特別レポート
企業と地域が取り組む社会課題解決の最前線
ワーケーションやSDGsへの取り組みとして実施
環境や社会の持続可能性に配慮することで、自社の持続可能性も高めていく──。サステナビリティ経営の視点は、今や企業にとって欠かせないものとなっている。そうした中、多くの企業から注目を集めている取り組みがある。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」を構成する「熊野古道」や「高野参詣道」の修復を行う、和歌山県の「道普請」だ。
和歌山県世界遺産センターの山西毅治所長は次のように説明する。
「この地域は雨や台風が多く、道から土が流れ出てしまうため、継続的な保全が欠かせません。専門的な技術が必要な文化財や建物などとは異なり、道の修復であれば一般の人でも行うことができる。そこで企業や団体にCSR活動などとしてご協力いただけないかと、2009年に『道普請』の取り組みを要請し始めたのです」
自らの手で世界遺産の保全ができる、日本でもここでしかできない貴重な活動の意義が高く評価され、これまでの参加数は延べ約550団体、およそ3万4000人に及んでいる。SDGsへの対応を経営の重要課題に掲げる企業が増えている近年は、関心度もさらに上昇。ワーケーションなどに絡めた実施も少なくないという。
「和歌山県の空の玄関口である白浜は、美しい景観や空港からの好アクセスが支持され、多数の企業がワーケーションの拠点を置いています。この白浜での業務や研修に併せて、『道普請』に参加されるケースも多いですね」
活動自体の意義に加え、さまざまな効果を実感できるのも人気の理由だ。
「企業のご担当者様からは、普段、直接コミュニケーションを取る機会のない部署のスタッフ同士が協力して作業を行うことで、組織の一体感が高まったというお話をよく頂きます」
さらに、「自然の中での体を使った軽作業は程よいリフレッシュになる」「きれいに修復された道を見ると達成感がある」など、参加者からは前向きな感想が多く、ほぼ100%の企業がリピートで参加しているとのことだ。コロナ禍に際してはガイドラインを作成し、人数制限などの条件を設けて対応。安全に配慮した屋外での作業として、活動を継続している。
活動内容はシンプル。誰もが取り組みやすい
熊野古道が位置する紀伊半島や和歌山県は、世界的旅行ガイド「ロンリープラネット」の「訪れるべき世界の10地域」や「読者が選ぶサステナビリティに配慮した観光地」に選出されるなど海外での評価も高い。
「森、山、滝などの豊かな自然と、それらを神とし畏れ敬う精神と信仰が一体となっている。そんな『紀伊山地の霊場と参詣道』は、他に例のない世界遺産です。海外から評価されているのも、そうした独自のストーリーが一因だと考えています。中でも参詣道は、信仰への思いやさまざまな物資を運ぶ道として、千何百年もの間、人々に大切に守られてきた。まさにそれ自体が“持続可能性”を体現している場所だといえます」
自然あふれる地で、持続可能性の本質を体感できる──。これこそ、「道普請」の最大の魅力だろう。一方で、活動の内容はとてもシンプル。誰もが取り組みやすいものとなっている。
「土を修復場所まで袋に入れて運び、まいて、専用の道具でならし固める。難しくない作業ですから、お子さんから大人まで誰でも参加できます。参加費用は土代だけで、煩雑な手続きも不要。希望の日程や人数を伝えてもらえれば、適切な作業内容などをご提案します。また、道具もこちらで手配するので、実施に当たって特別な準備は必要ありません」
世界遺産としての価値を後世に残していくには、バックボーンとなる自然も含めた“観光地としての品質管理”を意識する必要があると山西氏は言う。
「保全活動を継続するには、多数の方に来ていただき、評価に見合う魅力を提供して、さらに多くの人に訪れていただく。そうした好循環を生み出す必要があります。観光地としては、『道普請』にとどまらず、例えばITに代表される新しい技術を導入、活用するなど、さまざまなノウハウを持つ企業と協力しながら、新たな魅力を加えていくことも大切だと考えています」
熊野古道の“持続可能性”を高めるには、企業とのコラボレーションが欠かせないというわけだ。
『道普請』については、「社会貢献と堅く考えず、世界遺産に直接触れてみたい。まずはそうした気持ちで気軽に参加されるのがお勧めです。そうすればきっと、豊かな自然の中でそれぞれに効果やメリットを感じていただけると思っています」
空路、陸路で、東京・大阪から好アクセスの和歌山県
「道普請」参加企業からの声
[富士通]持続可能性とは何か──より深く考えられるように
2017年度より西日本の営業部が参加を続けており、2021年度は東京の社員も含めたワーケーションプログラムの一環として実施しました。「道普請」は歴史・文化や自然との共生を体感できる貴重な機会です。木々の茂る参詣道の空気を満喫し、参加メンバーからはもっと作業をしたいという感想も多く寄せられました。実際の修復作業を通じ、持続可能性とは何か、そうした社会を実現するには何が大事かをより深く考えられるようになったと感じています。
[日本道路]“道づくりの原点”への参加が従業員の満足度向上にも貢献
地域の方が代々守り続けてきた道を後世に引き継ぐ、“道づくりの原点”ともいえる活動に、道づくりのプロとして何か役立てることがあるのではないかと考えて参加しました。自然の中での作業は心地よく、道路という社会インフラの意義を改めて考える機会にもなりました。ぜひまた参加したいという意見が多く、世界遺産の修復という貴重な社会貢献に参加しながら、自身も楽しく学べる活動へ取り組んでいることが、従業員の満足度向上にも結び付いています。