コロナ禍のリモートワークで浮き彫りになった課題を解決するため、求人情報サービス「バイトル」「はたらこねっと」などを展開しているディップが全社統一のコミュニケーション基盤として採用したのが、ビジネス向けのメッセージプラットフォーム「Slack(スラック)」だ。その効果は導入後すぐに現れたという――。同社でSlack導入プロジェクトを推進した西野翠氏と、Slack導入アンバサダーを務めた髙野麻衣氏に、Slackを使った業務効率化や、絵文字機能を使って組織の連帯感を高める方法など、同社の導入事例を詳しく聞いた。

Slackはビジネスコラボレーションのハブ

求人情報サービス「バイトル」「はたらこねっと」などを展開するディップが社内におけるコミュニケーションの基幹システムとして、ビジネス向けのメッセージプラットフォーム「Slack」を全社導入したのは2020年12月。当時は、どのような課題を抱えていたのだろうか。導入プロジェクトを推進した同社の西野翠氏は次のように振り返る。

「20年夏に当社COO(最高執行責任者)が各部門の従業員にヒアリングを行ったところ、コロナ禍の影響でリモートワークが増えたこともあり、社員同士のコミュニケーションが取りにくいという声が多くあったそうです」

「実際、当時はメールが主流だったのですが、リアクションが遅く、コミュニケーションが分断されがちでした。当時のリモートワークのシステムが重く、アクセスにも時間がかかる状態。さらに、クラウドストレージも乱立し、ファイルを探すのも一苦労でした」

「こうした課題を解決するため、COOが社内のDXを推進して社員一人ひとりの力を“掛け算”的に拡大する『カケザンプロジェクト』を始動。その一環として導入したのがSlackです」

Slackは、単なるビジネスチャットツールではなく、2500以上の外部アプリや社内システムとの連携が可能な「ビジネス向けのメッセージプラットフォーム」だ。Slackでは、組織や企業ごとにオンライン上のオフィスのようなワークスペースを設け、さらにその中にプロジェクトやチームごとにチャンネルという会議室を開設し、コラボレーションを推進することができる。

1つのチャンネル内に関係するメンバー、メッセージ、ファイルなどの全ての情報を集められるため、業務効率の大幅な向上が期待できる。チャンネル内の会話やファイル、画像などの検索も可能だ。

業務のやりとりが会社の資産として活用可能であり、まさにDigital HQ(会社を動かすデジタル中枢)としてデジタルファーストな働き方を実現するツールである。ディップがコミュニケーション基盤としてSlackを採用したのも「全社統一のワークスペース、情報の透明性、他部署やアプリ連携のしやすさを重視した」(西野氏)からだ。

西野翠(にしの・みどり=写真左)
ディップ株式会社
商品開発本部次世代事業統括部dip Robotics PdM課課長
髙野麻衣(たかの・まい=写真右)
ディップ株式会社
エリア事業本部東日本エリア事業部神奈川営業部湘南営業課

全社導入1カ月で約80%がSlackのアクティブユーザーに!

直感的に使えるユーザーインターフェースや使いやすいデザインもSlackの特徴だが、導入に際してはどのような準備を行ったのか。

「当時、従業員数は約2500人。営業拠点が全国に38カ所あり、約65%が営業担当でした。そのため、導入プロジェクトでは、COOがトップに立ち、各営業部門を率いる執行役員を責任者に任命する一方、各部署にSlackの利用方法を草の根で伝えるアンバサダーを配置。トップダウンによる導入提案と、既に社内でSlackを活用していた社員のボトムアップによる支援の両輪、Slackの浸透を早める体制を構築しました。事前にSlack導入後の定着を支援するSlackカスタマーサクセスチームのサポートを受けて、アンバサダーを150名ほど育て、一緒に活動を行いました」(西野氏)

その結果、1カ月後に約80%がSlackのアクティブユーザーに、3カ月後には社内のやりとりはほぼSlackに移行した。アンバサダーを務めた同社の髙野麻衣氏が「営業は新たなツール活用に抵抗がない若手メンバーも比較的多く、日頃からチャットツールに慣れているため、適応は早かったと思います」と言うように、Slackへの抵抗感はほとんどなかったようだ。

導入の効果はすぐに現れた。「以前はメーリングリスト宛にメールを一斉送信し、それに対して『承知しました』という返信がズラッと並びましたが、そうしたやりとりが一切なくなりました。例えばSlackでは、投稿を確認したことに『絵文字リアクション(リアク字)』で表現すれば完了。メッセージを送った側も、誰が確認したかが一目瞭然となります」(西野氏)。

メールでありがちだった「大量に届くメールを読んでいない」「長いメールスレッドを追って関係者に返信する」といった弊害もなくなり、オープンなチャンネル上で情報共有やコミュニケーションを行うことで業務効率が格段にアップした。

ディップ社内チャットの各メッセージに続々と投稿される絵文字リアクション(リアク字)。自作の絵文字も多く華やかだ。受注に対してリアク字で褒めてもらえた受け手はちょっと嬉しい気持ちになり、組織の一体感も高まる。

絵文字が一体感や励まし合う文化を醸成

現在は、部や課、プロジェクト単位をはじめ、組織を横断する様々なチャンネルが開設され、情報共有や連携も盛んに行われるようになった。

「Slackで検索して他部署の情報を入手できるため、情報の透明性が上がり、部署を超えた連携もとりやすくなっています。この件についてこの人に声をかけてみようかといったことも増え、部署をまたぐ人の交流も進みました」(西野氏)

営業の強化にもつながっている。

「例えば、営業の成功事例やノウハウを集めたチャンネルでは、営業トークや手法を共有したり気軽に質問したりして多くの人が利用しています」(髙野氏)。こうしたナレッジストックと共有は、新人教育やオンボーディングにも大いに役立っているようだ。

絵文字により投稿に瞬時に反応できる「リアク字」による感情表現は、組織の連帯感を高める効果もあるという。「もともと当社は一体感が強く、互いに賞賛し合い励まし合うような文化がありますが、それがリアク字によって、より醸成されています。例えば、期末の目標を達成する契約が取れたという投稿に対して、『おめでとう!』『素晴らしい!』『〇〇さんは天才』といったリアク字が沢山つきます。祝福や励ますような絵文字が沢山つくとうれしいし、みんなで頑張ろうという気持ちになりますね」(髙野氏)

Slackには様々な画像やテキストを使って絵文字を自作できる「カスタム絵文字」という特徴的な機能があるが、同社ではすでに4000個以上のオリジナル絵文字が作られている。ユーザー個人が手軽に作成できるカスタム絵文字を日々の業務コミュニケーションで活用することで、企業のカルチャーや業務形態を反映した絵文字の利用方法が生まれるところがSlackの絵文字の強みの一つである。

このように、今の時代にフィットしたコミュニケーションを生み出すのがSlackの大きな魅力だ。コロナ禍で会社の競争力の向上や優秀な人材獲得及び維持を目指すのであれば、Slackのようなデジタルファーストな働き方を実現するツールの導入や投資を検討してみてはどうだろうか。

時代にフィットしたコミュニケーションを生み出すSlackの絵文字

Slack CTO兼共同創業者 寄稿

Cal Henderson(カル・ヘンダーソン)

Slack CTO兼共同創業者

2020年にソーシャルネットワークで送信された「Emoji(絵文字)」は、1日あたり50億にもおよび、この数字は今も増加の一途をたどっています。絵文字は何十年も前から頻繁に利用されていますが、「絵文字」という言葉自体はいまだにカジュアルな響きに聞こえるかもしれません。しかし、絵文字は単なる一過性のトレンドではなく、特に今日の分散型の職場環境において、効率性、感情表現や意思疎通、また人とのつながりを作るうえで重要な役割を担っています。

欧米諸国でも「Emoji」と呼ばれる「絵文字」は、文字通り「絵」と「文字」を意味し、その歴史は1800年代後半に、アメリカのある雑誌がさまざまな感情を表現するために活字を利用したことに遡ります。こうして誕生した絵文字は、一世紀にわたる進化を経て、現在は日々のコミュニケーションに欠かせない重要な要素となりました。さらに、9時から5時までオフィスで働くトップダウンの勤務形態から、生産性に重点を置いた分散化型のリモートワークへ移行するにあたり、仕事上のコミュニケーションにおける絵文字の重要性はますます高まっています。

デジタルを中心とした働き方、すなわちDigital HQ(会社を動かすデジタル中枢)が台頭し、従業員の80%以上がハイブリッドワークや、フルタイムのリモートワークを希望している中、人とのつながりはこれまで以上に重要になっています。チャンネルベースのテキストメッセージは、メールに比べてサイロ化が少なく、より深いつながりを構築できます。さらに、Slackのメッセージは、透明性や拡張性が高く、安全に統合されています。世界中で送信されるSlackメッセージ数は毎秒30万通にも及び、さまざまな感情を伝える絵文字は、こうしたメッセージに対する反応を伝えるのに役立っています。絵文字は適切な言葉が見つからなかったり、作成に時間がかかる堅苦しい返信よりもずっと効率的で、効果的にリアクションを伝えることができます。さらに、若い世代の従業員は、コミュニケーションの一部として絵文字を使って育ってきており、すでに絵文字に堪能であると言えるでしょう。

Slackでは、ユーザー企業の皆さまによって5000万以上のカスタム絵文字が作られています。この数は増加を続けており、それに伴い、絵文字の利用マナーに関するガイドラインや使用例が求められるようになりました。業務効率向上に役立つ最も一般的な例は、「絵文字リアクション」、すなわち「リアク字(リアクション絵文字の略)」です。日本では、2020年から2021年にかけて、Slack上で作成されたリアク字の数が49%増加しました。リアク字はどんなメッセージに対しても投稿でき、ワークフローを合理化するとともに、メッセージのやり取りにかかる時間も短縮します。

また絵文字には、勤務時のステータスをSlack上で示すという重要な役割もあります。ランチに出かけていること、通勤中であること、応答が遅れることが絵文字で示されると、職場の「心理的安全性」が高まり、社員が安心して働けるようになります。Slackはリモートワークやハイブリッドワーク実施時に活用できる公式の絵文字パックを提供しており、気軽に休暇中、自宅勤務中、病欠などの絵文字をダウンロードしてステータスに表示できるようになっています。

DXおよび人材サービスを提供しているディップ株式会社では、絵文字を活用してリモートワーク時での仲間意識や連帯感を高めています。これによりチーム内にチャンネルベースのメッセージを広く根付かせることができました。同社はオリジナルの絵文字を使ってチームを称えるなど、企業文化を強化し、独自のコミュニケーションを実現しています。

ことばとコミュニケーションは常に進化しています。人々をつなげるツールが変化しているように、コミュニケーションの方法も変化していかなければなりません。絵文字を利用することで、仕事をより楽しく、効率的に人間らしい温かみを添えて進めることができます。適切なガイドラインさえあれば、ことばではうまく表現できないポジティブなフィードバックやエンゲージメントを絵文字で表現し、企業文化の醸成に役立てることもできます。物理的な距離を超えて、個性を発揮できる人もいるでしょう。絵文字は時に過小評価され、見過ごされてしまうことも多いかもしれません。しかし、一世紀以上の歴史を持つ絵文字は、仕事をより幸福に、そして魅力的にしてくれる根源的な要素のひとつであり、未来の働き方に欠かせないものなのです。