誰にも共通する「幸せ」の条件とは
幸せなセカンドライフを送りたい――。そんな気持ちは誰でも変わらないだろう。では「幸せ」とは、どのような状態を指すのだろうか。慶應義塾大学大学院の前野教授は、国内外の幅広い研究を基に、収入や地位、本人の考え方、対人関係など多様な面から人間の「幸せ」に影響する要素を追求。四つの重要な心的要因を発見した。それが、①自己実現と成長、②つながりと感謝、③前向きと楽観、④独立とマイペースの4因子(下図)だという。
「自分の強みを伸ばし、感謝の気持ちを持って周囲と良好な関係を築き、前向きな姿勢を忘れずに、独立してマイペースに暮らす。そうして自分と他人の両方を肯定しながら生きていくことが、幸せなセカンドライフを送るポイントだと言えると思います」
この4点を満たす最初のステップになるのが、「自分を知ること」だ。
「自分の興味のあることや強みを知ってそれを突き詰め、人と違うことができるようになれば、世の中で必要とされるようになります。それが自身のやりがいや、新たな人とのつながりを生んでいきます」
とはいえ、「興味のあること」や「強み」は、リタイアを前に慌てて探してもすぐ見つかるものではない。
「特に私の世代などは、『仕事が生きがい』という人も珍しくない。それはそれで悪くはありませんが、仕事だけに依存していると、定年で仕事の肩書がなくなった途端、途方に暮れることになりかねません」
プランニングで考慮すべきは仕事以外の人とのつながり
退職後の期間がより長くなる「人生100年時代」には、理想としては40歳を迎える頃から、自分はどのようなセカンドライフを送りたいのかを考えておくことが大切だと前野氏は言う。検討すべき事柄の中には、キャリアの在り方や生活環境、それを支える物理的な備えなどが含まれるだろう。ここで忘れてはいけないのが、「いかに“仕事以外の人とのつながり”をつくるか」という点だ。
「“孤独”が人の幸福度を著しく下げるということは、さまざまな研究の結果から明らかになっています。仕事から生まれた関係は、仕事を離れるとリセットされてしまうことも多いですから、それ以外のコミュニティと関わりを持っておくことが重要です」
そうした新たなつながりをつくる上でも、また退職後に収入を得る道を探る上でも有用なのが、前野氏も勧める「副業」だろう。
「“稼ぐこと”よりは“楽しむこと”に主眼を置いて、自分が得意だと思うことを、月数万円のプラスの収入があればいいという気軽な感じで始めてみるといいと思います。その際、今まで仕事で培ったスキルに、自分が打ち込んでいる趣味や本当に好きだと思うことを掛け合わせていくと、それが自分にしかない独自の強みにつながっていくでしょう」
会社が副業を禁止している場合は、仕事のスキルや知識を生かしてボランティアを行う「プロボノ」としての活動もお勧めだという。
「退職後にその活動を収入につなげる方法を探ることもできますし、何より社会貢献をして人に喜んでもらうと、仕事で得る達成感とはまた別の、穏やかな喜びを感じられる。これはビジネスパーソンの方にもぜひ味わってほしいですね」
理想的には、収入を得られるもの、社会貢献、趣味度の高いものなど三つくらいの活動を進めておくと、安心感もあり、その後の人生がより豊かになるという。
実は働き盛りよりシニアの幸福度は高い
自分にとっての「幸せ」は何かを考える上では、前野氏が手掛けるワークショップの手法も参考になるだろう。
「数人で集まって、先に挙げた幸せの四つの因子の①~④に対応する自身の活動を、順番に発表していきます。例えば『①自己実現と成長』なら、今熱心に取り組んでいることや夢や目標について語っていく。人の取り組みに学びながら、自分の考えもまとまり、今後、自分がどう生きていきたいかを見直す良い機会になると思います。その際は人の話をよく聴き、その意見を尊重し、批判的な発言は差し控えながら、自分の思ったことは前向きな形で伝えるようにするとうまくいくでしょう」
また、実際に活動を始める際には、身近な目標を立てながら、小刻みにそれを達成していくと、充実感を得やすくなるようだ。
「新しい分野への取り組みは、先が読めないことも多い。ですから『月に一回は新しいコミュニティーに顔を出す』など無理のない範囲で計画を立て、冒険心と安心感のバランスをうまく取りながら自分に合うものを探していくといいと思います」
「幸せの何たるかを理解し、そうなろうという気持ちさえあれば、幸せなセカンドライフを送るのは難しいことではない」と語る前野氏。実際、仕事や生活での苦労が多い40~50代といった働き盛りより、シニアの方が幸福度が高いという調査結果もあるという。
「今はシニアにも多様な可能性が広がっています。そして自由を手に入れ、自分の人生を謳歌できる時間は以前より長くなっている。胸が弾むようなわくわくすることを見つけてそれを追求するうち、新たな強みに気付くこともあるでしょうし、仕事の肩書が通じないコミュニティーで、また別の自分も発見できます。その名の通り、第二の新しい人生を始める気持ちで一歩を踏み出していただければ、幸せなセカンドライフを送れるということに気付いてほしいですね」