世界基準の「ブランディング」手法を駆使し、誰もが知る大手LCCやリテーラーのリブランディングから地場の小売店の事業承継までを幅広く手掛けるブランドコンサルティング企業、シー・アイ・エー(CIA)。グローバルトップリテーラーの日本進出を成功に導き、青山フラワーマーケットのビジネスモデル転換を主導したことで大きな注目を集めた。最近ではトータルなコンサルティングのほか、ブランド価値の診断から価値向上のための施策の提示までを行うブランドヘルスチェック(BHC)サービスの提供を開始した。同社がブランディングにおける「最強の黒子」として知られているのはなぜか。創業者で会長を務めるシー・ユー・チェン氏と、2021年から社長を務める江島成佳氏にお話を伺った。

課題解決にとどまらない、「成長解決」へのブランディング

——CIAによる企業サポートは、狭義の「ブランディング」とはどう異なるのでしょうか。

【江島】ブランディングというとデザインなど視覚的な部分にとらわれがちですが、本来のブランディングは事業の目的や企業のDNAを踏まえて、その先にある顧客体験価値を具現化し、訴求していくものです。その取り組みのきっかけは、現状のマイナスをゼロにしようとする「課題解決」かもしれません。しかし、CIAでは、独自メソッド「Futurology Branding」&「Innovation Prototyping」を用いながら、これからの顧客体験価値の観点からブランドの「未来のあるべき姿」を描きます。そして、ただの課題解決に終始せず、未来の顧客体験価値を創造し、ブランドをプラスへと導く「成長解決」を提案します。

また、CIAは最先端の知見を持った専門家たちを加えたプロフェッショナルチームをすぐに組むことができるので、あらゆるブランドのお手伝いをすることが可能です。

【チェン】CIA(Creative Intelligence Associates)という社名は、1984年の創業時に「創造性のある仲間を集めたい」という思いを込めてつけたものです。私たちは新規事業開発やリブランディングだけでなく、事業承継など経営の大事な場面において、ブランディングの観点をもつことで、さらなる成長に向けた基盤づくりができます。

たとえば東京・練馬区のオザキフラワーパークは単独店舗の事業承継のケースでした。花卉かき生産を営むご両親が、新青梅街道沿いに植物を売る専門店として始めたのが現在のオザキフラワーパークです。会社を継ぐことになった現社長も、ご両親同様に植物好きで、海外まで植物を見に出かけるような方です。私たちはそうした「思い」をどう表現するかを考え、社長からのメッセージである「Feel the Power of Plants(感じよう!植物の力!)」を合言葉に、駐輪場だったスペースを地産地消のグロワーズ・カフェに、建物の入り口ファサード部分は野菜苗や季節の花苗を豊富に取り揃えたガーデンセンターへとブランド強化しました。まるでジャングルのように植物が生い茂った店内は、「買える植物園」と呼ばれて、テレビ番組でも紹介される植物の人気スポットとなっています。

シー・ユー・チェン
株式会社シー・アイ・エー
ファウンダー兼取締役会長
40年近い成功実績があるブランドコンサルティング会社、シー・アイ・エー(CIA)の創業者。“Japan Branding”を提唱し、新業態・ブランドの原型を提案する等、数多くの会社のブランディングを支援、提供している。また、Innovation Prototypingを通して改善プロセスを実践し、成功率を高めている。東京建築士会住宅建築賞受賞。著書に『インプレサリオ』(ダイヤモンド社)がある。

【江島】会社の規模は大きくなくても、事業を立ち上げたり、商品をリニューアルするときなどでもお手伝いができると思います。社長に「こういう会社にしていきたい」という思いがあれば、その実現を支援するのがブランディングであり、私たちの仕事です。

江島成佳
株式会社シー・アイ・エー
代表取締役社長
ブランディングのコンセプト開発・企画立案からトータルディレクションおよびマネジメントの実行責任者を歴任。金融・IT、不動産、自動車メーカー、運輸、病院、教育、流通・小売業、飲食業など幅広い業種のブランディングに従事。VI開発やプロダクト、サービス開発、空間設計、コミュニケーション施策なども手掛ける。2021年5月より現職。

時代に合わせた価値転換が求められている

——1998年、東証1部上場を目前にしていたユニクロのリブランディングを成功させたことが、さらに大きく注目されるきっかけになりました。

【チェン】その頃のユニクロはよくある郊外のリーズナブルな量販店というイメージでした。そこから一気にグローバルのトップリテーラーのようなメジャーな存在にバージョンアップする。これが私たちの目的でした。

私たちが最初に取りかかった仕事は、ミッション・ステートメントの作成です。これは、政党のマニフェストにあたるもので、ユニクロをどんな会社にしたいのか、目的を明確にすることでした。私たちは、ユニクロは日本人が理想だと思うような、新しい日本を象徴するような会社にならなければならないというメッセージをお伝えしました。

たとえば宣伝広告では、グローバルトップリテーラーの広告制作をする会社を紹介し、従来のイメージを塗り替える作業をしました。また、ユニクロが東京・原宿に進出する際は、実際の店舗を1店閉ざしてプロトタイプ・ストアとし、目の高さと商品の関係、看板類の位置、どこにタグをつけるかまで、6カ月ほどかけて徹底した検証を行いました。

その後の目覚ましい発展は、皆様もご存じの通りです。

花屋さんから筆記具メーカーまで多岐にわたる顧客層

——ユニクロの大成功を見て相談に来た会社も多かったでしょうね。

【チェン】そのひとつが青山フラワーマーケットを展開するパーク・コーポレーションです。当時はまだ青山などに4店舗を経営する、ちょっとおしゃれな普通の生花店で、お訪ねすると、社長やスタッフの皆様がゴム長靴を履いて床を水洗いしているなど、親しみを感じられる花屋さんでした。

同社の井上英明社長は当時から「花屋のユニクロになりたい」と話され、私たちに駅構内のデッドスペースを利用してフラワーショップを展開する計画を相談されたのです。

まずは渋谷駅の階段下へ出店するため、実物大の店舗の模型を作成して検証を行いました。駅ナカにあるためアテンション・スパンが非常に短く、「目を留めてすぐ買う」くらいの流れでないと、購買につながりません。そこで「お客様が3分で意思決定できるような売場にしませんか」と申し上げ、従来の花屋さんの定番設備だった冷蔵ケースをなくし、手軽に買える出来合いのブーケを中心に販売するスタイルを提案しました。

模型の店舗内で、繰り返し商品や陳列の仕方、価格などを検証していき、最終的にわかりやすく価格帯で分けられたライフスタイル・ブーケとして売り出しました。そして、「Living With Flowers Every Day」を合言葉に、ブーケをワンコインで手軽に買える小さな店舗を全国に展開し、大成功を収めたのです。

当時は花は特別なシーンで購入するものというのが常識だったが、青山フラワーマーケットはCIAとの協業により、誰もが気軽に花を買って楽しめる、「花のある暮らし」へと価値転換を行った。

その当時、花を毎日買って飾る文化は日本には定着していませんでしたが、現在、青山フラワーマーケットのスタイルが一つのスタンダードとなって、カジュアルに花を買って帰る文化が広がり始めています。この成功は、単なる商品開発ではなく、「花を買う」という特別な行為から、「花のある暮らし」というライフスタイルへの価値転換を行った結果だといえます。

【江島】こうした価値転換を行った身近なプロジェクトとして、サクラクレパスの筆記具ブランド『SAKURA craft_lab』があります。

サクラクレパスは大正時代に創業された老舗で、2014年に社長に就任された西村彦四郎さんが、「未来を目指して御社と組みたい」とおっしゃって、訪ねてこられたのです。

クレパスには誰もが子どものときに使った懐かしいイメージがありますが、その半面、メーカーであるサクラクレパスには「新しさがない」という悩みがありました。そこで「懐かしいけれども新しいブランドをつくりましょう」と申し上げ、高級ボールペンの『SAKURA craft_lab』を立ち上げました。まさに「懐かしい」というDNAを基盤に筆記具ブランドとしての価値転換を行いました。シリーズ最初の「001」が「文房具屋さん大賞」で大賞を受賞するなど、こだわりを持った大人の文房具として高く評価されています。今も毎年1本のペースで新たなモデルを発表しており、グッドデザイン賞(2018)や、ドイツのGerman Design Award(2022)と、多くの賞をいただいています。

「新しい懐かしい、をつくる。」をコンセプトにサクラクレパスが立ち上げた新ブランド『SAKURA craft_lab』(写真上)と、リブランディングを機に、テレビ番組でも紹介される人気店に成長した東京・練馬区のオザキフラワーパーク(写真下)。

中小企業でも活用できるブランドヘルスチェックとは

——CIAでは「ブランドヘルスチェック(BHC)」というサービスも行っていますね。

【江島】ブランドヘルスチェックではコーポレートやプロダクト、サービス、またサービス提供のタッチポイントまで多角的な評価軸で診断を行い、ブランドの価値や課題を把握します。現在の立ち位置を明確にすることで、企業およびブランドの成長戦略の方針を見つけるサービスです。評価するだけでなく、「どうすればブランド価値を高めることができるのか」についても具体策を提案します。今までさまざまなブランドをお手伝いしてきた知見を生かし、ブランディングのファーストステップで行っていた調査を体系化し、より気軽にお試ししていただけるサービスです。

CIAがブランディングのファーストステップで行ってきた調査を体系化した新サービス「ブランドヘルスチェック」。「診断」から「具体策の提案」までを行う。

【チェン】このサービスが生まれたきっかけは、クライアントによるM&Aでした。とある高級日用品の有名ブランドの買収プロジェクトで、買い手側のA社から「ブランドの価値を正しく評価出来るような診断レポートを出してくれないか」と相談を受けて、バリューアップの伸びしろを見出す調査を行い、対象会社のオーナーに説明したのです。

結果、「事業成長のためにブランドの持つ強みを理解し、成長のための課題と施策を明確に可視化したのは他社にはない提案だった」と言っていただき、A社であれば出資後も事業(ブランド)を大切に育ててくれると確信され、A社への売却を決定してくださいました。

実は、実際の入札価格は他の買い手候補よりも低かったようですが、当社のレポートがオーナーの意思決定を後押しすることになったそうです。

【江島】どんなブランドも、商品、サービスも時代に合わせて新しく価値転換を行っていく必要があります。ブランドヘルスチェックはデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社(DTFA)と共同開発したものであり、DTFAが強みを有する経営戦略観点、ファイナンス観点をブランディングとつなげることで、うわべだけではない本質的なブランド価値の強化が可能だと考えております。真剣になってポジティブな未来を描きたい方は、ぜひご連絡ください。