2021年4月、三菱UFJリースと日立キャピタルが経営統合して誕生した「三菱HCキャピタル」。昨年末には、持続的に成長する上で優先的に取り組むべきテーマとして、6つの「マテリアリティ(重要課題)」を特定。さらに、経営理念の実現に向けた「経営の中長期的方向性」の在り方、その具現化の第一弾となる2023年4月にスタート予定の「中期経営計画」策定に関する議論も活発化するなど、目指す未来像が徐々に鮮明化しつつある。「PMI(Post Merger Integration)は極めて順調。旧両社の強みが足し算から掛け算へと移行していく手応えを実感しています」と語るのは、代表取締役 社長執行役員の柳井隆博氏だ。同社のポテンシャルを発揮できるフィールドは広い。社会にどのような価値を示すのか、その思いを聞いた。
三菱HCキャピタル
三菱UFJリース(1971年設立)と日立キャピタル(1957年設立)の経営統合を伴う合併により2021年4月に設立。①社会資本/ライフ②環境・エネルギー③モビリティ④販売金融⑤グローバルアセットの5つの注力領域を中心に先進的なアセットビジネスを展開。社会的課題の解決を通じた新たな価値の創出を図る。
柳井隆博(やない・たかひろ)
1958年生まれ。82年、三菱銀行入行。三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務、三菱東京UFJ銀行専務執行役員などを経て、2017年に三菱UFJリース代表取締役社長。21年4月より現職。

私自身が銀行時代に経験した2度の大規模合併を踏まえ、まずは、PMIを必要以上に急がないことを意識しました。システムの整備や人事制度の統一なども含めて、PMIに要する期間を2年に設定。しかし、実際のところ、統合プロジェクトは想定よりもスムーズに進行しており、私の感覚では、すでに8割方はめどが立っています。今後、さらに加速させていくことが十分に可能と考えています。

その背景には大きく二つの要因があります。一つ目は、三菱UFJリース、日立キャピタルのカルチャーが大変によく似ていたことです。両社ともに、真面目で誠実な従業員が多く、また、金融業にとって最も大切な“リスク”への慎重な対応姿勢も有していました。「新会社が一つにまとまるのは早い」と確信できた、ポジティブサプライズでした。

二つ目は、両社が推進してきた主な事業領域に重なりがなく、「足し算」の合併であったことです。メーカー系のバックグラウンドを有した日立キャピタルは、サプライヤー側の視点から、三菱UFJリースは、銀行のお客さまを基盤としたユーザー側の立場からビジネスを見てきました。これらが融合することで、サプライヤーのソリューションとユーザーのニーズを強く、的確に結び付けることが可能となり、ビジネスのフィールドが大きく広がりました。

また、相互に理解を深めようとする従業員たちの意欲も旺盛で、さまざまなワーキンググループを立ち上げ、活発に意見を交わしています。実際、従来にはなかった協働アプローチによる提案で成果を出すなど、営業シナジーも顕在化しつつあります。

当社のありたい姿の実現に向けた「中期経営計画」の策定

現在、国内外でDX(デジタル・トランスフォーメーション)やSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)に関する議論や取り組みが進み、事業者にはSDGs(持続可能な開発目標)を踏まえた活動が求められるなど、ビジネスの重要な転換期を迎えています。「自分たちも変わっていかなければ」と危機感を抱くお客さまは少なくありません。

私たちは、世の中のほぼ全ての業種のお客さまやパートナー企業と接点を持てることが強みであり、特徴です。企業が変革に踏み出すとき、さまざまな業界を横断したネットワークを活用できる当社であるからこそ、幅広い課題の解決に貢献できると考えています。当社が取り扱う有形・無形のあらゆるモノの動きを「見える化」し、変革のプラットフォームとしてお客さま同士をつなぐ役割を果たしていくことで、経営理念として掲げる「持続可能で豊かな未来」に貢献できるものと確信しています。

では、具体的にどのようなビジネスモデルを創出するのか、いかなる付加価値を皆さんに提供できるのか。当社が描くありたい姿(経営理念)の実現に向けた「経営の中長期的方向性」を明確化し、2023年4月にスタートする「中期経営計画」において具体的な計画をお示しする予定です。

変革を進めていくのは当社も同じです。これまで通りのリース業の延長線上にとどまっていては、お客さまや社会の期待値を引き上げることは難しいでしょう。そうした認識を経営陣で共有しながら、現在、議論を本格化させているところです。

「論理的な理念・方針」と「心」の調和が事業を支える

新たな中期経営計画は、この会社で働く国内外約9000人の従業員一人一人が一緒に考え、実行できるものにしたいと考えています。

中期経営計画の策定にも深く関わる、当社が優先的に取り組むべきテーマとして2021年12月に公表した6つの「マテリアリティ」においても、社内アンケートで回答を得た、約2500人の従業員の意見を反映しています。

ロジカルに「P」(Plan)を練り上げても、「D」(Do)を担う従業員が「自分たちも関わっている」との意識を持たないと、PDCAをうまく回すことは難しいと思います。いかにデジタル技術やAIが進歩し、ビジネスに取り入れても、やはり最終的に大切になるのは「論理的に整理された理念・方針」と「心」の調和が保たれることだと思います。これから次々と積極的に施策を打ち出していくに当たって、双方向のコミュニケーションの機会を増やしていきたいと考えています。

私たちは、常に持続可能で豊かな社会、その未来の在り方を見据えています。現在、取り組んでいる事業は、この軸に合致するものであろうか。社会に貢献できるであろうか。常に自分たちに問い掛けながら、やるべきことをやってまいります。