今から70年以上前に電気工学部の大学院生が米国ミネソタ州のガレージで興し、医療(メディカル)と電子工学(エレクトロニック)を組み合わせて命名されたメドトロニックは、世界初の電池式体外型ペースメーカを開発。以来、次々と医療機器の分野に革新をもたらし、今ではグローバルリーダーとして治療技術の発展を牽引している。同社日本法人3社の新社長に就任したロブ・サンドフェルダー氏に話を聞いた。

人々の痛みをやわらげ、健康を回復し、生命を延ばすのが使命

――貴社は医療分野におけるグローバルリーダーとして、人体に関わる70種類以上の疾患の治療法を提供しています。その日本法人3社の新社長就任にあたって、抱負をお聞かせください。

日本法人3社のリーダーとして私が推進しようとしているのは、メドトロニックが掲げているミッションの実現です。全部で6つの条文から構成されており、その筆頭に掲げているのが以下の内容です。

「私たちは生体工学技術を応用し、人々の痛みをやわらげ、健康を回復し、生命を延ばす医療機器の研究開発、製造、販売を通して人類の福祉に貢献します」

このミッションは今から60年前に制定され、今なお変わることなくメドトロニックが一貫して追求し続けているものです。メドトロニックは、医療とテクノロジーを融合する「メドテック企業」のリーディングカンパニーですが、常に私たちが切望しているのは、この業界におけるイノベーションをリードし続けていくことです。

そして、イノベーションの推進を通じて医療従事者をサポートし、医療従事者が患者さんに最善の治療を提供できる環境を整えていきたいと考えております。そのために不可欠となってくるのは、医療従事者である医師や看護師の方々との緊密な連携です。

私たちが神奈川県川崎市でメドトロニック イノベーションセンターという最先端のトレーニング施設を運営しているのもその一環で、医師や看護師の方々に弊社の医療機器を安全、かつ適切に使用して頂き、患者さんのアウトカム改善をさらに進めるための訓練が行えるようになっています。

ロブ・サンドフェルダー
日本メドトロニック、メドトロニックソファモアダネック、コヴィディエンジャパン
代表取締役社長
2016年5月にバイスプレジデント ファイナンスとしてメドトロニック グレーターチャイナに入社し、中国・台湾・香港を対象とする事業開発や財務および会計業務などの責任者を務めた。前職では、製薬および医療機器のグローバル企業で世界各地の地域財務リーダーを歴任。医療機器グローバル企業時代には、中国・香港リージョンのバイスプレジデントゼネラルマネージャーも務めた。2021年8月1日付で現職に就任。親日派で、北海道でスキーを楽しみ、家族旅行で何度も日本を訪れているという。

4つの疾患治療領域でメドテックリーダーの役割を果たす

――冒頭でも触れたように、貴社が医療分野で手掛けている領域は非常に広範に渡っています。改めて、主力事業について整理しながらご説明いただけますか。

おっしゃる通り、私たちが提供している製品は多岐に渡っています。だからこそ、複雑で課題の多い疾患に対して有効な治療を提供できるわけです。医療分野において、ここまで幅広い領域で、なおかつ深く掘り下げたところまでポートフォリオを拡大させている企業として、私たちはオンリーワンの存在だと自負しております。

具体的に私たちは、①カーディオバスキュラー(循環器領域)、②ニューロサイエンス(神経科学領域)、③メディカルサージカル(外科領域と低侵襲治療・診断領域)、④ダイアビーティス(糖尿病領域)という4つのポートフォリオを展開しています。このうち、①における主力製品の一例が心臓ペースメーカです。共同創業者のアール・バッケンが最初に開発したのが電池式体外型ペースメーカであり、言わば私たちのルーツ的な製品と位置づけられます。

②におきましては、患者さんの救命やQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)向上に結びつく製品を提供中です。特に注力しているのが脳や脊椎の分野で、脳卒中や慢性疼痛、パーキンソン病などの治療・症状改善に尽力しています。最近では、これまでに培ったナビゲーションのテクノロジーとロボティクスを融合させた脊椎手術に特化した手術支援ロボットの日本での提供を開始しました。

一方、低侵襲(身体への負担の軽い)手術を追求しているのが③のポートフォリオです。開腹手術と比べて患者さんの傷も小さくて済み、患者さんの術後の早期回復にも貢献できる治療法です。

製品の具体例として、病変のある臓器を切離すると同時に縫合することができる外科用ステープラーなどが挙げられます。また、このポートフォリオでは、治療だけでなく、従来の内視鏡による検査が困難な患者さんの、大腸や小腸の病変を早期発見するためのカプセル型の内視鏡システムも扱っています。

残る④のポートフォリオでは、糖尿病でインスリンによる治療が必要な患者さんに、糖尿病管理のための血糖変動マネジメントを提案、提供しています。必要に応じてインスリンを注入するようなインスリンポンプや、血糖値と相関するグルコースの継続的なモニタリングを行う製品がその具体例です。

いずれのポートフォリオにおいても、私たちが最もフォーカスしているのは、テクノロジーを駆使したイノベーションにより、患者さんの治療結果(アウトカム)を改善するソリューションや、新しいアプローチでの治療方法を提案し続けることです。

例えば最近注目されている遠隔医療の分野にも長年取り組んでおり、インテリジェントデータや、自動化を適用して治療をリアルタイムで調整し、症状の管理をしやすくするなど、医療従事者や患者さんにとって効率がよくアクセスしやすいソリューションを提供しています。

また、革新的な技術を幅広い医療領域に展開することはメドトロニックの得意とする分野ですが、手術支援ロボットの分野では、幅広い領域で培ってきたテクノロジーや専門性を融合させています。3D画像によるモデリングや電動サージカルツール、ナビゲーションシステム、ロボット技術などを組み合わせることで、医師、病院、そして患者さんに対しての大きな貢献を可能にしています。

テクノロジーで課題を解決し、イノベーションを起こす

――メドテック分野のグローバルリーダーであり続けてきたのは、競合を圧倒する強みがあったからこそ。やはり、それはイノベーションという言葉にヒントがあるのでしょうか。

実は先日、メドトロニックが今後さらにイノベーションを強化し、どのように医療全体への貢献を推し進めていくのかということを伝えるための新しいブランドメッセージを発表いたしました。日本語に訳すと、次のような表現になります。

「人々の痛みを和らげ、健康を回復し、生命を延ばすため、私たちはエンジニアのマインドで想像を超えるものを創り出します」

その中でキーワードとなっているのは、「エンジニアのマインド」です。1949年にメドトロニックを創業したアール・バッケンは電子工学分野のエンジニアでしたし、現会長兼CEOのジェフ・マーサも日頃から社員に対し、「常にエンジニアのマインドを持つように」と語りかけています。

なぜなら、エンジニアは問題解決型の思考を働かせるからです。そして、問題に立ち向かうためにテクノロジーを駆使し、イノベーションを起こすことで解決を図ろうとします。これは実際に機器などの開発に関わるエンジニアだけを指しているのではなく、職種や肩書にかかわらず、メドトロニックで働くすべての人たちが同じマインドで仕事に取り組むことが重要であると同時に、私たちの大きな強みになると考えているのです。

加えて、私たちにはグローバルなスケールでビジネスを展開しているため、世界各国の医療従事者や患者さんにアクセスでき、医療現場の最前線におけるアンメットニーズやアイディアを取り込むことが可能です。世界中の患者さんの声も開発に反映でき、これらの強みも冒頭で触れたミッションの達成へと繋がっていきます。

さらに、私たちは世界各国の技術にアクセスでき、ある地域で高い効果が認められたテクノロジーを別の地域に活用しローカライズさせていくこともできます。グローバルな規模で治験を進められるのも私たちの強みで、最先端のテクノロジーを用いた製品をより早く承認へと導くことが可能です。日本の医師の方々も私たちの国際共同治験に参加しており、日本国内における速やかな承認に結びつくことも期待されます。

イノベーションを加速するインクルージョン&ダイバーシティ

――イノベーションをもたらすためには、女性の積極活用をはじめとするダイバーシティ(多様性)の推進が不可欠だというのがメドトロニックの経営哲学ですね。その理由について教えてください。

極めて重要な質問です。メドトロニックのミッションでは、私たち社員が日々のオペレーションを進めていくうえでの原理原則も定めています。ミッションの6つの条文の一つに「社員一人一人の価値を認めていく」というものがあります。

メドトロニックがミッションを達成するためには、すべての社員のサポートが不可欠となります。そのためには、すべての社員に最大限のポテンシャルを発揮してもらうことが求められてきます。それを促す意味でも、「社員一人一人の価値を認めていく」点が非常に重要となってくるのです。

多様性のある環境下で働く社員は、自ずと患者さんの多様性についてもより深く理解できます。また、企業が業績の向上を追求するうえでも、多様性が重要なカギを握っています。マッキンゼー・アンド・カンパニーが2020年に行った調査によれば、多様性に富んだチームを有する企業は多様性に欠ける同業の企業と比べて、収益性が約25%も上回る傾向にあるとの結果が出ています。

日本のメドトロニックにおきましても、グローバル水準の多様性に富んだ職場をめざしていきたいと考えています。先日、私たちは「Great Place to Work®」から「働きがい認定企業」に選出されましたが、より働きがいのある職場をめざしてさらにインクルージョン&ダイバーシティを推進していくつもりです。

また、メドトロニックは社員のリソースグループとして「メドトロニック・ウィメンズ・ネットワーク」を2012年に結成しており、日本でも女性がより活躍できる職場の実現をめざして活発な活動を展開しています。メドトロニックでは2025年までに女性社員の割合を40%、女性管理職割合を30%以上にするという目標を掲げています。

年間8500万人の治療に貢献することを新たな目標に

――最後に、様々な病気で苦しむ世界の患者さんに向けてメッセージをお願いします。

毎年、私たちの提供する医療機器やソリューションは年間7500万人の患者さんの元へ届いています。計算すると、世界のどこかで1秒に2人の患者さんがより有意義な生活を取り戻すことに貢献していることになります。会長兼CEOのジェフ・マーサはさらなる目標として、2025年の4月までに年間8500万人の患者さんの治療に貢献することを掲げています。この目標を達成するためにも、私たちは患者さんにさらに寄り添い、医療全体の発展に取り組んでいきたいと考えています。