今やあらゆる業界で進むDX。中小規模の事業体も多く、電話やファクスといったアナログ取引が広く行われてきたフード業界も大きく変わりつつある。企業間商取引のプラットフォーマーとして、20年以上にわたり企業のデジタル化を支援してきたのがインフォマートだ。フード事業執行役員の杉山大介氏にフード業界の課題解決に向けた取り組み、今後の可能性などを聞いた。

煩雑な受発注業務をデジタルの力で効率化

日本各地の「売り手と買い手をつなぐ食の商談システム」の提供を目的に創業したインフォマートが、現在の主力事業「受発注システム」を構築するに至ったのは、飲食店や生産者、卸の要望がきっかけだった。杉山氏は「飲食店における発注業務は非常に煩雑なのです」と背景を説明する。

杉山大介(すぎやま・だいすけ)
株式会社インフォマート
フード事業執行役員 兼 フードマーケティング部部長

「担当者は多様な食材の需用を予測しながら、一枚一枚書式の異なる各仕入れ先の用紙に注文を書いてファクスで送ったり、1件ずつ電話で注文したり。発注後も会計ソフトへの入力作業などに時間を割かねばならず、メニューの考案や接客など、本来的な業務に集中できないという悩みが寄せられていたのです」

生産者や卸といった売り手側でもさまざまな課題が生じていた。

「電話やファクスでの注文に対応しながら伝票発行システムなどへ受注品目や数値を入力していくのは、かなりの労力と時間を要します。重ねてファクスの文字が読めない、入力をミスしたといったことが起これば、リカバリーにもコストがかかります。こうした売り手と買い手双方の課題を解決するために、日々の受発注から請求までを電子データ化。各取引先との売買を同一のフォーマットで処理し、原価や売り上げといった数字を一元的に管理できるようにしたのが『BtoBプラットフォーム 受発注』です」

2003年に提供を開始したこのソリューションは改良を重ねながら、現在4万3000を超える企業(2021年12月現在)が利用する業界のスタンダードに成長。ユーザーからも「事務作業が効率化でき、本来の業務に注力できるようになった」と高く評価されている。

トッププラットフォーマーとしてフード業界のデジタル化をリード
1998年のインフォマート設立時よりフード業界のデジタル化に注力。企業間のビジネスをつなぎ、結び付きを強める「BtoBプラットフォームシリーズ」を展開し、6万6000超の飲食店、4万社の卸業者などに利用されている(2021年12月末現在)。

見える化された情報をさらなる成長に生かす

メリットは単なる効率化にとどまらない。顧客の声で最も多いのは「現在の経営状況や過去の受発注データが分かりやすく可視化され、いつでも確認できるようになった」というものだ。

「既存システムとの連携でメニュー原価、日次損益、集計に時間がかかる月次損益もリアルタイムで明らかにすることができますから、すぐに経営に生かせます。ある月について例年の発注データをさかのぼって確認すれば、実績に裏打ちされた精度の高い予測が可能になるでしょう。業務で発生する膨大な取引の情報を使いやすいデータの形で残しておくことで、これまでになかったビジネスの好機も生まれやすくなります」

シリーズ製品として見積、契約、請求など、企業間取引に関わる業務を効率化する多様なソリューションが提供されている。「BtoBプラットフォーム 規格書」では食品の原産地やアレルギー情報を記した規格書の提出依頼・作成・提出、仕様変更までをクラウド上で一括管理できる。

「加工食品などでは、時期により原料や産地が変更されることも珍しくありません。食の安心安全の確保、店舗運営の危機管理の側面でも、必要なときに最新情報をすぐ確認できる状態になっているのが助かる。そんな感想をよく頂きます」

インフォマートは、根強く残る紙の書類のデータ化や、小規模の事業体でも導入しやすいLINEを活用した受発注システムの開発企業へ出資するなど、「脱アナログ」の総合的な支援を目指している。

他社とも連携しながら業界の持続可能性向上へ

現在、インフォマートが注力するのは、デジタル化やデータ活用をどう事業変革につなげるかという、DXの「X」の領域である。AIを活用した高度な需要予測を手掛けるGoals社との業務提携による新メニュー管理システムの共同開発もその一例だ。

「過去の売り上げや来客数、天候や周辺エリアのイベントの有無。これらを踏まえた需要予測は属人化された業務であることが少なくありません。AIによる予測と当社のメニュー管理システムを組み合わせて自動化し、個人の経験値に頼らずとも過剰在庫を防止できれば、業務プロセス全体の改善が期待できます」

AI自動発注など「X」実現への動きが加速!
バラバラのフォーマットへの対応、大量の紙の管理、情報更新のタイムラグ、入力ミスといった業務上の課題は「D」(デジタル)によって解決を期待できる現在。広く普及したことでデジタル化に踏み出しやすい環境が整い、さらにデータを活用して企業の成長を促進する「X」(トランスフォーメーション)へとフェーズは移りつつある。

企業や人をデジタルで結び、業務を支援し、社会に貢献することを目標とするインフォマートは、他社との協業にも積極的だ。フード関連事業の最先端の取り組みを紹介し、交流を促す独自のプロジェクト「FOODCROSS」なども推進。企業連携による新たな価値創出を目指している。

「優れたソリューションやデータをつなぐことで相乗効果を生むのがITの世界。他社とも協力しながら、持続可能なフード業界の在り方を創出していきたいと考えています」

フード業界はコロナ禍で大きな影響を受けた。従来のオペレーションを見直す企業も増えているという。杉山氏は業界全体のより良い未来に踏み出す契機になればと願っている。

「まさに変革の時を迎えているといえるでしょう。人材も、働き方改革や競争力の強化に前向きな企業に集まり、定着していくのだろうと感じます。DXといわれても、何から手をつけていいのか分からないという企業も多いでしょう。デジタルツールもアナログな道具と同じく、まずは可能な範囲で取り入れて“試して効果を知る”という感覚が大事です。各社の状況に合ったソリューションをご提案していきたいと思っています」