自社のサステナブルな取り組みを加速させ、社会の期待に応えるにはどんな一手が有効か──。2030年までに「目に見える成果」を示すことが強く求められる中、企業の活動を支え、組織の基盤強化にもつながるツールとして、東京商工会議所が主催する「eco検定(環境社会検定試験)」が注目されている。大手企業を中心に導入が相次ぐ、その背景とは。

個々に異なる知識量。「学ばせ方」が分からない

企業の成長性やビジネスの価値を評価する上で、環境配慮、サステナビリティへの取り組みは重要な判断材料となる。世界のESG(環境・社会・ガバナンス)投資残高は拡大傾向にあるといわれ、国内でも東証プライム市場の上場企業に対して、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)あるいは同等の基準に沿った気候変動関連の情報開示が実質的に義務化されるなど、さまざまな仕組みが構築されている。企業はSDGsへの貢献を宣言するだけでなく「具体的にどのようにして実行しているのか」「どんな成果を上げているのか」を明確に示すことが求められる。

小林治彦(こばやし・はるひこ)
東京商工会議所 常務理事
1963年生まれ。87年4月、東京商工会議所に入所。総務統括部長、理事・産業政策第二部長兼東商ビル建替え準備室部長、理事・事務局長を経て、2021年4月より現職。

「環境やサステナビリティに配慮した経営は長期的な観点から、企業価値の向上、持続的な成長につながるとされます。組織的な取り組みをより効果的で実行力のあるものにするためには、従業員の意識や理解度の統一を図り、自社のビジネスにSDGsの目標を落とし込むことがポイントです。環境、サステナビリティ、経済活動が複雑に絡み合い課題が多様化する現在、一人一人のビジネスパーソンが正しい知識に基づいて最適な選択肢を見極め、活用するスキルを身に付ける必要があります」

そう話すのは、東京商工会議所の常務理事である小林治彦氏だ。「しかしながら」と同氏は続ける。

「教育が思うように進まないという悩みを抱える企業は少なくありません。例えば脱炭素を後押しする設備への投資や、ごみの排出量低減などは全社的な方針として設定しやすく、皆がその重要性や効果をイメージすることができるでしょう。一方で個々のスキルアップについては、学習範囲が広大で、また業務や普段の生活でなじみがないため、それぞれの知識量や関心の度合いが異なります。何をベースに学ばせればいいのか見当がつかない、そんな経営層の戸惑いの声が東京商工会議所に寄せられています」

専門家らも評価する完成度。ビジネスの説得力が高まる

そこで、日々の業務と環境やサステナビリティを結び付けるツールとして大手企業を中心に活用されているのが、東京商工会議所が実施する「eco検定(環境社会検定試験)」だ。

2006年、「環境に関する幅広い知識を礎とし環境問題に積極的に取り組む人づくり」「環境と経済を両立させた持続可能な社会づくり」を目指して創設された。社会の変化やビジネス界のニーズに合わせてアップデートを重ねてきたことが特徴で、これまでの受験者数は延べ56万人超、企業・学校等の団体利用は延べ3400団体を超える(2022年9月現在)。公式テキストは環境問題を扱う専門家からも「環境教育の入門編」として高い評価を受けており、大学の講義でも採用されるなど、環境知識を体系的に学べる完成度の高い検定試験として評価されている。

eco検定は、持続可能な社会を実現する推進力である「人」の育成にフォーカスしたものだ。「業種、職種にかかわらず全ての方が対象です。創設から積み重ねたノウハウに基づき分かりやすく環境知識を整理していますので、どなたでも実践的な知識を身に付けることができます」と小林氏が説明する通り、まさにSDGsが共通言語となったビジネスの場で大きな力を発揮する。

「いまや、ビジネスにおけるコミュニケーションの在り方は大きく変わりました。ただ環境に配慮した商品やサービスというだけでは差別化や競争力を示せず、何と比較してどのくらいやさしいといえるのか、それを導入することでどんなメリットが見込めるのか、エビデンスを示して理論的に説明し、十分に納得してもらうプロセスが欠かせません。担当者が自信なさげにあやふやな受け答えをすれば、企業への信頼感が低下するのは明白です。eco検定の知識がよりどころとなって資料や提案内容の説得力、精度を高めることができます」

eco検定の学習を通じて従業員の知識レベルや思考などが平準化されることで、組織でのサステナブルな活動に一体感が醸成される。また、統合報告書や環境報告書に検定合格者数を記載するなど、情報発信に活用している例も多い。

社員の主体的な学びが事業発展につながっています

株式会社フォーバル
代表取締役社長
中島將典さん

当社では正しい知識によりお客さまへ利益貢献するためeco検定を推奨資格としています。社員の意欲向上のため経営から学びの重要性を発信し、昇格には資格取得を義務付け、役職者が模範となり全社員取得を目指しています。お客さまへの問題提起はもちろんですが、自社のエコ活動が進み自治体の認定を取得、環境に配慮したサービスを考案するなど社員の主体的な学びが事業発展につながっています。


価値ある学びをグループ内の共通言語に

株式会社セブン&アイ・ホールディングス 執行役員
経営推進本部 サステナビリティ推進部シニアオフィサー
釣流まゆみさん

複数のグループ会社があり社員数も多い中で、社会的価値のある学びを通じて共通言語を持ちたいと考えeco検定の受験を促進しています。促進に当たり、経営層によるeco検定に取り組む意義や思いが伝わるステートメントが有効です。重要なのは、検定合格で得た知識を「業務でどう生かすか」という点に尽きます。そんな視点で活躍できる人材を増やせるよう、仕組みを整えていきたいと思います。

持続的な発展を担う人材確保にもつながる

「企業の持続的な発展」という側面から着目しておきたい、eco検定受験者のデータがある。「約10人に1人が学生」と若い世代の検定への関心は高く、就職活動に関する各種調査でも、企業がどんなSDGs活動を展開しているのかを意識し、熱心であるほど「志望度が上がる」という声が多く見られる。学生たちにとって魅力的な就職先とは、eco検定で得た環境知識を十分に生かしながら働ける場が用意されている企業だろう。小林氏は次のように強調する。

「少子化が進み、優秀な人材の確保はますます厳しくなるばかりです。環境、サステナビリティに対する高いリテラシーは、次世代から選ばれる企業であるための要件であるといえます」

2050年のカーボンニュートラル実現、その中間目標である2030年の「温室効果ガス排出量46%削減」達成に向けて、国内外の企業によるソリューション導入の活発化が予測される。早々に動かなければ後れを取ることは必至だ。大掛かりな設備投資や社内研修会のセッティングなどと異なり、各自が自分のペースで学習を進めて受験に臨めるeco検定は導入のハードルも低く、一度の受験で多数の従業員の効率的なスキルアップ、さらには合格者数の公開などによる企業のイメージアップといった効果が期待できる。「環境に強い組織」への一歩を踏み出すのは今だ。

2023年「eco検定(環境社会検定試験)」試験要項

[第34回]2023年7月頃
[第35回]2023年11月頃

●試験時間:90分 ●申し込みはインターネットのみ

IBT方式(受験者自身のパソコン・インターネット環境を利用して受験する試験方式)、CBT方式(各地のテストセンターに備え付けのパソコンで受験する試験方式)共通