野村不動産が東日本旅客鉄道と共同で推進する国家戦略特別区域計画の特定事業「芝浦プロジェクト」が進行中だ。浜松町ビルディング(東芝ビルディング)を建て替え、東京湾に臨むツインタワー(S棟:2025年竣工予定、N棟:2030年度竣工予定)を建設。新たな働き方「TOKYO WORKation(トウキョウ ワーケーション)」を提案する同プロジェクトは、今、企業が抱えている経営課題にどう応えるのか──。野村不動産の四居淳氏と西川恭平氏に聞いた。
四居 淳(よつい・じゅん)
野村不動産株式会社
芝浦プロジェクト本部
芝浦プロジェクト企画部長

野村不動産が昨年末に実施した調査では、適度な出社をしている社員の方がやる気やエンゲージメントが高まるという結果が出ている。別の調査では、パフォーマンスが高い層ほど仕事の目的に即した多数のワークプレイスを持っていることも明らかになった。“働く場所”をいかに構築するかは、まさに生産性や競争力に直結する重要な経営課題なのである。

「一方で、最近は『リモート化が進み、効率的に働けるようになった』という声をよく耳にします。確かにそのとおりですが、この状態が今後も継続するのか、少し落ち着いて考える必要があると感じます」と野村不動産の四居氏は言う。

「テレワークがスムーズにできているのは、これまでオフィスで築いてきた信頼関係という資産があるから。新しいメンバーが加わり、その資産が減少していけば状況は変わる可能性があるでしょう」

オフィス移転の理由にも、その時々の企業の問題意識はよく表れる。

「かつては業績拡大による社員増加などが大半でしたが、東日本大震災を経てBCP対策を重視する企業が増加。コロナ禍以降は働き方の多様化の推進、コミュニケーション強化、ESGやSDGs対応といった理由が顕著になっています」

そう同社の西川氏は説明する。

オフィスに人が集う「価値」を追求

オフィスの在り方を再定義する機運が高まる中、「芝浦プロジェクト」はいかなる解決策を提示するのか。7年ほど前、コンセプトづくりを開始した当初、現地の芝浦で眼前に広がる海と空を見て、四居氏の心にまず浮かんだのは、「都心でこれだけ自然を身近に感じられる場所は極めてまれである」ということだ。

「『東京』と『自然』はある種対極にあるものですが、ここなら両者を融合し、利便性の高い東京で、自然と調和した人と社会のウェルビーイングを実現できると考えました」(四居氏)

そうした特長を生かしたものの一つが、オフィスフロアからも目にすることができる圧巻のパノラマだ。

「視界いっぱいに広がる海と空を眺めていると、おのずと未来や世界に意識が向きます。開放感を最大限に生かすため天井を高く取り、柱のスパンも通常の倍以上の18m確保しました」(西川氏)

快適な環境で働き気持ちが上向けば、モチベーションが高まり、インスピレーションも刺激される。対話も促進され、それがクリエーションやイノベーションにもつながる。これが「芝浦プロジェクト」の追求する働く場所の形である。

「今、オフィスにどんな価値があるのか。例えば目の前の相手の反応を五感で感じ取り、互いに共鳴し合いながら仕事の質を高めていくことは、人が同じ場所にいてこそ可能になります。そうしたことを徹底的に見つめ直しました」(四居氏)

オフィス、商業施設、ラグジュアリーホテルやレジデンスが入居するツインタワーは、徒歩5分の浜松町駅と緑あふれる歩道でつながる。敷地内の緑も豊富で、随所に休憩スペースも配置される予定だ。

「オフィスフロア以外にも、各種施設や共有エリアなど、用途に応じて多様な仕事の場を選択できます」と西川氏。ビジネスの中枢である東京に拠点を置きながら、自然の恵みを享受し、自分に合ったスタイルで働ける。これこそが同社が提案する「TOKYO WORKation」である。

海と空に臨み、緑に囲まれた「芝浦プロジェクト」のツインタワー。都心の水辺という独自の立地を生かし、建物とつながる運河沿いには開放的なテラスや船着き場などの親水空間も設置する計画。S棟には欧州最大手のホテルグループ・アコーによるラグジュアリーホテル「フェアモント東京」も開業予定だ。(画像は完成予想パース)

未来にポジティブなインパクトを与える

「芝浦プロジェクト」は人と社会のウェルビーイングの実現に向け、レジリエンスの強化、自然や地域との共生にも力を注いでいる。

「二つのタワーは建物全体を制震構造とし、免震装置も導入。水害に備えて重要電気設備を地下ではなく4階以上に設置し、電力途絶時も約10日間給電と換気・空調供給を行うなど、BCP対策には自信があります」(西川氏)

西川恭平(にしかわ・きょうへい)
野村不動産株式会社
都市開発第一事業本部 兼
芝浦プロジェクト本部
ビルディング営業部
営業二課長

さらに多数の最新技術を生かして最大限の省エネルギー化を進め、それでも必要な電力は再生可能エネルギーやカーボンニュートラル都市ガスで賄い、街区全体の総CO2排出量実質ゼロを目指している。

四居氏は「ここで働く人が、単に省エネオフィスに勤めているというだけでなく、未来に対してポジティブなインパクトを与える一員であることを実感できる。そんな場にしたい」と言う。

「芝浦プロジェクト」では、その他にも空間の快適性や機能性の向上、また環境負荷の低減に向け、これまでにない工夫が数多くなされている。ただし、「新しいこと」それ自体が目的ではないと西川氏は強調する。

「当社はこれまでも、愚直とも言える姿勢で、住まいやビルの建築、そして街づくりに取り組んできました。今回のプロジェクトでも、焦点を当てているのは『人』に他なりません。この場所で、人と社会に寄り添い、より良い未来の実現を目指した結果が『新しさ』として表れたと考えています」

四居氏も次のように続ける。

「特に働く場所としては、誰もがストレスなく、その人らしく活動、思考できる空間を提供することで、個人の、また組織の可能性を引き出したい。これが私たちの思いです。また、今まで都会では難しいと諦めていた働き方を東京でも実現できる。『TOKYO WORKation』には、そうした意味合いも込めています」

繰り返しになるが、今、働く場所の整備は重大な経営課題。確かな解決策を見いだせるかどうかは、企業の持続可能性にも影響する。そうした中、都心における新たなワークスタイルを提案する「芝浦プロジェクト」は、社員のパフォーマンスを高めたいと考える企業にとって注目の事業となりそうだ。