【特別対談】これからの時代の顧客との向き合い方

世界初のクレジットカードとして1950年に米国で生まれ、昨年、日本でも創業60周年を迎えたダイナースクラブ。カードを発行する三井住友トラストクラブは、CX(カスタマー・エクスペリエンス/顧客体験)強化の取り組みで成果を上げている。同社の五十嵐幸司社長と活動をサポートするアビームコンサルティングの水野美歩氏が、具体的な取り組みやこれからのCXの在り方などを語り合った。

一貫したブランド体験の提供が重要なテーマに

【水野】顧客接点から得られるさまざまなインサイト情報を活用してサービスの質をさらに高めていく。3年ほど前から、その取り組みをご支援させていただいています。

【五十嵐】ダイナースクラブは、お客さまの人生をより豊かにすることをモットーに、単に決済手段だけでなく、メンバーの方へ価値ある体験を提供することを重視しています。趣味嗜好しこうが多様化する中、「One to One/Only One」のきめ細かい対応を実現するための基盤を強化していく必要がありました。

五十嵐幸司(いがらし・こうじ)
三井住友トラストクラブ株式会社
(ダイナースクラブカード発行会社)
代表取締役社長
1986年に大阪大学経済学部を卒業し、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。2015年三井住友トラストクラブ常務取締役に就任。19年より現職。

【水野】近年は、顧客接点からのデータ取得・蓄積・分析技術の進化により、顧客側も自分の嗜好やニーズに合う商品、サービスが提示されることを当たり前に期待するようになりました。その意味でも、確かなCXのデザインが企業の競争力に直結する状況が生まれています。

【五十嵐】「ダイナースクラブの会員でよかった」という感動をお届けする上で一つ課題となっていたのが、情報の分散化です。営業、コールセンター、コンシェルジュデスク・トラベルデスクといった部門ごとに情報が管理され、それぞれの担当者は素早く適切な対応ができても、全体としてパーソナライズされた一貫性のある顧客体験の提供が課題でした。

【水野】貴社のご担当者さまにヒアリングをさせていただいた際に、お客さまに最高のサービスを提供したいが、それを実現する効率的な情報共有の仕組みが十分ではないとの声もありました。

【五十嵐】お客さまの立場になれば、ダイナースクラブはダイナースクラブであって、セクションやどの社員かは関係ない。一貫したブランド体験の提供は極めて重要なテーマでした。

【水野】そこで、どんな場面でも専任のコンシェルジュがいるかのようなサービスを実現する。そうしたコンセプトを設定し、プロジェクトを推進してきましたね。CX向上には人や組織の変革も欠かせませんが、貴社においては、通常時間が掛かりプロジェクトの成否を決める大きな要素となる社内の意識改革が非常にスムーズだったことに驚かされました。「お客さまのために仕事をする」という価値観・マインドが全社に浸透していたからですね。

【五十嵐】ありがとうございます。私たちは創業以来、真に求められるものを追求する中で、世界初、日本初のサービスを開発してきました。お客さま目線の徹底は、当社の企業文化になっていると自負しています。

データには事業環境の変化の兆しが表れる

【水野】プロジェクト立ち上げの翌年には、全ての顧客情報を統合するシステムと、そのデータを活用した新しい顧客対応プロセスの運用が開始されました。私どもは、貴社の目指すお客さま対応の実現を、先端テクノロジーを活用して加速化すること、そしてテクノロジーによって新たに創出される価値の提供をご支援してきました。

水野美歩(みずの・みほ)
アビームコンサルティング株式会社
コンシューマビジネスユニット長 執行役員
プリンシパル
総合商社を経て、2000年にアビームコンサルティング入社。製造、金融、 流通、ITサービスなど幅広い業種に対して、CRM領域を中心とした戦略立案から改革実行までを支援。

【五十嵐】お客さまの属性やカードの利用状況、サービスの利用履歴などを一元的に管理、運用できるようになり、よりパーソナライズしたサービスの提供・提案が可能になりました。当初、情報入力が思うように進むか心配もありましたが、各所から情報が集まるほど上質なサービスができるようになる。すると皆がメリットを実感し、さらに情報入力が進むという好循環が生まれています。

【水野】組織としての相乗効果もあったわけですね。これまで多くの企業をご支援してきましたが、テクノロジーの活用によって創出された時間が、付加価値提案の時間として還元されている、非常に優れた事例だと思います。この成果のポイントは何でしょうか。

【五十嵐】やはり何のためのデジタル化かを考えることが大切です。当社が目指しているのは、デジタル化によって担当者の時間を捻出し、従来人が心を込めて行ってきたおもてなしの質を高めることです。システムを活用して自ら積極的に付加価値を追求する組織となっていくことが大事で、実際データと当社の目利き力を融合させることによって、オンリーワンの提案を行えるようになってきています。

【水野】素晴らしい。コロナ禍で生活者の価値観や行動は大きく変化しました。今、企業に求められるのは、膨大な行動情報から得られる示唆への機動的な対応、そして、より社会的意義のある新たな価値の提供だと考えます。貴社ではAIも活用し、お客さま自身が気付いていない志向や知的好奇心を満たす提案を強化されていますね。また、「ダイナースクラブ アーティストサポートプログラム」など、顧客と共創型での社会貢献活動も推進されています。

【五十嵐】コロナ禍で私がデータ活用の効用として感じたのは、「コロナ禍においても安心して休暇を楽しめるサービスや提案はあるか」といった個々のご要望を総合することで、事業環境の変化の兆しが見えてくるということでした。今後さらに、お客さまの真のニーズを察知して、タイムリーなご提案で信頼関係を構築していきたいと考えています。

「ここでしか、見つけられないものがある。」というメッセージを全社一丸で具現化していきます。(五十嵐氏)
確かなCXのデザインが企業の競争力に直結する。そんな状況が生まれています。(水野氏)

【水野】これまでパイオニアとしてさまざまなサービスを創出されてきた貴社が、より優れた顧客体験、より豊かな生活を提供していく、今後もその変革を共に進めるパートナーでありたいと考えています。アビームコンサルティングでは、事業変革の構想立案からCXのデザイン、それを支えるテクノロジーの導入・活用、人材育成などを一貫して支援しています。今後も貴社ならではの施策を二人三脚で進めていければと思っています。

【五十嵐】ありがとうございます。当社のブランドメッセージである「ここでしか、見つけられないものがある。」を具現化すべく、これからもダイナースクラブならではのサービスを生み出していきたい。先が読めない時代の中でも、チャレンジを続けていきたいと思います。