学生には、自ら学びをデザインする力を獲得してほしい
課題を抱える現場も貴重な学びの舞台
「100周年ビジョンの中で大事にしているものの一つが『創発』です。もともと物理学や生物学などで使われる言葉ですが、私たちは『さまざまな価値観を持つ人が協働することで、予期せぬものが生まれる』といった意味に捉えています。現代の社会課題は、これまでの延長線上の考え方では解決が難しい。従来の枠組みを塗り替える新たな価値が次々と生まれるような環境をつくりたいと考えています」
山本学長はそう話す。そして、その実現に当たっては大阪経済大学の建学の精神である「自由と融和」も欠かせない要素だという。
「『自由』とは“自らに由る”こと。自分の意見をしっかり持つ人同士が交わるからこそ相乗効果が生まれます。加えて、柔軟で寛容な『融和』の精神も『創発』を支えるものです。今の時代、『AかBか』という二項対立で物事が語られがちですが、大事なのは、異論を一度、自分の中に受け入れ、それをかみ砕き、吟味すること。そうすると、AとBから新たなCを生み出すことができる。私たちはそう考えています」
そしてもう一つ、同大学が100周年ビジョンの中で大切にしているのが「生き続ける学び」だ。
「知識や情報は検索ですぐ手に入れられる今、必要なのはそれを自ら編集、活用する力。まさにそれを身に付けるのが大学での4年間で、習得した力は仕事をはじめ社会でのさまざまな活動、さらに人生そのものを支えてくれるはずです」
では、いかに「生き続ける学び」を身に付けるか。大阪経済大学は、4年間を通じて行うゼミに重点を置きながら、同時に学内だけでなく、地域の現場も学びの舞台として活用し、学生を後押ししている。
例えば、福祉事業所と連携したビジネスモデルの構築や地域の課題に対応する自治体とのコラボレーション企画など、学生は多様なプロジェクトに参画。また長期休暇の課外活動として、自治体と連携した地域活性化のフィールドワーク、企業での教材開発のプログラムなども大学が提供している。未知の価値観と出会い、自分の殻を破る機会をつくっているわけだ。
「今までいたのとは違う場所に飛び込み、自分の可能性を引き出していく。そうした経験を通じて、自ら学びをデザインする力を獲得してほしいというのが私たちの思いです」
地域の多様な現場で課題解決に向けた取り組みを推進
地域の福祉事業所の課題解決を目指す「福学地域連携プロジェクト」の一環として、障害のある人による自主製品を販売する「くすのきエール・マルシェ」。学生は、中小企業診断士のアドバイスを受けながら収益を上げるための仕組みなどを検討する。慈善活動ではなく、自主製品を適正価格で販売できるビジネスモデルを構築し、福祉事業所に引き継ぐことを目指している。
南海電気鉄道、大阪健康福祉短期大学、泉北高等学校と協働で実施したシニア向けの「高校生&大学生によるかんたんスマホ講座」。学生らが講師となって、泉北ニュータウン地域の高齢者を対象にスマホに関する悩みに応えた。スマホが使えない高齢者がデジタルサービスを十分に享受できなかったり、社会的孤立に陥ってしまったりする課題を解決することが狙いだ。
大阪府能勢町と大阪経済大学の官学連携プロジェクト「能勢っこ! かけっこ! 日本一!」。少子化による小中学校再編により、スクールバス通学の導入などで運動時間が減少した結果、体力測定の結果が低下していた能勢町の子どもたちの運動能力向上を目指し、2019年から独自の体操の共同制作、運動指導、体力測定サポートなどを継続して実施。50m走の記録の伸びが認められている。
結果が見えないことへ挑戦する冒険心も重要
独自の取り組みで存在感を示す大阪経済大学。中小企業研究にも定評があり、学内の「中小企業・経営研究所」の研究成果を企業支援に生かすセミナーなども好評を得ている。また、2019年から仕事を続けながら学べる「中小企業診断士登録養成課程」も開設し、社会人から注目を集めている。
「これまでに70人を超える受講者が資格を取得しました。資格取得者と地域の企業、本学が連携し、中小企業を支援するプラットフォームをつくる動きなども始まっています」
一方、大学改革も着々と進行中だ。23年度に既存学部のカリキュラム再編と定員増を行う。また、翌24年度には「国際共創学部」(仮称)の開設も構想している。
「本学の学生の特徴である実直さ、誠実さを大事にしながらも、カリキュラムや教育環境を再整備することによって冒険心や物事を多面的に見る思考力も培っていきたい。社会の在り方が刻々と変化する現在、やはり前例踏襲ではなかなか前に進めません。結果が見えないことへ積極的に挑戦する気持ちこそが重要だと思うのです」
さらに山本学長は、そうした教育活動の中で学生たちの“気付き”を大切にしたいと強調する。
「例えば学生があるテーマについて、仲間と議論したり、追究したりして、何らかの結論にたどり着いたとします。仮にそれと似たものが既に世間にあったとしても、自分たちで考え、結論を導き出したことに価値がある。そのような気付きも立派な『創発』です。私を含め教職員の役割は、一つ一つの気付きをきちんと評価すること。それが学生の自信や前向きな気持ちを醸成することになると考えています」
不確実な時代といわれる今、変化を恐れず行動できる力、多様性を生かせる力が必要とされている。まさにそれを備える人材の育成に取り組む大阪経済大学。10年後の100周年に向けてどんな成果が生まれるのか、これからが楽しみだ。
進化する大阪経済大学これからの動き
コース改編や定員増などを実施
23年度から、経済学部ではデータサイエンスなど高い専門性を身に付ける二つの教育プログラムを新設し、経営学部では新たな科目を設けて教育内容の充実を図る。また、情報社会学部はデータサイエンスなどを学ぶ「総合情報」と「社会学・現代ビジネス」の2コースに改編。人間科学部は「臨床心理学」「スポーツ科学」「社会ライフデザイン」の3コースに改編し、社会のニーズに合った学びを提供する。入学定員も全学部で合計215名増加する。
グローバル人材を育成する新学部を設置構想中
24年度から「国際共創学部(仮称)」(入学定員120名)の設置を構想中。社会・経済を基盤とした幅広い知識と、社会課題の解決に向けた理論・手法の習得を目指し、充実した英語教育、原則全員参加の海外短期留学を計画。少人数演習、国内外での実践プログラムなどを通して、洞察力、共感力、構想力、実践力を持ったグローバル人材の育成を目指している。