん、それ以外の幅広い領域についても使い方を検討しています。

一方、提携の内容を詰めていくなかで、社内から「彼らのカルチャーについて学びたい」という声が上がりましてね。実際にみずほFGの役員陣がGoogleさんのオフィスに行き、企業カルチャーについてお話を伺い、ディスカッションを行いました。また、Googleの方に当社へ来ていただき、企業カルチャーや人事関連のことについて、社員向けの講演を行っていただきました。システム障害の反省から、「企業風土の変革」は、最優先で取り組まなければならないことです。この課題を解決するヒントになると考えています。

――取り入れていきたいGoogleの「カルチャー」とは?

【梅宮】「いかに風通しよく働きやすい職場の雰囲気をつくるか」「社員をいかに大切にしているか」という風土がとても参考になります。当社でも、社員からの声を聞きっぱなしにせずにしっかり受け止めて、フィードバックしていく姿勢を心がけています。企業活動に取り入れられることは取り入れて、できなかったことについてもその理由をちゃんと社員に還元していくことを大事にし、「言うと変わるんだ」ということを社員に体験してもらい、少しずつ前に進んでいきたいと思います。

――そうした取り組みを含め、さまざまな企業カルチャー変革を試みているそうですね。

【梅宮】「挑戦していく企業文化」に変えていきたいと考えているため、グループの人事制度の見直しを進めています。この取り組みを社員と一緒に創り、共に奏でていくという思いを込め、〈かなで〉と名付けました。これまでもグループ横断で戦略をつくって取り組んできましたが、会社間での人事制度に違いがあり、人事異動の際は大変でした。これからは1つのプラットフォームに統一していきます。

共通のプラットフォームをつくるにあたってのコンセプトは、社員一人ひとりが「自分らしく」働くことを実現できること。価値観が多様化しているなかで、出産・子育てや介護の問題など、人生のステージに合わせた働き方を選べるように、一人ひとりが持っている強みや持ち味を活かして輝けるようにしていきたいという思いがありますが、これを、トップダウンで決めるのではなく、社員からの意見を取り入れつつ一緒に変えていきたいと思います。

実はここにDXが関わってきます。みずほFGとしては、もっとDX推進人材を増やしていかなければならないところですが、グローバルで見て約7万人いるみずほの社員の中で、最低限のDXの素養がある人、イノベーションを起こすくらいの知見を持った人、AIも含めた技術的な基盤を持った人がそれぞれ何人いるのかという人材ポートフォリオが可視化されていません。各カンパニーで戦略を練るためにはどのくらいの素養を持った人が何人必要なのか、どうやってその人材を育成していくのかまでを考えていかなければなりません。

そのため、全社員の資質調査をしっかりやろうとしています。「一人ひとりが輝ける会社」にするために、資質をデータとして持ち、一人ひとりに合わせた育成、キャリア、働き方の機会を提供していく必要があります。

こうしたことを通じて、グループとしてのDXの推進、企業風土の変革を進めていきたいと思っています。