今、社宅が見直されている。会社が住まいを提供する従来の社宅とは違い、社員の希望やワークライフバランスを尊重する「社宅2.0」のコンセプトだ。新しい「社宅2.0」は、社員の住居費負担を軽減するだけでなく、快適な住まい環境で仕事のパフォーマンスを高める効果が期待できる。福利厚生の見直しや業務の効率化にも効果は大きい。フルアウトソーシングで「社宅ソリューション」を提供する三優エステートの福澤貴司取締役に聞いた。

令和の時代だからこそ「社宅2.0」

――近年、社宅制度が改めて見直されていますね。

社宅は時代とともに変化してきました。昭和から平成にかけては、会社が所有する土地に社宅を建て、社員を住まわせるのが一般的でした。

私自身も新社会人の頃、勤め先の独身寮に住んだことがあります。六畳一間で共同トイレの寮でした。部屋は会社が決め、何日までに入居するようにと指定され、荷物も段ボールで何個までと制限がありました。当時の社宅は、会社からの命令で一方的に決められるのが当たり前でしたから、とくに疑問に思いませんでした。

バブル崩壊後は、全国的に会社の遊休地が減り、会社が賃貸物件を借りて社員が住む「借り上げ社宅」が増えました。現在は、また別の視点から、社宅の役割や意義を捉え直す時期を迎えていると思います。私たちが「社宅2.0」と呼んでいるコンセプトです。

福澤貴司(ふくざわ・たかし)
三優エステート株式会社
取締役
1975年生まれ。立命館大学卒業後、さくら銀行(現 三井住友銀行)入社。支店業務や法人ソリューション業務に携わる。銀行退職後はベンチャー企業の再建(ターンアラウンド)を中心に、IT業での経営戦略部門でのM&AやIPO準備に従事。2020年三優エステート入社、取締役として事業戦略の立案や事業モデルの再構築、内部管理体制の整備などを担う。

――「社宅2.0」とはどのようなものでしょうか。

社宅という制度は福利厚生の一部で、会社と社員にそれぞれメリットがあります。とくに経営上では人事と深く関わっています。

社宅がある会社では、社員は一般的な家賃相場よりも安く居住できます。自分で賃貸物件を借りる場合より、職場に通いやすい立地で、居住空間が広く、築年数などグレードの高い物件に住むことが可能になります。この「近い」「広い」「グレードが高い」は社宅選びの三大要素です。

会社が快適な住まい環境を提供すると、社員のモチベーションは向上し、仕事のパフォーマンスも高まるものです。ただし、現在は価値観が多様化していますから、昔のように会社が「ここに住みなさい」と一方的に決めてしまうのでは、社員のモチベーション向上にはつながりません。

「社宅2.0」では、会社の事情よりも“社員の目線”で考えることを重視します。私たちが“自由な社宅設計”と呼んでいるものです。先ほどの「近い」「広い」「グレード」は、社員ごとに優先順位は異なりますし、別の条件を求めることもあるでしょう。

社員が本当に求める住まい環境を提供できれば、いわゆるワーク・エンゲージメントは強まります。社員が“会社のファン”になれば、仕事のパフォーマンスが高まるのは当然ですし、月曜の朝から前向きな気持ちで出社できるのではないでしょうか。メンタルヘルスによい影響を与え、健康経営(企業が社員の健康保持、増進に取り組むことで生産性向上などを目指す経営手法)にもつながります。

企業からすれば、社員たちの高い成果が期待できるうえに、離職率の低下に貢献し、遠隔地に住む優秀な人材を採用できるかもしれません。

社宅によって業績がアップするとは言いませんが、少なくともタレントマネジメントを含めた人材活用に効果的だと私たちは考えています。人事部や経営企画部からお問い合わせがあるのも、人事や組織の観点から社宅を見直す企業が増えているからでしょう。

社宅には経営ポリシーが表れる

――「社宅2.0」は単に社員の住む場所を提供するという従来の発想とは違いますね。

社宅は、終身雇用が基本だった日本特有の制度です。日本企業の終身雇用が崩れてくれば、社宅の役割も変化します。

「社宅2.0」のコンセプトを固める際に、「社宅」は古めかしいイメージがあるから、まったく新しいネーミングではどうかという議論もありました。しかし、社宅という日本特有の制度がもつレガシーも大切にしたいと考えました。過去の社宅とは違うという意味で「社宅2.0」になりました。

三優エステートの「社宅2.0」では、会社と社員双方の“視点”から最適な“支点”を見出し、組織のワーク・エンゲージメントを向上させる「新しい社宅制度」の実現をサポートする。

――“社員目線”や“自由な社宅設計”は企業のダイバーシティに通じますね。

社宅の運営には、人事ポリシーをはじめとして経営のポリシーが色濃く表れます。例えば、社宅に同居する方がいる場合、結婚していなければ認めないというのでは、時代に合わないかもしれません。将来、結婚するつもりで同棲する方たちもいますし、LGBTQ(性的少数者)が関係してくるケースもあるでしょう。そういう場面では、企業の経営ポリシーが問われます。

当社では、住みたい社宅を社員自らプレゼンする制度があります。私の部下が「ペットを飼えるところに住みたい」とプレゼンしたことがあります。ワンちゃんと一緒だと癒やされるし、仕事も頑張れるからというんですね。

たしかに「社宅だからペット禁止」では、社員の多様性を認めていませんし、ワーク・エンゲージメントは強まらないでしょう。その部下はちゃんと私たちの前でプレゼンし、ワンちゃんと暮らすことになりました。そしてワンちゃんと暮らすことで仕事のモチベーションが向上し、高いパフォーマンスを出すようになりました。

社員の税金、社会保険料を減らし、貯蓄を増やすきっかけとなる

――社宅ではなく、住宅補助を支給する企業もあります。どのような違いがあるのでしょうか。

社員にとっては、月々のお給料や税金、社会保険料などに違いが出てきます。多くの社宅では、社員が家賃の一部を負担しますから、その分を差し引いた金額が給料として支払われます。仮に給料が25万円で家賃が3万円としたら、支払われる22万円に対して所得税や社会保険料が算出されるわけです。

一方、住宅手当の場合は、給料の25万円に3万円の手当がつくと、28万円に対して所得税や社会保険料が算出されます。差し引きすると6万円ですから、この差は大きいでしょう。

とくに20代の社員は、まだ給料が多くありませんから、支出の中で家賃が占める割合が高くなります。将来のために貯蓄することも難しくなる。会社がその部分をサポートする意味は大きいでしょう。社宅と住宅手当では、年月を重ねるほど貯蓄の額に差が出てきます。

税金や社会保険料が上がってしまい、社員が知らないうちに不利益を被るのは、会社と社員の関係としてフェアではないという気がします。ワーク・エンゲージメントを強くするためには、まず会社と社員がフェアな関係であることがとても重要です。

――新型コロナウイルスの感染拡大によって、テレワークが定着した企業も増えています。自宅で過ごす時間が多くなれば、住まい環境への関心は高まりますね。

テレワークの普及によって、社宅は“寝るために帰る部屋”ではなくなりました。住まい環境が整備されないと、生産性が低下するなど直接的な影響も出てきます。

テレワークが増えたことで、社宅を広くしたいというクライアントもいます。部屋が狭い社員の方がベッドに腰かけてパソコンに向かっていたら腰痛を患ったというケースもあります。社宅が仕事場を兼ねるようになれば、健康経営の観点からも住まい環境に意識を向ける必要が出てきます。

フルアウトソーシングの「社宅ソリューション」

――クライアント企業に提供する「社宅ソリューション」はどのようなものでしょうか。

私たちが提供するのは、社宅に関わる全般的なソリューションです。社宅制度の導入をきっかけに、福利厚生を見直すこともあります。制度設計、各種手続や管理業務の代行など、フルアウトソーシングによって業務は効率化されます。

経理のお仕事をされている方はご存知だと思いますが、不動産の業界には独特な商慣習があります。通常の取引は「売掛け」「買掛け」など互いに後払いが多いのに対して、不動産は家賃や敷金を先払いするのが一般的です。経理の方にとっては、この違いは面倒なものです。当社のソリューションは、家賃コストの平準化、一括処理による支払いのスリム化など経理業務に関わる部分が多くあります。

また、総務部の方は入居管理、退去管理をはじめとして煩雑な仕事があります。社宅の入居と退去は、土日など会社が休みの日に対応しなくてはいけませんし、退去時の原状回復と敷金の計算からトラブルが起こることも珍しくありません。

夏の猛暑に社宅のエアコンが一斉に壊れてしまい、総務部の担当者が丸一日その対応に追われたという話はよく聞きます。そのような事態が起これば、他の業務に支障が出ます。フルアウトソーシングによる業務の効率化は大きいと思います。

私たちが提案する「社宅2.0」は、社宅制度を通して会社と社員の絆を深め、業務の効率化を進めていきます。中長期の企業成長を実現するお手伝いだと考えています。