どのようなケースで等価交換マンションを検討すべきか
等価交換マンションとはどのようなものか。「土地は所有者様にご提供いただき、デベロッパーがマンションの建設費用を負担します。お互いの出資比率に応じて区分所有する方法です」とマンション建替え研究所副所長の大木祐悟氏は説明する。土地所有者が建設費用を用意する必要のないところが特徴だ。
仮に土地と建物の出資比率が3対7で、完成後のマンションの戸数が10戸だとしたら、土地所有者が3戸、デベロッパーが7戸を受け取る。土地所有者は3戸のうちの1戸に住み、残りの2戸を賃貸に回したり、売却したりもできる。
出資分ぴったりの部屋をつくれなければ、「例えば1億円の出資で9500万円分の部屋を取得し、500万円は現金で受け取る、あるいは500万円追加して1億500万円の部屋を取得するといった調整をすることも可能です」と大木氏は言う。
では、実際にどのような状況に等価交換マンションが向くのか。大木氏は主に5つのタイプが考えられると言う。
①土地がある程度広い
②共有者間等で考え方が違う
③複雑な権利関係がある
④抵当権の処理を考えている
⑤都心の住宅密集地に土地がある
①は自分で建物を建てようとすると必要資金が高額になる。「例えば300坪の土地としましょう。上限の容積率400%で1200坪のマンションになります。この規模だと資金調達が10億円を超えることもあり、個人での借り入れが大きな負担となります」(大木氏)
②は共有者間等で土地の維持と売却に分かれるようなケースだ。「兄弟ならまだしも従弟同士の分割ともなると余計に意見は割れやすいものです。土地を何分割かしてしまったら、建築制限上、家が建たなくなる恐れもあります」(同)
③は一人あるいは複数人の借地人がいる場合。土地所有者が受け取る地代収入はさほど多くはなく、土地を借りている人たちは家が古くなっても十分な建て替え資金を持たない。そんなケースだ。「借地人の権利分をマンションの区分所有で分配すれば、土地所有者も借地人も納得できます」(同)
④は金融機関から事業資金を借りたときに抵当権が付いた場合などだ。抵当権を外さないと土地の活用は難しい。「仮に3億円の評価の土地をお持ちで、抵当権を外すのに1億円が必要とします。3億円のうち2億円分はマンションの持ち分とし、1億円は現金化して抵当権抹消に使えばいいのです」(同)
⑤は都心の古い木造住宅密集地で10坪、15坪の土地を持っているようなケースだ。個々で建て替えると窮屈な家になってしまう。10軒、20軒を一緒にし、150坪、200坪の敷地にするものだ。「建物を効率的にレイアウトできるので、古い家よりも部屋が広くなる可能性が高い」(同)
等価交換マンションは、さまざまな土地の悩みに有効な手法であるようだ。ここで都心部でありがちな状況を土地の共同化で解決したケースを紹介しよう。
80坪のA家の奥にB家の250坪の土地がある(下図参照)。B家に相続が発生し、複数人が相続人となった。旗竿地のため分割が困難で、相続人たちは頭を抱えていた。そこへA家から等価交換マンションにしないかとの誘いがあり、B家は渡りに船で応諾した。A家とB家の敷地を共同化して等価交換マンションを建て、B家の相続人たちは区分所有の形で相続を受けることができた。
単独では土地を生かしきれず、隣近所と協力することにより土地のポテンシャルを最大限に引き出したケースだ。ここにも等価交換マンション事業の真価がある。
こんな事例は身近にありませんか?
都市部でよく見かける旗竿地。Aの土地所有者が、Bの土地所有者に「共同化」による等価交換マンションの建設を持ちかけたところ、Bの土地所有者も大喜び。Bの土地は親から相続をした3人の子の共有地となっており、さらにその子世代への相続について頭を悩ませていたという。結果、Aは土地を売却し、Bは出資に応じたマンションを区分所有した。
築地の奇跡。全員納得の等価交換マンション完成!
同社の等価交換マンション事業は、単に土地を集約し、そこにマンションを建てるだけではない。土地建物に対する一人一人の困り事を聞きながら、土地建物所有者全員が幸せになれる最適解を探る手法ともいえるのだ。
その好例が「アトラス築地」だ。2021年11月に完成した総戸数161戸、店舗6戸の物件である。どのような問題を解決したのか、開発営業本部・営業推進部・営業推進室長の籾井伸之氏に説明してもらおう。
「関東大震災後に建てられた長屋が密集していました。土地建物の所有者は38名もいます。単独で土地活用するにも狭小で、域内には車両が通行できない私道があり、火災の延焼や家屋の倒壊の危険もありました」と籾井氏は振り返る。
敷地を一体化するには、まず複雑な共有・底地・借地の権利関係を整理する必要があった。次に、私道をなくすために権利者全員の同意を得る必要があった。しかも私道は土地建物所有者全員の共同所有で、相続・売買時の登記漏れがあったため権利者だけで100人以上いたのである。そしてテナントの代替店舗の確保といった商業地ならではの課題も存在していた。
アトラス築地
旭化成不動産レジデンスが手掛けた等価交換マンションの事例。複雑な権利関係の調整に成功し、多くの狭小地、共有・底地・借地を整理し、大規模なマンションへと生まれ変わった。ジャパン・レジリエンス・アワードも受賞するなど、新たな不動産の価値創造の一例。
等価交換マンションを建てるには土地建物所有者全員の合意が必要だ。アトラス築地は、途方もない高いハードルを乗り越える必要があったわけだ。「私たちは最初から建て替えありきの話はしないのです。まず、土地や住まいに対する皆さんの身の上話や困り事を一つ一つ聞いて回りました。その上で建て替えすることが皆さんの課題解決になっているかを一緒に考えていきます」(籾井氏)
土地建物所有者に対して、まず人間的な関係を築き、多様な視点からアドバイスできる経験値に同社の強みがある。完成したマンションのうち36戸には、土地建物所有者が入居した。関係者の満足を表す結果といえるだろう。さらにアトラス築地は、次世代に向けた強靭な社会づくりの取り組みを表彰する「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靱化大賞)」で最優秀賞にも輝いたのだ。
都心部には土地の広さや形状、置かれた環境などで、単独では活用しきれていない土地が多数存在する。それを一体化することにより快適な住まいを実現できる可能性は高い。等価交換マンションは、新たな土地の価値を創出する妙手。一考の価値があるといえるだろう。