白物家電売上高過去最高を更新し続ける韓国LGエレクトロニクス。国内メーカーがひしめく日本市場では、ユニークな生活家電を武器に存在感を放っている。それが今年、前年比3倍の売り上げを記録した「LG Styler(スタイラー)」だ。発売元のLGエレクトロニクス・ジャパンH&Aタスクチームの市川弥生チームリーダー、今聡支マネージャー、そしてLG Stylerの店頭販売に力を入れる大手家電販売店ビックカメラ商品部の青木功バイヤー、牧野英俊セールスプロモーターの4人に、LGエレクトロニクスの商品戦略やLG Stylerの特徴などについて語り合ってもらった。

昨年は過去最高の売り上げを記録したLGの「白物家電」

――生活家電事業部門での成長が目覚ましいLGエレクトロニクス(以下LG)ですが、日本では「LG Styler」の販売が好調ですね。日本における白物家電事業の現状はいかがですか。

【市川】 私たちがH&A(ホームアプライアンス&エアソリューション)とカテゴライズしている生活関連分野がいわゆる「白物家電」に相当します。グローバルでは一昨年と昨年の2年連続で圧倒的シェアを達成し、とくに昨年はLGの歴史でも過去最高の売り上げを記録しました。

とはいえ日本市場は別で、海外メーカーが日本の白物家電市場に食い込むのは相当に難しいのです。というのも日本のメーカーさんの製品、とくに冷蔵庫・洗濯機・食洗器などがそうなのですが、サイズ感・操作性・使い勝手など完全に日本市場に特化されている。私たちの製品も技術力では負けていませんが、グローバルに展開しているものをそのまま日本に持ち込んでも勝つのは難しいのです。

しかし、白物家電は冷蔵庫・洗濯機・食洗器だけではありません。「暮らしや生活に関わる家電製品」にはいろいろなジャンルがあり、私たちはそのほとんどをラインアップとして持っています。そのなかで、どういった製品であれば日本のお客様に訴求できるかを検討した結果、行き着いたのが「LG Styler」でした。

LG Electronics Japan株式会社
H&A Task Team
Team leader
市川弥生(いちかわ・やよい)

――「LG Styler」とは、どのような特徴を備えた家電製品ですか?

【今】 「LG Styler」とは、一言で言いますと「衣類ケア家電」です。なかのハンガーに衣類を掛けておくと振動とスチームでホコリや花粉を取り除き、シワを伸ばし、除菌・消臭もしてくれるといったものです。

もともと黄砂やPM2.5の問題に敏感な韓国・台湾・中国の市場で支持されている製品でしたが、日本でも花粉やハウスダストのアレルギーに悩まされている方にアピールできるだろうと考えました。

また、スーツ、コート、ニットなどの衣類は、頻繁にクリーニングすることができません。「LG Styler」であれば外出先から帰宅して吊るしておくだけでそうした衣類がリフレッシュできるので、衛生意識の高い日本のお客様にアピールできるだろうと考えました。日本版製品にある「花粉ケア」「シルクケア」は、日本のお客様のニーズにお応えすべく設定した専用モードです。

LG Electronics Japan株式会社
H&A Task Team
Manager
今 聡支(こん・さとし)

――コロナ禍を経てそうした製品に対するニーズはますます高まっていそうです。しかし、日本ではこれまでになかった家電製品です。どのように商品の良さを伝えられたのですか?

【市川】 そこに関しては、ビックカメラさんとの提携が非常に効果を上げました。先ほども申しましたが、ただ売り場に置いてあるだけだと冷蔵庫と間違えられるような外観です。「LG Styler」が何であり、どんなメリットをもたらす製品であるか説明をしなければ伝わりません。

そこで私たちは専用什器(展示用のパネル付き台)を開発しまして、ビックカメラさんの旗艦店・有楽町店に置いていただきました。それが大変好評で、実際に売り上げに結びついたので全国の大型店に導入いただくことが決まったのです。

開発開始は前CEOの体験から…LG Styler開発秘話

――ビックカメラでは「LG Styler」をどのように評価して、売り場で推していこうと考えられたのでしょうか?

【青木】 「LG Styler」の開発秘話が非常に興味深いものでした。LGエレクトロニクスの趙成珍(チョ・ソンジン)前CEOのワイシャツが、大事な商談を翌日に控えてしわくちゃになっていた。あいにく出張先のホテルでアイロンもかけられない。それを奥様に相談したところ「ハンガーに掛けて、シャワーを浴びた後の浴室に吊るしておくといい」と助言されたそうなのです。その通りにすると翌朝にはワイシャツがピンとしていて事なきを得た、というお話です。日常の生活の困りごとを解決する――生活家電の原点を見たようで、感銘を受けました。

私たちの使命は最先端の商品をお客様にご提供することです。「LG Styler」のようなお客様に気づきを与えるこれまでにない商品は、まさに私たちがお届けすべきと考えてご協力させていただきました。旗艦店である有楽町店を皮切りに、池袋本店、新宿東口店、ラゾーナ川崎店、なんば店……といった店舗でもLG Stylerの品揃えを強化しております。実績も上がっていますので全国に展開していきたいと思っています。

株式会社ビックカメラ
MD本部 商品部 ホームアプライアンスカテゴリ
バイヤー
青木 功(あおき・いさお)

――実際の売り場の様子、お客様の反応はどのようなものですか?

【牧野】 有楽町店には稼働している「LG Styler」の内部が見えるスケルトンモデルがあります。匂いやホコリを落としている様子がリアルに見えると説得力が違います。他の店舗ではデジタルサイネージ(映像端末)でそれを見せています。

初めて「LG Styler」をご覧になるお客様は、最初は一様に「なんだこれは⁉」といった表情で、興味深そうに眺めたり扉を開けたりしておられます。やはり実機を見て、販売員がご説明して気づきを得ていただける商品だと思いますので、店頭での見せ方に力を入れる価値があります。

――店頭での「体験」があるのとないのとでは商品の理解が違いますね。

【今】 体験ということで申しますと「LG Styler」は最近ホテルやグランピング施設などにも設置いただいています。たとえば宿泊したホテルの部屋に「LG Stylerがあったので使ってみた」とか、グランピング施設で「服についたたき火やBBQの匂いがすっかり取れてる!」といった書き込みがSNSなどにあって、多数の「いいね!」が付いたりしています。

こういった体験があると「次回もLG Stylerのある部屋に泊まりたい」といった差別化や「ホテルで使って良かったから自宅にも欲しい」といった需要の掘り起こしにもつながると思います。またSNSで発信していただくことが「LG Styler」の認知度向上や、LGの生活家電のブランドイメージ確立にも非常に良い影響を及ぼしていると見ています。

【市川】 ホテルをはじめとした施設への展開でLGはビックカメラさんにもご相談させていただきました。私たちにもBtoBを手掛ける部署はあるのですが、ビックカメラさんは全国に法人部隊があってきめ細かな対応をされていますので、提携は非常に心強いのです。

――ビックカメラがこれからのLGの白物家電に期待するところは何ですか?

【牧野】 冒頭に市川さんが、海外メーカーが日本市場で白物家電を売るのは難しいというお話をされましたが、「LG Styler」は見事に日本のお客様の心を捉えました。需要を掘り起こされたことももちろんですが、「花粉ケア」「シルクケア」といった日本市場向けの機能開発・追加などの努力も受け入れられた理由だと思います。

株式会社ビックカメラ
MD本部 商品部 ホームアプライアンスカテゴリ
セールスプロモーター
牧野英俊(まきの・ひでとし)

【青木】 「LG Styler」が成功体験となったので、ビックカメラとしても大いに期待するところです。「LG Styler」も新発売の空気清浄機も、生活の中の困りごとを解決してくれる商品です。白物家電は成熟した商品分野のイメージがありますが、お客様のライフスタイルにはここ数年で大きな変化がありました。ということは、そこには今までにはなかった新しい困りごとがあるはずで、LGさんの今後のユニークな商品展開に期待しています。

「LGらしさ」を発揮、日本市場で愛されるメーカーを目指す

――最後にLGの今後の商品展開と、販売戦略について教えてください。

【今】 「LG Styler」は私たちが日本市場で白物家電を展開していく第1弾であり、第2弾としては先ごろ新型の空気清浄機を発表しました。こちらも日本市場のニーズに応える製品で、「ペットモード」を選ぶと通常モードの30倍の強度で空中に舞うペットの毛やフケを除去します。また、詳細はお話しできないのですが今後も第3弾、第4弾とユニークな商品を展開していきます。

【市川】 日本では家電販売店を抜きに商品展開することは考えられません。LGは国内すべての家電販売店に商品を卸していますし、これからもその方針は変わりませんが、今後はただ一律に商品を卸し陳列していただくのではなく、それぞれの家電販売店の強みや特徴を生かした販売促進を展開していくフェーズに入りました。製品展開だけでなくマーケティングでもLGらしいユニークさを発揮して、日本市場で愛される白物家電メーカーとして認知していただけたらと思っています。