倉橋島お宝フリットの開発は、2018年7月に西日本の広い範囲を襲った豪雨災害がきっかけでした。風光明媚な桂浜海水浴場などの観光スポットも多い倉橋島南部の倉橋町はこの豪雨によって大きな被害を受けました。故郷復興のため、島の名物となる新たな名物料理を開発して島外から人を呼び込もう。倉橋島の有志グループの要請を受けてプレジデント社がプロジェクトを主導することになりました。
料理開発にあたってもらったのは、東京・代官山のイタリアンレストラン「ファロ」の樫村仁尊シェフ。樫村シェフは2004年から6年間、広島市内のイタリアン「マンジャペッシェ」のシェフをつとめており、東京から単身移り住んだ自分を温かく迎えてくれ、「第二の故郷」と呼ぶまでになった広島に恩返しをしたいと依頼を快諾してくれました。
まずは、樫村シェフとともに島内の漁業者と農業者を訪ね、料理の素材を発掘しました。その過程で見えてきたのが、品質の良い実を収穫するために果実や野菜の未成熟の実を摘み取る「摘果」と、水揚げされたものの流通ルートに乗らない「未利用魚」の存在でした。様々な理由で廃棄物になっていく食べ物を「お宝」として蘇らせる。料理の開発コンセプトが固まりました。
試作を繰り返し出来上がった倉橋島お宝フリットは、島の海と山の幸をサクサクの衣に包んだ揚げものです。衣の小麦粉には特産品のちりめんの粉を加え、香りと旨味を強調しました。このちりめんの粉は、選別工程で出る屑と呼ばれる、折れたりちぎれたりした不良品をパウダーにしたものです。そのほかにも、特産品の牡蠣などとともにホシザメなどの未利用魚や摘果トマトなどを使い、倉橋島らしい一品が完成しました。
次に行ったのが、調理講習会です。倉橋町の飲食店や漁師、農家、生活改善推進員のメンバーなど約50人が参加して樫村シェフの指導のもと調理方法を学びました。また、同時に広島県のデザイナーに依頼して倉橋島お宝フリットのロゴやデザイン物を制作。飲食店だけでなく、島内でのイベントでの料理提供などを通じて新しい名物料理は着々と知名度を高めています。
“おいしい”で企業や自治体を元気にするdancyu総研。食雑誌『dancyu』を通じて育んできた知見と専門家ネットワークを皆様の課題解決にお役立ていただきたいと思います。お気軽にお問い合わせください。