真に豊かな社会と文明の創造に向けて、研究助成や地球環境国際賞「ブループラネット賞」による顕彰を行う旭硝子財団。環境フォト・コンテストへの参加も、その重要な手段の一つであると位置付ける。顕彰事業部長の田沼敏弘さんに話を聞いた。

かけがえのない自然環境を見つめ直すきっかけに

——環境フォト・コンテスト参加を、どのような取り組みとして位置付けていますか。

公益財団法人旭硝子財団 顕彰事業部長 理学博士 田沼敏弘さん

【田沼】旭硝子財団では、地球環境問題の解決に向けた研究や活動をした人、団体に贈られる「ブループラネット賞」による顕彰活動、次世代を切り拓く研究活動への助成、若手人材への奨学助成などを通じて、人類が真の豊かさを享受できる社会および文明の創造に寄与すべく活動を続けています。「環境フォト・コンテスト」の協賛もその一環です。コンテストに応募するための題材を探したり、他者の応募作品を見たりすることで、身の周りにある自然環境の美しさや大切さを再認識するきっかけになればと考えました。

募集テーマ「自然の中にある幸福」は、環境科学者・地理学者で、ブループラネット賞も受賞したエリック・ランバン氏の「美しい自然に接すると、私たちは家に帰ったような幸福感を得ることができる」という言葉に着想を得て決定したものです。この「自然」とは必ずしも森林や山中といった大自然ばかりではありません。都会の生活の中にある小さな自然にも、季節の訪れなどを感じることができます。雄大なものから身近な気づきまで、「皆さんが感じた自然」における幸せを表現してもらえればと思っています。

——応募作品の手応えはいかがでしょうか。

【田沼】私たちが願ったとおり、自然を身近なものとして捉えてくれている多くの方がいることを実感しました。優秀賞「メルヘンの世界へ」は、小枝を握りしめ、水面の先にある自然の世界を探ろうと、湖面をのぞき込む子供たちの姿を捉えた作品。真剣な眼差しの子供たちの様子から、何が隠れているのかというワクワクした気持ちまでが想像できます。自分の幼き日も重ね合わせて思い出され、こちらまで幸せな気持ちになりました。また、ホタルの群舞に静かに見入る親子の姿を収めた「清流川に舞う」、自然がくれた小さな宝物に気づいた女の子の笑顔を捉えた「天然ブローチ」も、それぞれ独自の視点で幸せの瞬間を切り取っていました。

2022年優秀賞「メルヘンの世界へ」間部碩敏さん
2022年佳作1「清流川に舞う」臼井和雄さん
2022年佳作2「天然ブローチ」石川優子さん

顕彰活動や研究助成、情報発信などで真の豊かさの実現へ

——「ブループラネット賞」について教えてください。

【田沼】当財団では、人類が解決を求められているグローバルな諸問題の中でも、地球環境の保全・修復が最も重要な課題の一つであると考えています。その実現に寄与すべく、1992年に創設したのがブループラネット賞です。科学技術分野での大きな業績、新しい理念の提唱、環境保全活動などを通して、地球環境問題解決の進展に著しく貢献した個人または組織の業績をたたえ、広く発信しています。

歴代の受賞者の業績をご覧いただくと、表彰の主眼は、科学の視点を基盤としながら、「社会への警告、政策の提言」から「解決に向けた行動」へ移行してきており、ブループラネット賞が今日のサステナビリティの概念や環境科学の形成に寄与してきたことがうかがわれます。

この6月に発表した本年度の受賞者のお一人は、誰もが一度は聞いたことのある理念を生んだ方です。当財団のサイトでは、受賞者の業績などを分かりやすく紹介していますので、ぜひ一度ご覧いただければと思います。

トロフィーに刻まれたブループラネット賞シンボルマーク

そのほか、次世代社会の基盤を構築するような自然科学系の研究や、社会の重要課題の解決に指針を与えるような人文・社会科学系の研究に対する助成、助成先の取り組みや最新情報などをお伝えする手段として、一般向けのウェブマガジン「af Magazine」を発行しています。また、環境問題に関わる世界の有識者が人類存続に対して抱く危機感を時計の針で表示する「環境危機時計®」の発表なども毎年実施しています。

——社会状況が大きく変わる中、活動内容などに変化はありましたか。

【田沼】コロナ禍の影響下にあった数年間は、従来行っていたCOPや国際会議への参加、海外の環境関連のイベントなどへの出展が難しく、ブループラネット賞の関連行事も中止したため、表彰式典と講演会に代わるものとして特設サイトを作成し、公開しました。経済社会活動の平常化への期待が高まる今年、当財団でも8月のブループラネット賞創設30周年の記念シンポジウムなど、対面での催しを企画しています。

コロナ禍での経験を通して人々の意識も大きく変わりました。ポストコロナにおける、環境問題を含めたさまざまな社会問題に対処するための新たな指針とその解決策が必要になるでしょう。そこで重要なのが、実際に行動を起こすための一人一人の意識です。当財団では今後も顕彰と研究助成を通じ、より良い時代を築いていく一助になりたいと考えています。「環境フォト・コンテスト2023」の応募作品(応募締め切りは2022年8月12日)についても、ポストコロナの時代が始まろうとしている今、新しい視点から「自然の中にある幸福」を捉えた多くの作品の応募を期待しています。