日本で販売されているコカ・コーラ社製品は、日本コカ・コーラ株式会社が原液を供給し、5つのボトラー会社によって製造されている。ボトラー各社のなかでも12社の統合を経て2017年4月に誕生したコカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社は、国内のボトラー社の売り上げの約9割を占めている。統合当時は良くも悪くも昔からの慣習が残る企業であったという同社は今、カリン・ドラガン代表取締役社長 最高経営責任者の下、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に注力中だ。同社執行役員で人事・総務本部長の上村成彦氏と、人財開発部部長の木下梨紗氏に、その狙いについてお話をうかがった。

イノベーションを生み出す組織へ変革中

――御社がD&Iを積極推進しているのは、どんな問題意識からですか。

【上村】日本では炭酸だけではなく、コーヒーやお茶、水など飲料の種類が多く、販売チャネルも多様化しています。世界に類を見ない市場であり、当社もイノベーションとクリエイティビティが求められています。そのためには、さまざまなアイデアや価値観を持つ人財が必要だと考え、D&Iを進め、イノベーションを生み出す組織に変革しようとしているのです。

統合当初、社員はスーツを着ていたのですが、「カジュアルでもかまわない」と服装規定を変更し、社員同士の呼び方も「○○課長」というように役職を付けていた状態から、「さん付け」に変えました。今は会社のトップであるカリンに対しても「カリンさん」と呼びかけています。

私たちのユニークなところは、日本の各地方にあった企業が集まってできた会社だということです。そうした企業の成り立ちと同様に、違う価値観を持った人財が集まることが、イノベーションに必要な自律的な組織をつくる上で必須であると考えています。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
執行役員 最高人事責任者 兼 人事・総務本部長
上村成彦(うえむら・なりひこ)
一橋大学卒業後、ソニーの海外事業本部で長年活躍。2009年に同社のアジア・オセアニア・中近東・アフリカ地域統括会社社長に就任。13年に同社人事部門副部長、14年から日清食品グループ執行役員・CHO(人事責任者)。18年、コカ・コーラ ボトラーズジャパンに転じ、上席執行役員兼人事本部長。20年1月から現職。

――会社としての人事政策の方針はどういったものでしょう。

【上村】統合によって中枢組織のスリム化をしてきた影響もあり、全社の人員構成のなかで女性や若手が少なくなっていたことが課題でした。そこで優秀な新卒の採用と、女性の採用比率を高める施策を打ち出しました。

その結果、2020年以降、大卒の新卒採用での女性比率は約50%となりました。といっても、女性だからという理由で優先的に採用したわけではなく、優秀な順に採用したところこの数字になったのです。

若手育成のための「フレッシュマンズ・プログラム」も開始し、優秀と認められれば30歳前でもマネージャーに昇進させていく方針です。ただ、そうカリンに伝えたら、「どうして昇進に年齢が関係あるんだ?」と言われてしまいました(笑)。海外の多くの企業では優秀な人が昇進するのは当たり前で、年齢など関係ないのが当然なのです。当社も今後はそうした世界標準の考えを持った組織に変わっていきます。

女性活躍が現場にもたらす「ゲームチェンジ」

――御社は2020年度の「東京都女性活躍推進大賞」で産業分野の大賞を受賞しています。女性活躍推進に力を入れる背景について教えてください。

【木下】飲料の製造販売という業界の特性として当社も歴史的に男性社員が多い職場構成になっています。その現状を、今後は超少子高齢化が進む日本の労働市場下で、持続可能な成長を続けられるように変革する必要があります。そのためにも女性活躍推進に力を入れることが重要だと考えています。

なぜこの業界で男性社員が多いかというと、製造現場での夜勤や重い飲料の運搬といった現場業務があることが一因になっています。しかし、今後のサステナブルな成長戦略を考えたときに、従来のように「体力がないとこの会社では業務が務まらない」というところから発想していたのでは成長できません。そうではなく、年齢や体力に関係なく、さまざまな人財がパフォーマンスを発揮できるような新たな仕組みや方法を創出する、すなわち「ゲームチェンジ」を起こす必要があります。そこで、2030年までに女性管理職比率を、現在の6.3%から20%までに向上させる目標を掲げ、さまざまな施策の展開に取り組んでいるのです。

コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社
人財開発部 部長
木下梨紗(きのした・りさ)
立教大学法学部を卒業後、グロービスマネジメントスクールにてMBAを取得。 AIGグループやGE、The Walt Disney company Japanなど米国系企業を経て現職。キャリアを通じて人事部門で採用・制度構築・組織開発(Recruiting/C&B/Learning/OD)を担当するほか、M&Aに伴うインテグレーションやカルチャー変革(Integration PJCT./Culture change)をリード。日本最大のHRネットワーク「日本の人事部」の活動でも著名。グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。現在は現業の他にATD Japan理事、ビジネスコーチ、MBA講師としても活躍中。

――女性人財育成プログラムには、どのようなものがありますか。

【木下】人財の棚卸しを行う毎年の「サクセッションプランミーティング」で選抜された女性社員に対し、階層別に3つのリーダーシップ育成プログラムを提供しています。

部長クラスに対しては「スポンサーシッププログラム」を提供しています。女性部門長それぞれに、経営陣から1名ずつスポンサーをマッチングし、ワン・オン・ワンミーティングでのダイアログ(対話)を通じ、経営視点からの高い視座を獲得してもらい成長を促すプログラムです。1年の期間中、毎月1対1で対話の時間を持ち、次のレベルに向けたキャリアロードマップや行動計画の検討につなげてもらいます。ここでは経営陣から提供された宿題への取り組みや対話を通じて、さまざまな示唆を得てもらいます。これらの経験を通じて、より高次のマネージャーとして迅速に成長してくれることを期待しています。

課長レベルに対しては、リーダーに必要なスキルとマインドを獲得することを目的とした半年間のプログラム「AccelerateHER」を提供しています。プログラムのフォーカスエリアは、より高度なリーダーシップスキルの獲得になります。たとえば、部長に求められるコンフリクト・マネジメントスキル獲得のため、さまざまな部門の出身者からなる仮想のプロジェクトチームを構成し、そのチームで一つの課題に向けて取り組むようなプログラムを用意しています。また、こうした取り組みを通じて、女性管理職の社内ネットワークを強化し、女性リーダーの孤立を防ぐことも狙いの一つとしています。

リーダー職に対しては、リーダーとしての考え方や意識の向上を目指す5カ月間のプログラム「Female Next Leaders Program」を提供しています。当社において、今までの環境から男性の場合は「がんばれば上に行ける」という感覚がありますが、女性の場合はそもそも自信を持てなかったり、マネージャーになることを考えたこともないという人が多いため、社内で女性が直面しがちな課題に対して、どう乗り越えるかを知ってもらい、マネージャーになることを自身のキャリアにおける「当たり前の選択肢」の一つとして認識してもらいたいと考えています。

「普通の人」でもマネージャーになれる

――女性活躍について、社内のロールモデルとなるような実例はありますか。

【木下】そうですね……。少し違った角度からの回答になりますが、「さまざまなタイプの女性管理職が社内にいる」ということは、多くの方が今後自身のキャリアを考えるにあたって意味のあることなのではないかと思います。たとえば当社にも、最初から管理職を目指してキャリアを築いてきたタイプの女性管理職がいる一方、そんなことにはまったく関心がなかったけれど管理職になっているという人もいます。

今年3月の国際女性デーのときに開いた社内イベントで、キャリアヒストリーを語ってくれた女性管理職の一人が後者のタイプでした。もともと工場勤務で、仕事は楽しくて好きだったけれど管理職にはまるで関心がなかったといいます。ところが20年務めた工場が危機的な状況に直面したときに、「自分が何とかしなければいけない」と強く思うようになり、そこで初めて「管理職になる」という選択をしたそうです。

実際に管理職になってみると、さまざまな困難に直面した一方で、日々努力を重ねるなかで問題を解決していけるようになった、という充実感を語ってくれました。

イベントに参加した女性社員からは多くの反響がありました。たとえば「女性の管理職というのは特別な人がなるもので、自分とは関係がないものだと思い込んでいた。お話を聞いて、いい気づきを得られた」「管理職というのは、誰もがキャリアの選択肢の一つとして考えることができるものだと気づき、希望をもらった」というのですね。私たちも「女性マネージャーのあり方についても多様性が重要だ」ということを改めて実感させてもらいました。

――最後に、女性活躍推進について読者へのメッセージをお願いします。

【上村】これからも私たちはいろいろな製品をお客様に届けていきますが、今後はそうしたプロセスにもイノベーションが起きて、これまでにないやり方が生まれてくるでしょう。最終的には私たちが掲げる「すべての人にハッピーなひとときをお届けし、価値を創造します」というミッションの達成が目的であり、私たちはそれを実現するための方法として、D&Iを推進していきます。

【木下】D&Iは私たちのビジネスにとって欠かせない重要な観点です。すべての人にハッピーなひとときをお届けする素晴らしいブランドであり続けるためにも、私たち自身がより多様なメンバーで構成され、それぞれの違いを尊重し活かし合いながら活躍していけるよう今後も挑戦し続けます。そしてみなさんから「さすがコカ・コーラ ボトラーズジャパン」と言っていただけるような組織に進化していきたいですね。