「量」から「質」への転換で新たな事業モデルを構築
「持続可能な社会の実現に向けてビジネス環境が大きく変わり、サステナブル投資への関心も高まる中、証券会社にも量から質への転換が求められています。そこで今中期経営計画では、目指す姿を『MUFGの中核として業界No.1のクオリティを有し、顧客満足度No.1の証券会社』と設定。実現への道筋として、ESG経営の推進を通じて全てのステークホルダーとの強固な『信頼』を築き、エンゲージメントを深耕することを掲げました」
小林副社長はこう説明する。MUFGが持つ日本最大級の顧客基盤や多様な金融商品・サービスを幅広く網羅するグループの総合力、またモルガン・スタンレーのグローバルネットワークや高度な商品力・提案力を生かして力を注ぐウェルスマネジメント部門で、担当者の販売目標を撤廃したのも「量から質」への転換の表れだ。
「売買の手数料ではなく、お客さまにより良いポートフォリオを提供することを目指すアドバイザリー型のビジネスを通して、常にお客さまに寄り添う。これは業界でも大きな事業モデルの転換だと考えています」(小林氏)
脱炭素の分野でも意欲的な目標を掲げ、体制強化を進めている。
「MUFGでは昨年5月に『MUFGカーボンニュートラル宣言』を公表し、2050年までの投融資ポートフォリオの温室効果ガス排出量ネットゼロ、30年までの自社の温室効果ガス排出量ネットゼロを目指しています。加えて、19年~30年のサステナブルファイナンス目標累計額を35兆円と従前の20兆円から大幅に上方修正しました。当社はMUFGの中核総合証券会社としてこれに貢献する所存です」(小林氏)
同社はグリーンボンドの引受けで、本邦随一の実績を挙げている(※)。
「『世界が進むチカラになる。』をパーパスに掲げるMUFGの一員として、ステークホルダーが持続可能な未来に向けて課題を乗り越えていく力になりたい。中期経営計画のスローガン『Challenge For Better Tomorrow』にはそうした思いも込めています」(小林氏)
社員との対話の機会をつくり同社の理念の浸透と「自分ごと化」を進める一方、「より良い明日」の実現にはそれを担う社員の「幸せ」も不可欠だとして、タウンホールミーティングなどでの対話を通じたエンゲージメントの向上に注力。さらに、力を入れているのが、「次世代」の育成だ。
「売り手良し、買い手良し、世間良しを目指す近江商人の『三方良し』の心得は、日本が誇る商道徳です。その上で社会の『より良い明日』を考えれば、『次世代』が見えてくる。当社では、三方にこの次世代を加えた『四方良し』の精神で、社会貢献活動を展開しています」(小林氏)
本年4月以降、さいたま市教育委員会との連携協定により、小学生への金融経済教育プログラムの提供もスタートする。未来を担う次世代に、金融、経済に対する正しい感覚を持ってほしいと、中学、高校、大学を対象に進めてきた取り組みの範囲をさらに広げていく構えだ。
※公募円建て債グリーンボンドの累計引受実績(2016年4月~2021年9月)/Refinitiv 同社提供のサービスDealWatchのデータを基に自社調べ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券(MUMSS)が考える「四方良し」とは
「売り手(社員)良し」「買い手(お客さま)良し」「世間(社会)良し」を目指す近江商人の「三方良し」。これに「次世代」を加えた同社独自の「四方良し」の精神の下、さまざまな角度からESG経営の強化が進む。
最適なポートフォリオ提案で顧客のゴール実現をサポート
一方、顧客に対しては、いかにして「より良い明日」を提供していくのか。市場商品の開発やアドバイザリーを管掌する執行役員の木川氏は次のように語る。
「お客さまのご状況や価値観はお一人お一人で異なります。当社では、お客さまの多様なシーンに応じられるよう商品ラインアップのさらなる拡充に努めるとともに、入念なヒアリングと高度なプロファイリングによって最適なポートフォリオをご提案。それぞれが目指す未来のゴールの実現をしっかりと支えていきたい考えです」
最適なポートフォリオの提案において、同社の強みとなっているのが、株や債券といった伝統的な金融資産に代わるオルタナティブ商品(代替商品)だろう。取り扱いが難しいとされる同商品群の同社の今年度の販売額は、500億円を超える見込みだ。
「未公開株に投資を行うプライベート・エクイティやベンチャーキャピタル、またインフラファンドといったオルタナティブ商品は、株式や債券など一般的な資産との値動きの相関性が低く、より高度なリスク分散を行うのに役立ちます。長期保有を前提としたものも多いですが、リターンが年率で2桁を超えるものも珍しくなく、ポートフォリオの安定性、成長性を高めやすくなります」(木川氏)
またオルタナティブ投資には、ファイナンスを通じて社会課題の解決に貢献するという側面もあり、余剰資金を社会変革に役立てようとする投資家の注目度も高い。同社が昨年、新興国脱炭素ファンドへの小口化投資ができる商品を発売した際には、個人投資家など約70の投資家から114億円の資金が集まった。同商品は、これまで機関投資家以外は難しかった世界的プライベート・エクイティファンドが手掛ける商品への投資を、独自のスキームにより1口1億円程度から行えるようにしたものだ。
「こうしたファンドはESGやDXに欠かせないイノベーションを生む企業を独自のネットワークで見つけ出し、バリューアップを行っています。そこへ投資すれば、ビジネスの最先端情報も併せて入手できる。その情報を自社の事業に生かしている企業経営者などの投資家も少なくありません」(木川氏)
近年の社会の動きの中で、“世の中を良くする技術への投資”と“成長する会社への投資”が一致する傾向がいっそう強まっているという。
「グローバルな視点を生かし、お客さまのゴール実現を支援しながら、社会を変える事業への資金の流れをつくり、有用な変化を生み出していく。それが現代の金融の役割であり、当社の目指すところでもあります」(木川氏)
今年、環境省の「ESGファイナンス・アワード・ジャパン(環境大臣賞)」で、2度目の受賞を果たした同社。その優位性が国からも認められた取り組みの今後について、最後に小林副社長はこう語った。
「社員のエンゲージメントが向上すればサービスの質が上がり、社会貢献にもつながる。ESG経営では全ての取り組みが相互に関係し合っています。今後も全ステークホルダーのより良い明日の実現に向け、活動を強化していきます」