見えてきたさまざまな効果。キーワードは「地域滞在型」
「働き方の変容に伴うリモートワーク拡大とストレスケアを結び付ける手法として、ワーケーションに関心を寄せる企業が増えていると感じます」
そう現状を捉えるのは、農業の癒やし効果を定量化する「アグリヒーリング」の研究、事業化を推し進める順天堂大学の千葉吉史氏だ。実証実験などを通じて蓄積したデータは「地域滞在型のワーケーションがストレス軽減につながる可能性が高いこと」を示唆しているという。
主に、唾液中に含まれるホルモンなどのストレス物質を計測することで効果を評価する。コルチゾールの値は長期的なストレス変化、クロモグラニンの値は急速なストレス・緊張の変化の度合いを表す。スキンシップによって分泌されるオキシトシンは別名「幸福ホルモン」とも呼ばれるとおり、幸福度の物差しとなる。
「地域でのワーケーションに期待できる効果は、大きく分けて回復的アプローチによるリフレッシュと、増進的アプローチによるモチベーション向上です。農作業を例に挙げると、個々に取り組むものはストレスケアが色濃く、集団で行ったり目標を設定したりするものはポジティブな感情が大きくなる傾向があります。昔ながらの農村体験や、自然体験、花との触れ合い、飲食、宿泊や温泉など、コンテンツごとの定量化が進んでいます。これらを組み合わせることで、社員やチームの特性に合わせたプログラムを組み立てることが可能だと考えます」(千葉氏)
掛川市でのワーケーションの例
注目される農山漁村。「見える化」でワーケーション促進
地域滞在の効果が注目される中、JTBでは農林水産省が推進する農泊とワーケーションを組み合わせたプログラムを複数試作して効果検証を進めている。農泊とは、農山漁村に宿泊し、地域の食事や体験などを楽しむ「農山漁村滞在型旅行」のことだ。
静岡県掛川市でのプログラムに参加したのはカゴメの社員3家族。野菜摂取量の充足度を数値として「見える化」する同社のデバイス「ベジチェック®」の普及を推進するメンバーたちが訪れた。
「当社では初めての試みです。親子でゆったりと過ごし、自然を満喫することができました」と振り返るのは、健康事業部課長で健康経営エキスパートアドバイザーなどの肩書きを持つ湯地高廣さん。自社のノウハウを生かして健康経営・健康増進のサポート事業にも注力するなど、カゴメでは社内外でさまざまなヘルスケア関連の施策を打ち出している。湯地さんは「ワーケーションもコストではなく投資だと位置付けている」と強調する。
唾液でストレス値を計測した結果、ワーケーションの前後で平均値が下がり、幸福度の向上などが認められた。
「興味はあるが、効果測定が難しくなかなか実行に移せないという企業の声をよく聞きます。こうしてストレスや幸福度が数値として見える化されることで社員は前向きな気持ちで参加できますし、長期的なエンゲージメントの形成においても、企業にもたらされるプラスの側面は大きいのではないでしょうか。社員のハッピーが企業発展の近道だと改めて認識しました」(湯地さん)
農泊ワーケーションでストレス物質が低減!
図はカゴメの農泊ワーケーションプログラム参加前後における、唾液成分に含まれるアミラーゼ数値の変化。アミラーゼは「不快さの認識の度合い」を計測することが可能なストレスバイオマーカーで、不快な刺激では数値が上昇、快適な刺激では低下する。カゴメの被験者5人の平均値は「12.5kIU/L」から「9.6kIU/L」に低減。滞在中は業務中も安定的な精神状態が保たれつつ、適度な活力が維持されていたことがうかがえる。
長期に及ぶほどプラスの影響。SDGsの観点でも期待
では、地域で過ごす「期間」は滞在者にどのような影響を及ぼすのだろうか。千葉氏が提示する段階的なイメージは次のようなものだ。
「日帰りや1泊などの短期滞在でもストレス低減や幸福度の増進を期待することができ、2~3泊になると、より高い効果、さらに睡眠の質の改善が加わることが、これまでに行った調査から分かっています。また、滞在が1カ月程度の長期に及ぶと、仕事と地域の暮らしが両立し、メラトニンをはじめ睡眠物質のバランスが整うなど、情緒が安定する傾向が観察されています」
興味深い話がある。「地域での滞在を終えた後も、例えばその産地のものを食べるとストレスが低い状態が保たれるというデータがあります。働く人の心の健康を支え、仕事のパフォーマンスの維持にも貢献するはずです。もちろん観光やCSRとしての地域との関わり方もありつつ、企業に実利をもたらす合理的な選択肢としてワーケーションの導入を判断することが重要だと思っています」
また、今後は企業のSDGsの観点でも、地域でのワーケーション推進が重要な意味を持つようになっていくのではないかと千葉氏は見る。
「ヘルスケアはもとより環境保全や雇用の創出など、広範な課題の解決に寄与する可能性があると思います。地域が働く人々の心身を癒やし、企業は実利を得ながら豊かな経済をつくる好循環を生み出す。農泊という国内の資源を使って、いわば“心の自給率”を引き上げていく、そんな未来に期待しています」
農山漁村でさまざまな企業が実践中
[目的]チームビルディング
株式会社マウントゼロ
リラックスして業務効率が高まった
コロナ禍によってフィジカルなディスカッションやコミュニケーションの機会が減り、社内の結束力、チームビルディングにおける課題を感じ始めていました。ワーケーションであれば仕事と遊びの要素を取り入れ、課題を効果的に解決できるのではないかと考えました。各自が多忙ではあったものの、栃木県那珂川町の豊かな自然や農村の温かさに触れ、リラックスできたことで仕事もはかどったと感じます。今後も活用していきたいと考えています。
(代表取締役・丸山龍也さん)
[目的] サステナビリティ推進
ANAあきんど株式会社
自分たちの事業を見つめ直す機会に
地域の皆さま、お客さま、そしてANAグループが持続的なメリットを分かち合える「三方よし」の関係構築を目指して航空セールス事業、地域創生事業を展開しています。長野県飯山市での滞在中は農業体験、自然体験、食事、宿泊など地域の魅力を五感で味わい、そこに住む人々との交流こそ、農村におけるワーケーションの醍醐味だと実感しました。生の声を聞き、自分たちの「分かったつもり」を見直す機会になったと思います。
(経営管理部・森下礼菜さん)
※この記事広告は農林水産省の農山漁村振興交付金を活用しています。
※農泊ワーケーションの効果は趣向などにより個人差があります。