2019年から4年連続で「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されている日清食品ホールディングス。グループの従業員約1万2000人に対する社内認知向上と健康診断結果のデータベース化から始まった「健康経営」は、どのようにして実を結んだのか――。同社の取り組みについて、健康経営推進室室長を務める三浦康久氏に、健康管理システム「Carely(ケアリィ)」を開発・提供するiCAREの山田洋太代表取締役CEOが話を聞いた。

戦略的な健康経営の3つの課題

【山田】日清食品ホールディングスは2018年8月に「日清食品グループ健康経営宣言」を策定し、健康経営をスタートしています。健康経営を戦略的に推進するうえで、当時はどのようなことが課題になっていたのでしょうか。

【三浦】まず1つ目は短期的な課題として、「健康経営の社内認知向上」から始める必要がありました。当時は従業員の多くが「健康経営」という言葉自体を知らなかったんです。ですから、健康経営や取り組みのスタンスについて当社グループの従業員約1万2000人に理解してもらわなければなりませんでした。健康施策への参加者が本社偏重にならないようにするという目的もありました。

2つ目は中期的な課題として、「明確なKPI(重要業績評価指標)の設定」です。最初は健康診断結果のデータがありますから簡単だと思っていたのですが、ストレスやモチベーション、生産性などに関してどのようにKPIを設定するかに苦労しました。

最後は「経営への貢献」です。健康経営が企業利益の向上にどうつながるかを経営層に説明する難しさがありました。この点については結果検証に時間を要するため、中長期の課題と位置づけています。

三浦康久(みうら・やすひさ)
日清食品ホールディングス株式会社
健康経営推進室 室長
1993年3月神戸大学法学部を卒業後、製薬メーカーに入社し人事部配属、2001年3月に日清食品に入社。 2001年3月~2019年9月まで人事部、2019年4月~健康経営を担当。大半のキャリアを人事領域に従事し、国内外の人事領域全般を担当。2021年4月より現職。

【山田】まさに、その3つが健康経営を始めるうえで重要なポイントになりますね。これらの課題解決には、まずトップのコミットメントとデータベース化が必要では?

【三浦】そうですね。日清食品グループでは、創業者の安藤百福が掲げた「美健賢食」(美しく健康な体は賢い食生活から)の精神に基づき、「従業員も健康であるべき」という企業文化が根づいていますから、健康経営に対してトップの強いコミットメントがありました。また当時、従業員の健康診断結果は紙ベースで管理していましたから、ご指摘のようにデータベース化は不可欠でした。

「Carely」を導入して健康施策のPDCAサイクルを回す

【山田】従業員の健康情報のデータベース化に当社の健康管理システム「Carely(ケアリィ)」を導入していただいています。その目的と選んでいただいた理由を教えてください。

【三浦】最大の目的は、健康施策のPDCAサイクルを回していくことです。導入の決め手になったのは、導入までの移行期間がとても短かったこと。我々は基本的に3分しか待てない社風なので(笑)。また、産業保健業務向けという明快なコンセプトや、画面を見ていると何となく使い方がわかるインターフェース、従業員がスマートフォンからログインして自分の健康診断結果を確認できる点も魅力でした。

【山田】実際、「Carely」を導入してどのような効果がありましたか。

【三浦】お陰様で、PDCAサイクルを回すことが可能になりました。例えば、メタボやメタボ予備軍がどの部門・年齢層・性別で多いのかを把握し、働きかける対象を特定したり施策の効果検証をしたりすることができます。さらに、データドリブンな保健指導が行えるようになり、業務の効率化が進みました。

【山田】おっしゃるように「Carely」のメリットの一つは、従業員の健康に関わるデータをクラウドで一元化できることです。それによって人事・労務、産業医・保健師の業務効率化が図られ、空いた時間を本来やるべき健康づくりの活動に充てることができるようになります。さらに、データ分析によって組織課題を把握した上で健康施策をタイミングよく実施できます。現在、人事情報が蓄積されるタレントマネジメントや労務管理ツールとの連携を進めています。

当社では、産業医や保健師、臨床心理士による健康づくりの施策立案・実行のサポートも行っています。このように健康管理システムと専門家による支援の2つを提供しているのが「Carely」の特徴です。

【三浦】さまざまな人事データとの連携が可能になるのはありがたいですね。

山田洋太(やまだ・ようた)
株式会社iCARE
代表取締役CEO
金沢大学医学部医学科卒業。沖縄県立中部病院研修を経て、2008年離島医療(沖縄県久米島)に従事。医療の現実を目の当たりにして、人々が健康に生きるための仕組みづくりをしようと経営を志す。2012年慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。在学中に株式会社iCAREを創業。同時に経営企画室室長として病院再建に携わり、病院の黒字化に成功。産業医としても活躍中。

従業員の87%が「会社の健康支援に満足」と回答

【山田】健康経営は5年目を迎えていますが、最近の主な取り組みについて教えてください。

【三浦】3つあります。1つ目は「従業員の健康向上」です。まず、2020年秋から従業員のプレゼンティーイズム(疾病などによって生産性が上がらない状態)を部門・年代別に測定・分析し、一人ひとりに測定結果をフィードバックしています。また、2020年度の健康診断結果から在宅勤務者にコロナ太りの傾向が見られたため、運動系アプリ「BeatFit(ビートフィット)」を導入し、国内だけでなく、海外の従業員も利用しています。

さらに、全拠点の産業医と保健師をほぼ倍増し、保健指導の体制を強化しました。個人情報保護法に基づいた健康管理がしっかりと行えるように、独自の「健康情報等取扱規程」も定めました。個人情報の取り扱いに慎重な企業が多いのですが、個人情報保護法第1条には個人情報の適正かつ効果的な活用が「新たな産業の創出や活力ある経済社会の実現に資するもの」と書いてあります。ですから、当社ではコンプライアンスをしっかり守りながら個人情報の活用もしていくというスタンスで臨んでいます。

新型コロナワクチンの職域接種では、従業員約1万2000人のうち、約8000人が受けました。早期に実施出来たということも相まって、年1回実施している従業員の意識調査で2021年度は87%が「会社の健康支援に満足」と回答しています。

【山田】それはすごいですね。継続的な取り組みが求められる健康経営では、組織的な健康施策に対して従業員の方々がどう感じたのかということが何よりも重要です。

【三浦】ありがとうございます。私も調査結果を見てモチベーションが上がりました。

「テレワークうつの予防」にいち早く着手

【三浦】2つ目は「コロナ禍のストレス予防」です。2020年8月にウィズコロナ時代の健康経営活動として「テレワークうつ 予防チーム」を社内に発足させました。自律神経機能の偏差値とバランスを「疲労ストレス計 MF100(村田製作所製)」で計測し、テレワークでストレスを抱える従業員を自覚の有無にかかわらず確認する試みを行いました。注意が必要な従業員に対しては、自律神経に関連する書籍の配布や保健師から働きかける“おしかけオンライン面談”などを実施しています。

3つ目は「健康基軸DXの推進」。「Carely」をはじめ、健康セミナー動画や医師とのオンライン面談など、ヘルスケアテックの活用をよりいっそう推進しています。

【山田】今必要とされる施策と計画的な施策がバランスよく行われていますね。「テレワークうつ 予防チーム」の取り組みはメディアに取り上げられ、企業価値を向上させる効果が得られたと伺っています。もともと御社は宣伝・広報が上手な社風がありますが、これは戦略的な取り組みでしょうか。

【三浦】正直に申し上げると、初めから作戦通りというわけではありません。健康施策をホームページで紹介し、それが時宜を得ていたのか、結果としてメディアに続々と取り上げられたという感じです。

【山田】とすると、積極的に情報発信していくべきですね。若い世代を中心に「従業員の健康にもっと配慮してほしい」というニーズが高まっていますから、採用活動にもプラスになるでしょう。健康に投資している姿勢を見せていくことも大切です。

iCAREが提供する健康管理システム「Carely(ケアリィ)」。健康診断やストレスチェックなどの健康情報管理や産業医との面談候補者の自動判定など、企業の従業員の健康に関わる業務をクラウド上で一元管理する。蓄積された健康データに基づいた、健康経営コンサルティングや相談窓口の設置などの専門職サポートも備える。

「Well-Being」の実現を目指して健康施策に取り組む

【山田】最後に、今後の方針について教えてください。

【三浦】健康経営推進の先には、従業員の「Well-Being(ウェルビーイング):心身ともに健康で幸福な状態にあること」の実現があると考えています。そのため、従業員一人ひとりが主観的に「身体的、精神的に良好!」と感じられるように健康施策に取り組んでいきたいと思います。今後、「Carely」などを活用してWell-Beingの進捗しんちょく状況を分析したレポートを作成し、社内外に発信していく予定です。

【山田】さまざまな健康施策に地道に取り組んでいく先に、従業員一人ひとりのWell-Beingの実現があるわけですね。当社も「Carely」を軸に、そうした道のりをドライブさせる支援を続けていきたいと思います。