「先代が築いた人脈やノウハウを引き継ぎ、さらなる成長を実現できるか」。そんなプレッシャーの中にある後継ぎ経営者たちをサポートするツールとして、あるクラウドサービスが支持を集めている。サイボウズの「kintone(キントーン)」だ。自社の仕事内容に合わせ、業務アプリを簡単に作成できるこのシステムは、働き方をどう変えるのか。「kintone」の活用で変革を遂げた京屋染物店の4代目である蜂谷悠介代表とサイボウズの青野慶久代表が語り合った。
青野慶久(あおの・よしひさ)
サイボウズ株式会社
代表取締役社長
1971年生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月より現職。

【青野】蜂谷さんは1918年創業の老舗染物店の4代目。事業を引き継いだ当初、苦労はありましたか。

【蜂谷】先代の父親は、頭の中に全ての顧客情報が入っていて、電話の声を聞くだけでその人の好みや要望を思い起こせるような人でした。初めはそんな先代と比べられ、お客さまから「お前の代で店は終わりだ」と言われたこともありました。

【青野】つまり、膨大な情報をお父さまが頭の中で管理されていた。それを引き継ぐのは大変ですね。

【蜂谷】加えて、私の代になって染色だけでなく、営業からデザイン、縫製までを内製化する業務改革も行ったため、部門間の情報共有がうまくいかないという課題も生まれてしまい……。

【青野】例えば営業職と技術職の行き違いなどはよく見られます。対処が遅れると対立が深まってお互い疑心暗鬼になり、コミュニケーションが途絶えてしまう。

【蜂谷】まさにそんな感じでした。各部門が自分たちの仕事のことだけ考えて、余裕のあるスケジュールを確保しようとするから、本来受けられる注文を断らざるを得なくなったり。当然業績は下がり、財務状況は火の車。従業員からは「先が見えない」「もう付いていけない」という声も上がるようになりました。

【青野】実際、情報の共有や活用は多くの事業承継者に共通する課題でしょう。事業環境が刻々と変化する今、経営トップが全てを一人で差配できる時代ではなくなりました。組織全体で情報を共有し、皆が自由にアイデアを出せる環境が付加価値の創出には不可欠。私自身、そう感じます。

“思い”が込められてこそ情報は生きてくる

【蜂谷】状況を改善しようと高額の情報システムも導入しましたが、思うように機能しませんでした。仕様が固定され、現場の要望に合わせた調整が難しかったことなどが原因です。

蜂谷悠介(はちや・ゆうすけ)
株式会社京屋染物店
代表取締役
1977年生まれ。2004年、家族が営む京屋染物店(岩手県一関市)に入り、2010年に父親の後を継いで4代目に。1918(大正7)年創業の老舗をけん引し、新規事業開発にも力を注ぐ。

【青野】仕様変更のたびにシステム会社への依頼が必要で、都度時間とコストもかかるとなると確かに負担が大きい。業務系システムは、スモールスタートで社員を巻き込みながら利用範囲を広げていくのが導入のこつだと思います。

【蜂谷】うちの場合は失敗のパターンにはまってしまった。そんな折、目に留まったのが同じ東北地域の会社が使っていた「kintone」でした。

【青野】どの辺りが目に留まりましたか。

【蜂谷】まず、さまざまなパーツをドラッグ&ドロップして自分たちで業務アプリをつくれることに驚きました。試して気になるところがあれば、簡単にパーツの順番を入れ替えたり、追加したりできる。社内で「今までのシステムは何だったんだ」と話したのを覚えています。

【青野】ありがとうございます。柔軟性は「kintone」の一番の特徴で、まさにスモールスタートにも最適です。

【蜂谷】実は、導入に当たって一つ取り組んだことがありました。“なぜ情報共有するのか”“それによって何を目指すのか”。従業員との間で意義や目的を明確にしたんです。泥臭いやり方ですが、それぞれの気持ちや考えを書いた付箋をホワイトボードに貼って、話し合ったりもしました。前のシステムはデータ入力自体が目的化して、結局使われなくなってしまったので。

【青野】とても大事なお話ですね。情報はただ共有するだけでは役に立たない。そこに“思い”が込められてこそ生きてきます。「kintone」を使うのに特別なITの知識は不要で、クラウドサービスのため常に最新の機能を利用できる。最も必要なのは、何を実現するかという前向きな気持ちなんです。

【蜂谷】「子供に誇れる仕事をしたい」「給料を上げたい」「工程管理にはこんな情報がいる」──。そうした夢や希望、具体的な要望をオープンに語り合うことで、「kintone」の活用が全員にとって“自分ごと”になりました。これが、システムを全員で使いこなすに当たって大きかったと思っています。

主力商品の需要激減でもコロナ禍前より売り上げ増

【青野】社内では、「kintone」をどのように使われているんですか。

【蜂谷】例えば販売履歴や売り上げ情報はリアルタイムで管理され、「日次決算」が可能です。また、各部門の業務の進捗しんちょくもグラフで随時確認できる。それを見て、忙しい部門を他部門がフォローするようになりました。互いをプロとして尊重しながら、支え合う雰囲気が生まれています。

現場の職人も、タブレット端末で「kintone」を確認。情報共有の下で作業を進めていく。

【青野】生産性の向上に留まらず、皆さんの働き方や意識まで変化しているのがうれしいですね。あと私は、「kintone」活用のこつは、かしこまった数字やデータだけでなく、多種多様な情報を共有することだとお話ししています。

【蜂谷】分かります。私たちは、営業が受注に至った経緯やお客さまの声もどんどん上げるようにしています。それによって実現したのが、“感動”や“喜び”の見える化。これが「もっといい仕事を」という原動力になっています。結果、コロナ禍で主力商品の浴衣やはんてんの需要が激減しているにもかかわらず、現在の売上高はコロナ禍前を上回っています。

【青野】素晴らしい。前向きな組織であればあるほど、「kintone」は効果を発揮します。社長自身が扱ってもいいし、思いのある社員に任せてもいい。アプリを充実させれば、大企業で使っているようなシステムを中小企業でも使えます。一方で、情報の公開範囲などは細かく設定できるので安心してご利用いただけます。

【蜂谷】当社でも商品管理のバーコードリーダーと連携させるなど、現場の判断で活用範囲が着実に広がっています。また、セキュリティー対策もしっかりなされているので、大手企業とコラボするときなども問題がない。まさに、なくてはならないツールになっています。

【青野】サイボウズの理念は「チームワークあふれる社会を創る」こと。それを実践されている蜂谷さんのお話を聞いて元気をもらいました。また、“後継ぎ経営者こそがDXの鍵となる”こともよく分かりました。

【蜂谷】実は今、京屋染物店では全くの新規事業が進行中です。それができるのも、社員の創意工夫を生かせる組織になれたからに他なりません。今後も、伝統を守りながら新たな価値を生み出していきますので、ぜひご期待ください。

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