いずれにしても、何の推進力もなく自然発生的にコンセンサスが形成されるとすれば、それはレアケースでしょう。したがって、個々の企業が抱えていた問題意識を積極的に外部に発信することで、互いに呼応し合うきっかけが生じます。発信といっても、行政をはじめ他者に解決を求めるだけの働きかけでは、なかなか十分な推進力を生み出しません。「社内の問題も地域全体の問題も、自分がまとめて解決してやろう」というくらい意識の高い企業経営者が奮起した結果、成功した事例が多いのです。地域に対する「思い」は皆同じですから、それを引き出す起爆剤が必要で、各プレーヤーが当事者として行動することができて、初めて地域経済活性化への道筋が見えてくると思います。

地域経済の活性化へ向けてさまざまなプレーヤーが存在するなかで、「企業こそメインエンジン」と海上氏はいう。自治体がコンセンサス形成のきっかけを与えるケースにしても、ヒトを雇い、モノを生み出し、カネを呼び込むのは企業にほかならないからだ。

大学や産業技術研究所などは、研究機能や技術・ノウハウ提供の面で企画や事業化のプロセスをサポートする立場。自治体は、コンセンサスのきっかけづくりや、その後の企業間連携などを促す場を提供することが重要な役割だ。例えば地域活性化をテーマにフォーラムを開催したり、新たなビジネスの創出に向けた連絡協議会を設置し、企業の参加を募ることなどが考えられる。また、地域における連携の事務局機能を担うこともできるだろう。

自治体によるコーディネートでつながりをもった企業同士が、事業協同組合やNPO法人など、より主体的な組織をつくりあげていくケースもあるという。

──地域でコンセンサスが形成された後、現状を打開するようなビジネスを創出・運営するにあたり、成功への良策というのはあるでしょうか。

海上 ポテンシャルが高い地元の資源があるなら、これを活用しない手はありません。ですから「地域資源の有用性への気づき」は重要です。しかし、せっかく価値ある地域資源に囲まれていても、その存在に慣れてしまって、地元ではその価値に気づかない、または、従来の活用法から脱皮できてないことがよくあります。そのため、「地域資源に固定観念をもっていないプレーヤーの存在」が望まれます。異分野から来た人材、いわば“門外漢”が地域資源の意外な価値を見いだし、地域産業のイノベーションをもたらした例もあります。

地域内のネットワークを活かして新たな事業に取り組む場合なら、企業同士の「補完関係の構築」を重視すべきです。例えば、新発想の新製品であればあるほど、既存の流通ルートでは対象市場にアクセスできないことが多くあります。それに適した販売チャネルをもつメンバーを探索することがカギになります。特に遠隔地の市場開拓も可能になるよう、離れた地域にもマーケティングや販売の機能を担う連携先をもつのがベターだと思います。

もう一つ、「連携企業間のルールづくり」は不可欠です。実際に、地域を挙げた新規事業自体は順調に成長したのに、連携体内部の成熟度が成長に追いつかず、不祥事が発生して崩壊した事例もあります。なかでも重要なのは、利益とリスクの配分ルールでしょう。利益はどこに由来し、負荷とリスクに応じてどのようなかたちでどこに帰属させるべきか。例えば、そういった取り決めを早い段階で行っておくべきでしょう。