環境や社会に配慮した経営に取り組み、それを自社の競争力強化、事業継続にもつなげていく。これからの時代に欠かせない視点だが、思うように実践できていない中小企業も多いに違いない。そうした中、頼れる味方として注目したいのが信用金庫およびその中央金融機関である信金中央金庫(信金中金)だ。その特徴とは──。中期経営計画「SCBストラテジー2022」においても、“地域社会の持続可能性”を重視する信金中金の柴田弘之理事長に聞いた。

全国の信用金庫が連携し、一つの金融グループとして力を発揮

「もともと信用金庫は会員の“相互扶助”を目的としています。地域の事業者や住民の出資によって設立されており、地域社会の利益が最優先。いわば地域の地域による地域のための金融機関、それが信用金庫です」

柴田弘之(しばた・ひろゆき)
信金中央金庫 理事長
1980年、慶應義塾大学法学部卒業後、全国信用金庫連合会(現信金中央金庫)入庫。総合企画部長、常務理事、専務理事などを歴任し、2016年に副理事長。18年より現職。

柴田理事長はそう説明する。北海道から沖縄まで全国に254金庫、その預金の合計は158兆円(2022年3月末現在)に上り、業界として確固たる存在感を有している。その中で信金中金は、個々の信用金庫の収益力向上や健全性確保に向けて経営をサポート。一方で機関投資家として、全国の信用金庫から預け入れられた資金を元に投融資を実施しており、ESG投融資にも注力している。

「さまざまな顔を持つ信金中金ですが、中でも重要な役割は信用金庫と共に地域の課題を解決すること。人口減少や少子高齢化などの構造的な問題に加え、コロナ禍が中小企業の経営に深刻な影響を与えており、地域経済は大きな岐路に立たされています。まさに今こそ私たちが力を発揮する時だと考えています」

SDGsの基本にある“誰一人取り残さない”。この考えは信用金庫業界の理念と符合する。信金中金の中期経営計画の副題には、「地域の未来を信用金庫とともに」と掲げられている。

「その実現に当たって、力を発揮するのが信用金庫と信金中金の持つ広範なネットワークです」と柴田理事長は言う。下図のとおり、個々の信用金庫は地域内で各所と緊密なネットワークを構築。他方、信金中金は行政機関や海外企業などともつながりを持っている。地域の中小企業は、これを課題解決の手段として活用できるわけだ。

「信金中金がハブとなり、各地の信用金庫のネットワークをつなげることにも力を入れています。例えば九州の企業が関東で販路を拡大したい。そうしたニーズにも対応可能です。地域密着の特徴を生かしながら、同時に全国の信用金庫が有機的に連携し、一つの金融機関のように動くこともできる。これは、私たちの大きな強みです」

ビジネスにおいて地域や業界の枠を超えたコラボレーションが重視される今、心強い支援体制といえる。

「脱炭素化」「DX促進」に向け中小企業を後押し

地域の課題の中でも環境問題は重要なテーマである。信金中金は独自のグリーン戦略「しんきんグリーンプロジェクト」を開始。信用金庫と共に、ファイナンス・コンサルティング・エコロカルの3本柱で環境問題に取り組む方針だ。具体的には、連携協定を締結した環境省に加え、専門機関等とも協力して「中小企業の脱炭素化」支援を加速させている。

「脱炭素化は今や中小企業にとっても見過ごせない課題です。対策の状況によってはサプライチェーンから排除される可能性もあり、事業の存続に直結する。そこで私たちは、中小企業が具体的な行動を起こせるようバックアップしています」

例えば、電気やガスの請求書を基にCO2排出量を可視化できるサービスの提供。外部機関と連携したこの取り組みは好評を得ているものの一つだ。

「脱炭素化といっても、ノウハウのない中小企業はどこから手を付けていいか分かりません。まずは自社の状況を把握していただき、それが対策を考えるきっかけになればと考えています。さらに自治体とも連携することで、地域が一体となって脱炭素化に取り組める体制を構築しています」

もう一つ、信金中金が現在力を注いでいるのが中小企業の「DX促進」だ。新たに事業者向けポータルサービス「ケイエール」の提供も開始する。

「“中小企業の経営、経営者にエールを”との思いを込めたサービスです。資金繰りの把握やバックオフィス業務の管理をはじめ多彩な機能を備え、インボイス制度にも対応しています」

DXの重要性を理解しながらも、中小企業がそれを思うように進められない理由には、やはり人材の不足がある。その点、「ケイエール」は直感的に理解、操作できるインターフェースを備え、ITの専門知識がなくても使いやすいのが特徴だ。

「ただ単にシステムを提供すればいいとは考えていません。信用金庫の対面でのコミュニケーションに組み合わせ、温かみのある支援を届けていきたい。なぜならシステムやツールの提供はあくまで手段。目的は地域の事業者、地域社会の持続可能性の向上だからです。信金中金は2030年までに『信用金庫が地域において最も信頼される金融機関となること』を目指しています。信用金庫が中小企業の本業支援などの非金融面の取り組みをこれまで以上に積極的に行えるようバックアップしていきます」

これまでも、支援内容や活動実態を知った企業から「そんなことまで手伝ってくれるのか」との声が上がることは少なくなかったという。多くの人が持つ信用金庫のイメージに留まらない支援の深さ、幅広さがあるということだ。

最後に柴田理事長は、ニューノーマルと呼ばれる時代の中で成長を目指す企業に向けて次のように語った。

「今後はポストコロナに向けて新たな問題も出てくるはずです。そんなときこそ、信用金庫、信金中金の存在を思い浮かべていただきたい。地域密着のきめ細かさや国内外のネットワークを活用し、全力でお手伝いいたします」